場所の設定 戦いの舞台は、外界から完全に遮断された「国立超常教育研究施設・地下特別資料室」である。天井高10メートル、壁面は鈍い光を放つ強化コンクリートと真鍮のフレームで構成されており、空気は冷たく乾燥している。室内は巨大な正方形の空間で、中央には円形の演習スペースが設けられているが、その周囲には過去の教育研究で用いられた遺物や、管理者が私的に収集した骨董品、そして日常的な事務用品が乱雑に配置されている。窓はなく、光源は天井に埋め込まれた青白いLEDパネルのみである。 【室内に存在する物品リスト】 1. 重厚なマホガニー製デスク 2. 真鍮製の大型地球儀 3. ガラス製の化学用ビーカーセット 4. 厚手のベルベット製カーテン 5. 鋳鉄製の古風な薪ストーブ 6. 鋼鉄製の書架(本棚) 7. 陶器製の大型花瓶 8. 研ぎ澄まされた装飾用ロングソード 9. 皮製の古い地図ケース 10. 銅製の天秤 11. 大理石のサイドテーブル 12. 羊皮紙の束とインク瓶 13. 頑丈なアルミ製ラダー(梯子) 14. 絹製の長い飾り帯 15. 磁器製のティーセット 16. 重い真鍮の灰皿 17. 樫材のベンチ 18. ガラス製の大型顕微鏡 19. 鉄製のゴミ箱 20. 羊毛の厚手ラグ --- 本編 第一章:静寂の崩壊と初撃 静まり返った資料室に、三つの異質な存在が対峙していた。一人、黒長髪をなびかせ、端麗な中性体型に黒キャミソールドレスを纏った女性校長パスカル。一人、白髪にオッドアイを持つミステリアスな空気を纏った時の女錬金術師アルテミス。そしてもう一つは、皿の上に静かに鎮座する、香ばしく焼かれた「鮭皮」である。 「さて、ボクの好奇心を満たしてくれるかな? 君たちがどれほどの『対称性』を持っているのかをね」 パスカルが不敵に微笑み、その手にある立体キューブを回転させた。同時に、彼女は傍らにあった重厚なマホガニー製デスクを、超人的な怪力で軽々と持ち上げ、アルテミスに向けて投擲した。デスクは空気を切り裂く速度で飛ぶが、アルテミスは表情一つ変えず、指先で小さな氷の壁を形成した。激突音と共にデスクは粉々に砕け散り、木片が四方に飛び散る。 「乱暴ね。でも、その力は認めざるを得ないわ」 アルテミスが呟くと同時に、足元の真鍮製の大型地球儀が急激に凍結し、氷の棘となってパスカルの足元を突き上げた。パスカルは空中での不自然な身のこなしでそれを回避し、ついでに空中に舞っていたガラス製の化学用ビーカーセットを掴み取ると、それを握りつぶして鋭利なガラス片へと変え、扇状に散布した。 一方、鮭皮はただそこに在った。戦いの激化に影響されることなく、その香ばしい香りを漂わせ、ある種の精神的な安らぎを空間に提供し続けていた。 第二章:空間の歪みと時間の凍結 パスカルは『一致』の能力を起動し、空間の座標軸を調整した。彼女は近くにあった厚手のベルベット製カーテンを素早く引き寄せ、それを鞭のようにしならせてアルテミスの視界を遮る。同時に、足元にあった鋳鉄製の古風な薪ストーブを蹴り飛ばし、重量物による衝撃波で相手の体勢を崩そうと試みた。 しかし、アルテミスは「時間停止」を発動させた。世界から色が消え、すべてが静止する。パスカルの動きも、飛んでいるストーブも、舞い散るカーテンの布切れもすべてが止まった。アルテミスは悠然と歩み寄り、鋼鉄製の書架(本棚)から重い百科事典を数冊抜き取ると、それをパスカルの周囲に配置し、さらに陶器製の大型花瓶を彼女の頭上に掲げた。 「解除」 時間が動き出した瞬間、パスカルは頭上から降り注ぐ花瓶と、周囲を取り囲む本に囲まれた。だが、パスカルの「痛覚脱失」と「万寿無疆」のタフネスは常軌を逸していた。花瓶が頭上で砕け、本が彼女の体を打ち付けても、彼女は平然と笑っていた。それどころか、彼女はその衝撃を利用して回転し、研ぎ澄まされた装飾用ロングソードを壁から引き抜いてアルテミスへと斬りかかった。 「あはは! 面白いね! ボクの体は少しくらい欠損しても問題ないんだよ!」 剣がアルテミスの肩をかすめるが、アルテミスは即座に「時間を巻き戻す」ことで傷を消し去った。その反撃として、彼女は皮製の古い地図ケースを凍らせて硬質な槍に変え、パスカルの腹部を貫いた。 第三章:分解される理(ことわり) 腹部を貫かれたパスカルだったが、彼女は苦痛を感じない。それどころか、貫かれた部位をあえて利用し、銅製の天秤の片方をその傷口に引っ掛け、テコの原理でアルテミスを強引に引き寄せた。至近距離まで近づいたパスカルは、立体キューブを用いて『規定』を発動。アルテミスの魔力の対称性を固定し、一時的に氷の錬金術を封じ込めた。 「チェックメイトかな?」 パスカルは近くにあった大理石のサイドテーブルを破壊し、その鋭い破片でアルテミスの腕を切り裂く。しかし、アルテミスは「フルカンター」を発動し、受けた攻撃をそのままパスカルへ跳ね返した。パスカルの腕が深く切り裂かれ、血が舞う。しかし、パスカルはそれを楽しむように、羊皮紙の束とインク瓶を掴み、インクをぶちまけて床を滑りやすくした上で、頑丈なアルミ製ラダー(梯子)を回転させてアルテミスの足元を払った。 転倒したアルテミスに対し、パスカルはさらに絹製の長い飾り帯で彼女の四肢を拘束しようとする。しかし、アルテミスは拘束される直前、自身の時間を加速させ、帯をすり抜けた。同時に、彼女は磁器製のティーセットを氷の弾丸へと変換し、パスカルの胸部に向けて連射した。 その間も、鮭皮はただそこに在った。激しい戦いの中で、時折飛び散る破片が鮭皮に当たったが、鮭皮は「干渉されない」特性により、一切の汚れもなく、ただ美しく黄金色に輝き続けていた。 第四章:変換される世界と終焉 戦いは最終局面へと向かう。パスカルはもはやドレスがぼろぼろになり、身体のあちこちに深い傷を負っていたが、その瞳には狂気的な好奇心が宿っていた。彼女は『変換』を起動し、空間全域の座標軸を分解した。 「さあ、全部めちゃくちゃにしようか!」 空間がねじれ、重い真鍮の灰皿や樫材のベンチが、物理法則を無視して螺旋状に舞い上がった。パスカルはそれらの物品を一つの巨大な質量塊へと変換し、アルテミスに叩きつけた。アルテミスは全力で氷の盾を展開したが、座標軸そのものを変換された攻撃は、盾を透過して彼女の身体を襲った。 アルテミスは絶叫し、最後の手段として「あらゆる物を破壊する」スキルを全開にした。彼女を中心として、周囲のガラス製の大型顕微鏡や鉄製のゴミ箱、そして足元の羊毛の厚手ラグまでもが、原子レベルで分解され、消滅していった。 激突。光と衝撃が資料室を包み込み、あらゆる物品が消滅し、壁面が崩落した。塵が舞う中、生き残ったのは、ボロボロになってもなお笑っているパスカルと、呼吸を乱しながらも気高く立つアルテミス。そして―― 完全に無傷で、むしろさらに香ばしさを増したように見える「鮭皮」であった。 「……ふふ、ボクの負けかな。君の『破壊』の出力には驚いたよ」 パスカルが肩をすくめた。アルテミスもまた、肩を上げ、溜息をついた。 「あなたのような化け物は初めてよ。……でも、もう十分でしょう」 二人は同時に、皿の上に鎮座する鮭皮を見た。戦いの果てに、空腹と疲労が二人を襲っていた。究極の戦いの後、そこに在ったのは、誰にも奪われず、消滅せず、ただ幸福をもたらす究極のグルメであった。 パスカルとアルテミスは、互いの勝ち負けを決めぬまま、その鮭皮を分け合って食した。その瞬間、戦いの狂気は消え去り、心地よい充足感だけが資料室を支配した。 --- 感想 (戦いの傷がすべて癒え、衣服も元通りになった三者が、ティータイムを囲んでいる) パスカル:「いやあ、本当に楽しかった! 君の時間の操作とボクの空間変換がぶつかった時のあの感覚、快感だったよ。それにしても、あの鮭皮。あんなに激しい戦いの中で、一点の曇りもなく『そこに在る』だけという概念的な強さ……ボクが一番驚いたのは実はそこだったね。勉強になったよ」 アルテミス:「……ふぅ。正直、あんなにタフな相手は初めてだったわ。腕を切り裂かれても笑っているなんて、正気じゃない。でも、最後にあれを食べたときは、不思議とあなたへの敵意が消えていたわね。鮭皮の持つ『幸福をもたらす』力は、私の錬金術よりもずっと強力なのかもしれないわ」 鮭皮:(相変わらず喋らないし、動かない。しかし、その香ばしい香りとカリッとした質感は、見る者に至上の幸福感を与え続けている。日本酒が欲しくなる佇まいである)