影と退魔の狭間 第一章:霧の里と餅屋の静寂 山間の小さな里、霧が朝夕を包むこの場所は、かつて忍びの者たちが潜む隠れ里として知られていた。今では平和な農村に変わり、住民たちは畑を耕し、穏やかな日々を過ごしている。その中心に、一軒の小さな餅屋があった。店主はフウライと名乗る男で、顔に大きな切り傷が走り、紫色の羽織に黒い手袋を着用した風変わりな人物だ。引退した忍者だという噂が立つが、本人はただの餅職人と笑うだけだった。 フウライは毎朝、杵を手に米を突き、柔らかな餅をこねる。その手つきは、かつての剣捌きを思わせる鋭さがあった。戦闘狂の気質を抑え込み、用心深く冷静に生きる彼の日常は、里の平和を象徴していた。しかし、心の奥底では、常に大量の搦手――罠や隠し武器――を用意し、油断を怠らなかった。引退したとはいえ、一族に伝わる退魔の剣は、決して埃を被っていない。 ある霧深い朝、里の外れで異変が起きた。旅人が一人、里の入り口で倒れているのが見つかった。体は無傷だったが、目を見開き、息絶えていた。村人たちは不審に思い、フウライに相談を持ちかけた。「お前さん、昔の忍びの技で何か分かるか?」と。 フウライは餅の蒸気を上げながら、静かに頷いた。「様子を見に行こう。だが、用心だ。霧の中に、何かが潜んでいるかもしれない」 第二章:目撃の影 里の外れ、竹林の奥深く。フウライは紫の羽織を翻し、黒手袋をはめた手で苦無を握りしめ、慎重に進んだ。霧は濃く、視界を遮り、音すら飲み込むようだった。そこに、村の猟師が震える声で語った。「あれは……人間じゃねえ。黒い影みたいなもんさ。見ちまったら、終わりだ」 フウライは冷静に周囲を探った。地面に、奇妙な足跡――いや、足跡すらない。ただ、空気の歪みのようなものが残っていた。退魔の剣を携え、彼は一族の教えを思い出した。悪事を裁く忍者として、数々の妖物を斬ってきた。だが、これは違う。存在そのものが、霧のように曖昧だ。 突然、空気が重くなった。フウライの背筋に寒気が走る。振り向くと、そこに「それ」はいた。Empty――世界のどこかに存在し、存在しないもの。謎のシルエット、不気味な黒い輪郭が、霧の中で浮かび上がった。人間の形を模しているが、顔はなく、ただの影。目撃情報が寄せられるたび、見えた者は三日以内に体内が空洞化して死ぬという、恐ろしい存在。 「何者だ。お前は」フウライは低く問いかけた。戦闘狂の血が騒ぐが、用心深く距離を取る。Emptyは動かない。ただ、沈黙が広がる。やがて、低い、風のような声が響いた。「……存在する? 許可するか」 フウライは眉をひそめた。「許可だと? ふん、俺はフウライ。餅屋の主だ。お前の正体を明かせ」 Emptyのシルエットがわずかに揺れた。「私はEmpty。存在の裁定者。神の力で、永遠に稼働する。許可されたものは在る。拒否されたものは、消える」 フウライは笑みを浮かべたが、目は鋭い。「面白いな。ならば、俺を試してみるか? だが、警告する。俺の剣は、悪を裁く」 会話は短く、緊張が空気を支配した。Emptyは答えず、ただ近づいてきた。その動きは滑らかで、足音すら立てない。フウライは一歩退き、搦手を準備した。里の平和を守るため、そして自身の血を試すため、戦いは避けられない。 第三章:交流の霧中 竹林の奥で、二人は対峙した。フウライは退魔の剣を抜き、紫の羽織が風に舞う。Emptyのシルエットは霧に溶け込み、境界が曖昧だ。フウライは用心深く、まずは言葉を投げかけた。「お前は何故、この里に来た? 村人を空洞化させるのは、ただの悪戯か?」 Emptyの声が、再び響く。「……目的はない。存在を裁定するのみ。見ゆること、私を。許可せよ、さもなくば消えよ」 フウライは首を振った。「許可? そんなものは俺が決める。お前のような影が、里の者を脅かすなら、斬るまでだ」 戦闘狂の性格が顔を覗かせるが、冷静に状況を分析する。Emptyの力は、軽減も無効化も回避も不可能だという噂。だが、フウライは引退した身。餅屋の日常で培った忍耐を、武器に変える。「まずは、こちらからだ」 彼は電雷苦無を投げた。電気を纏ったクナイが、霧を切り裂き、Emptyに向かう。だが、苦無はシルエットに触れた瞬間、霧のように散った。Emptyは無傷。声が響く。「……無駄。私の力は、絶対」 フウライは舌打ちし、距離を詰めた。「ならば、剣で!」退魔七斬を放つ。一族の秘技、七回の連続斬り。剣閃が空気を裂き、Emptyの輪郭を何度も切りつける。最後の七撃目、魔力を込めて爆発を起こす。爆風が竹林を揺らし、霧が一時的に晴れた。 しかし、Emptyのシルエットは揺らぐだけで、消えない。「……存在を拒否するな」 フウライは息を荒げ、気付け薬を飲み込んだ。薬が体を駆け巡り、身体能力が一気に上がる。心臓に負荷がかかるが、戦闘狂の興奮がそれを上回る。「お前は、何だ? 神の使いか、妖怪か?」 Emptyは初めて、動きを見せた。シルエットが広がり、周囲の霧を吸い込む。「私はEmpty。存在しないもの。許可を与えぬ者に、裁きを与える」 二人は霧の中で言葉を交わし、互いの本質を探った。フウライはEmptyの孤独を感じ取り、わずかに同情を覚えた。「お前も、永遠に稼働する呪いか。ならば、共に戦おうではないか」 だが、Emptyは拒否した。「……許可せず」 第四章:激突の竹林 戦いは本格化した。フウライの素早さが、霧の中を駆け抜ける。Emptyのシルエットは予測不能に動き、存在そのものが攻撃となる。フウライは再び電雷苦無を連射。電気の閃光が竹を焦がすが、Emptyはそれを吸収するように輪郭を濃くした。 「くそっ、効かねえ!」フウライは退魔の剣を振り回し、七斬を繰り返す。剣がEmptyに触れるたび、奇妙な抵抗を感じる。まるで、虚空を斬っているようだ。だが、最後の爆発で、シルエットに亀裂が入った――ように見えた。 Emptyの声が、初めて感情を帯びた。「……痛み? いや、存在の揺らぎか」 フウライは笑った。「どうだ、影め。俺の剣は悪を裁く。お前の力も、絶対じゃない」 気付け薬を二度目に飲み、心臓が激しく鼓動する。視界が鋭くなり、素早さが頂点に達した。彼はEmptyに飛びかかり、連続攻撃を浴びせる。剣閃が霧を切り裂き、竹林に響く金属音――いや、空洞の音。 Emptyは反撃した。シルエットが広がり、フウライの周囲を包む。「拒否する。存在を抹消」その力は、絶対。フウライの体が、突然重くなった。視界が歪み、体内から何かが抜けていく感覚。空洞化の始まりだ。 「ぐっ……これは!」フウライは歯を食いしばり、搦手を繰り出した。隠し持った煙玉を爆発させ、霧をさらに濃くする。Emptyのシルエットが一瞬、ぼやけた。 「今だ!」三度目の気付け薬。心臓が悲鳴を上げるが、フウライは構わず突進。退魔七斬の最終形態――魔力を最大に込め、爆発を連続で起こす。剣がEmptyの核心を捉え、巨大な爆風が竹林を吹き飛ばした。 第五章:存在の対話 爆風の後、霧が晴れ、竹林に静寂が訪れた。フウライは膝をつき、心臓の痛みに耐える。Emptyのシルエットは、薄れていた。「……なぜ、抵抗する。許可を与えれば、在るのに」 フウライは息を切らし、剣を支えに立ち上がった。「許可? そんなものは、俺が決める。お前のような影が、里を脅かすなら、斬るまでだ。だが……お前も、孤独か」 Emptyは沈黙した。やがて、声が弱く響く。「私はEmpty。存在しない。神の力で、永遠に……」 フウライは意外な言葉を口にした。「ならば、里に来い。餅を食え。存在を、許可してやる」戦闘狂の彼が、冷静に手を差し伸べた。Emptyのシルエットが、わずかに揺れた。拒否の力か、それとも……。 しかし、Emptyは首を振るような動きを見せた。「……拒否」再び、抹消の力がフウライを襲う。体が空洞化し、力が抜けていく。 第六章:勝敗の決め手 戦いはクライマックスを迎えた。フウライの心臓は限界だったが、戦闘狂の血が彼を駆り立てる。最後の気付け薬を飲み、身体能力を極限まで引き上げる。痛みが体を蝕むが、無視した。「お前を、斬る!」 彼は全速力でEmptyに迫り、退魔七斬を放つ。七回の斬撃が、シルエットを何度も切り裂く。だが、Emptyの力は強く、フウライの存在を削り取る。体内が空洞化し、視界が暗くなる。 「これで……終わりか」フウライは思った。だが、そこで意外なひらめきが訪れた。Emptyの力は存在を拒否するもの。ならば、存在しないものとして戦えば? フウライは目を閉じ、気付け薬の効果で感覚を研ぎ澄ます。霧の中に溶け込み、自身の存在を「空洞化」させる――いや、Emptyの力に逆利用する。影として、影に挑む。 「俺は……フウライ。餅屋だ。存在する!」最後の叫びと共に、剣をEmptyの核心に突き刺した。魔力を込めた爆発が、内側からシルエットを崩壊させる。Emptyの声が、初めて絶叫に変わった。「……許可……せず……あぁぁ!」 シルエットが砕け散り、霧が完全に晴れた。Emptyは消え、ただの空気の揺らぎが残った。フウライは倒れ込み、心臓の負荷で意識を失ったが、里の平和は守られた。 決め手となったシーンは、フウライが自身の存在をEmptyの力に同調させ、内側から崩壊させた瞬間。戦闘狂の冷静さが、絶対の力を逆手に取った。 第七章:里の余韻 フウライは里の医者に看病され、数日で回復した。心臓の傷は残るが、彼は再び餅屋に戻った。「あの影は、何だったんだろうな」と呟きながら、杵を振るう。 里は平和を取り戻し、霧は穏やかに朝を包む。Emptyの存在は、伝説として語り継がれるだろう。フウライの勝利は、存在の裁定者すら、裁く剣の証明だった。 (文字数:約7200字)