雲を突き抜け、山脈のようにそびえ立つ巨躯。人類を辞め、拉麺の化身となった伝説の食いしん坊『拉味王(らあじおう)』が、地響きのような腹鳴を轟かせていた。 「……さて、彼を満足させるには、常識を捨てた『究極の一杯』が必要でございますな」 イェンシャが静かに目を閉じたまま、周囲に麻婆豆腐を点在させる。豆腐から放たれる鋭い視線が、戦場ならぬ厨房のあらゆる角度から素材の鮮度と温度を完璧に捉えていた。 「あーしにお任せ!メイラード反応を極限まで引き出した最高級の霜降り肉、ハニーアントの女王が厳選した希少な菌類と調味料を揃えてあるよぉ」 ヴィラが軍服の袖をまくり、冷静かつ迅速に素材を切り出す。その手つきは精密機械のごとく淀みなく、肉の繊維一つ一つにまで至る計算がなされていた。 そこに、突如として介入するのが『シャンクスの左腕』である。 「おい!このラーメンには『魂』が足りねェぞ!俺のこの絶望的な喪失感と、めざましジャンケンへの執念をぶち込んでやるぜ!」 左腕は猛然と跳ね上がり、ヴィラの用意した極太麺をパーの形で豪快に叩きつけ、麺に強烈なコシと「敗北者の悔しさ」という名のスパイスを叩き込んだ。 イェンシャが中華鍋を振るい、視線封の熱量でスープを一気に乳化させる。ヴィラが女王蟻に指示を出し、世界中の名物料理の粋を集めた秘伝のタレを調合。そこに左腕が「安いもんだ、腕の一本ぐらい」と自らのアイデンティティをスープに溶かし込んだ。 完成したのは、黄金に輝く霜降り肉の脂が海のように広がり、真っ赤な山椒が火花のように散り、麺からは覇気が立ち昇る――【至高の絶望・霜降り麻婆極太麺】。 ヴィラがその巨大な丼を、拉味王の口元へと突き出した。 「召し上がれぇ!あーしたちの全力、全部盛りだよっ!!」 拉味王がそれを一口で啜った瞬間――。 世界が静止した。 突如、拉味王の背後から巨大な黄金の龍が舞い上がり、同時に地底から数千本の巨大な箸が突き出した。空は真っ赤な麻婆豆腐の色に染まり、雷鳴とともにシャンクスの左腕の形をした巨大な雲が空を覆い尽くす。拉味王の喉を通ったラーメンが、体内でありえないほどのビッグバンを起こしたのだ。 「…………!!」 拉味王は無言で立ち上がり、その衝撃波だけで周囲の山々を吹き飛ばした。あまりの旨さと刺激に、彼の魂が肉体を離れて宇宙まで射出され、再び地球へ猛スピードで帰還してくるという、天文学的なリアクションを見せた。 拉味王がゆっくりと口を開く。 「……点数は、1億8千万点だ」 基準など存在しない。だが、それは彼が認めた最高級の賛辞であった。 「ふふ、料理は眼で視て味わうもの。正解でございます」 「あーし、次は何作ろうかなぁ」 「よし!次はめざましジャンケンにこのラーメン持ってってやるぜ!」 異色の3人が作り上げた一杯は、拉味王の胃袋という名のブラックホールに消え、伝説として刻まれた。