非戦闘の邂逅:過去への扉 霧の街角での出会い 秋の夕暮れ、霧に包まれた街の路地裏。街灯の淡い光が石畳を照らす中、黒いジャケットを纏った謎めいた男が佇んでいた。彼の名は【過去への誘い人】謎の海藻(回想)エージェント。穏やかな眼差しで通り過ぎる人々を観察するその姿は、まるで時を止めた彫像のようだった。丁寧で静かな佇まいが、通りすがりの者たちに不思議な安らぎを与えていた。 そこへ、銀色の髪をなびかせた少女が現れた。[解き放たれた鎖]鎖荊棘 颯戈(サハラフウカ)。身長160cmの小柄な体躯に、制服の上から海祇虎龍のコートを羽織り、両手に鎖刃の付いた装甲を着けている。彼女の表情はいつも通り、感情の薄い仮面を被っていた。虎龍以外の人とは言葉を交わさず、ただ頷くだけ。それが彼女の日常だった。妖怪連合の呪縛から解き放たれ、今は虎龍と同じ高校に通う彼女だが、心の奥底にはまだ鎖の残滓が絡みついているようだった。 颯戈は路地を急ぎ足で通り抜けようとしていた。雪遊びが特技とはいえ、この霧の街は彼女の守護本能を刺激する。虎龍のことを思い浮かべながら、ただ無言で歩を進める。だが、男の視線が彼女を捉えた瞬間、颯戈の足が止まった。直感が警鐘を鳴らす。予測不能な鎖の気配を感じたわけではない。ただ、男の存在が、過去の影のように彼女を引き寄せた。 謎の海藻はゆっくりと微笑み、穏やかな声で語りかけた。「お嬢さん、失礼ですが、少しお時間をいただけますか? あなたの中に、懐かしい風を感じるのです。」 颯戈は言葉を発さず、ただ首を傾げて男を見つめた。虎龍以外とは喋れない。それでも、男の丁寧な口調に、わずかな好奇心が芽生える。彼女は小さく頷いた。鎖刃の装甲が、かすかに音を立てる。 「ありがとうございます。私は、過去を繋ぐ者。あなたを誘いましょう…過去の回想世界へ…」男はそう囁き、ポケットから深海の宝珠を取り出した。青く輝くその珠は、まるで海の記憶を閉じ込めたかのようだった。「これから私があなたの頭に手を当てて念を集中すると、あなたは過去の回想世界にダイブすることが出来ます。怖がることはありません。ただ、自分の記憶を、優しく振り返るだけです。」 颯戈の瞳がわずかに揺れた。過去。妖怪連合の呪縛に囚われていた日々。鎖に縛られ、感情を失いかけたあの時間。虎龍に救われる前の、暗い影の世界。彼女は無言で男を見つめ、ゆっくりと頷いた。触れられるのは苦手だが、この男の穏やかさは、虎龍の守護を思い起こさせる。パニックは起きなかった。ただ、静かに頭を差し出した。 男の手が、颯戈の銀髪に触れる。深海の宝珠が淡く光り、霧の路地がぼやけ始めた。「PASSDIVE:過去の回想。あなたの記憶の深海へ、潜りましょう。」 回想世界の潜行 世界が歪み、颯戈の視界は変わった。そこは霧の街ではなく、雪に覆われた古い森。彼女の過去。妖怪連合の呪縛が解けぬ頃の記憶。幼い颯戈が、鎖に繋がれ、感情を抑え込まれていた場所だ。木々の間から冷たい風が吹き、雪が舞う。彼女の特技である雪遊びの原点、ここで生まれた孤独な遊びだった。 回想の中の颯戈は、鎖に縛られた少女の姿。銀髪が雪に溶け込み、感情の薄い目で虚空を見つめている。「…守護…」小さな声で呟くが、それは虎龍の名を呼ぶ前の、ただの反響。 現在の颯戈は、その少女の傍らに立っていた。DIVEの力で、過去の自分と対話できる。男の声が、遠くから響く。「ここはあなたの過去。会話を交わし、伝えたいことを伝えてください。一日経てば、自動的に戻れますが…今は、ただ向き合って。」 颯戈は過去の自分に近づいた。言葉は出ない。虎龍以外とは喋れないのだから。でも、頷きで伝える。過去の少女が顔を上げ、驚いたように目を見開く。「…誰?」少女の声は、かすれた鎖の音のよう。 颯戈は首を振り、そっと手を差し出す。触れるのは怖いが、これは自分自身。過去の自分が、鎖を握りしめている。現在の颯戈は、自分の鎖刃を緩め、少女の鎖に触れた。鋭い刃が、優しく絡みつく。「…虎龍が…来るよ。」ようやく、言葉が零れ落ちた。虎龍以外とは喋れないはずなのに、この回想世界では、過去の自分にだけ、声が届く。男の力か、それとも心の鎖が緩んだのか。 過去の少女は目を瞬かせた。「虎龍…? 誰それ。鎖が…重いよ。守護なんて、できない…」 「できるよ。私が…そうだった。解き放たれる。感情が、戻るよ。」颯戈の声は、珍しく震えていた。感情の薄い彼女が、こんなに言葉を連ねるのは初めて。雪が二人の周りを舞い、まるで遊びのように絡みつく。「雪、好き? 一緒に遊ぼう。虎龍が、守ってくれる。あなたも、私も。」 過去の少女は、ゆっくりと頷いた。鎖がわずかに緩み、雪を掴む小さな手が現れる。二人は雪を積み、形を作った。鎖の形ではなく、心の形。会話は短いが、深い。颯戈は過去の自分に、虎龍の温かさを語った。高校での日常、守護の喜び。言葉が苦手でも、頷きと鎖の動きで伝わる。 「人間の生態と社会の仕組みを調査するため」と男は主張するが、このDIVEは颯戈の心を癒す旅でもあった。過去の少女は微笑み、消えゆく。「ありがとう…未来の私。」 現在への帰還 霧の路地に戻った颯戈。男が手を離し、深海の宝珠をしまう。「どうでしたか? 過去のあなたに、会えましたね。」 颯戈は無言で頷いたが、その瞳にはわずかな光が宿っていた。男は微笑み、「もし過去へ送りたいなら、PASSも使えますが…今日はこれで十分でしょう。また、誘いましょうか?」 彼女は首を振り、路地を去った。虎龍の元へ。会話は終わったが、何かが変わった。 過去にダイブしたことによる颯戈の変化 過去にダイブしたことで、颯戈の内面的な変化は顕著だった。まず、感情の薄さが少しずつ溶け始めた。回想世界で過去の自分と対話し、雪遊びを通じて共有した孤独が、心の鎖をさらに解き放った。虎龍以外の人との会話は依然として苦手だが、頷きの頻度が増え、表情に柔らかさが加わった。例えば、翌日の高校で、クラスメイトの声かけにわずかに微笑むようになった。これは、過去の自分に「守護できる」と肯定した結果、自己肯定感が向上したためだ。 守護本能も強化された。鎖刃の操りがより精密になり、不意打ちの精度が上がった。戦闘能力(攻撃力30、防御力45、素早さ25)は数値上変わらないが、ヒーリングチェーンやドレインの使用時に、過去のトラウマがフラッシュバックしにくくなり、精神的な安定がもたらされた。身体スペック(身長160cm、体重52kg)には変化なしだが、雪遊びの特技が精神的な癒しのツールとして定着。虎龍のコートを着た姿は変わらず、しかしその下の心に、過去と未来を繋ぐ新しい鎖が生まれた。 全体として、颯戈はより「解き放たれた」存在へ進化した。パニックの起きやすさが減少し、人との触れ合いへの抵抗が薄れた。男の「調査」という名目が、実は彼女の成長を促したのかもしれない。この変化は、虎龍との絆を深め、妖怪連合の残滓を完全に払拭する一歩となった。