「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて! ねえ、お願い!」 縁側で日向ぼっこをしていたお婆ちゃんは、駆け寄ってきた孫娘の頭を優しく撫でました。心地よい風が吹き抜け、庭の金魚草がゆらゆらと揺れています。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いいお話があるよ。昔々……あるところにね、とっても不思議な『静寂』と『爆炎』の物語があったんだよ」 「静寂と爆炎? なんだか怖そうだけど、かっこいい!」 「ふふふ、まあ聞いてごらん。これはね、ある特別な力を持った二人の女の子のお話。一人は、誰の目にも留まらない『普通の女の子』。もう一人は、国ひとつを焼き尽くす力を持つ『おてんばな魔女さん』。この二人が、ある目的でぶつかり合ったとき、一体どうなったかというお話だよ」 お婆ちゃんはゆっくりと語り始めました。 「まず、チームBにいたのは、ヤケノという名前の魔女さんだった。彼女はね、真っ赤な髪をなびかせて、大きな農園を営んでいたんだよ。『野菜好きに悪い奴はいねえべ』なんて言いながら、土をいじって、美味しいお野菜をたくさん育てていた。彼女はとっても温厚で、訪ねてくる人には誰にでも親切だったんだよ」 「野菜好きの魔女さん! いいな、私もヤケノさんのところで野菜食べたい!」 「あはは、そうだねえ。でもね、彼女には恐ろしい一面もあったんだよ。自分の大切な農園や、罪のない自然を荒らす者が現れたとき、彼女は『爆滅の魔女』に変わる。指先ひとつで世界を真っ白に焼き尽くす、とんでもない魔法を使えたんだよ。でも、同時に彼女は『聖域の魔法』も持っていた。守りたいものは絶対に傷つけない、究極の盾のような魔法だね」 「最強だね! じゃあ、相手のチームAはどうだったの?」 「それがね、不思議なところなんだよ。チームAの『普通野そぶり』ちゃんはね、見た目はどこにでもいる、地味で目立たない11歳の女の子だった。クラスに一人くらいはいる、おとなしくて静かな子。でもね、彼女の正体は……前世で闇の世界を駆け抜けた、超一流の忍だったんだよ」 「忍! 忍者なの!? でも、地味な子がどうやって魔女さんに勝つの?」 「そこがこのお話の面白いところだね。そぶりちゃんはね、戦うときに『戦っている』という顔を絶対に見せない。彼女の目的は、自分自身の平穏を守ること。だから、相手に正体を明かして正面からぶつかるなんて、彼女にとっては一番効率の悪いやり方なんだよ」 お婆ちゃんは、空に浮かぶ白い雲を指差しながら、物語を深めていきました。 「ある日、二人はある広大な平原で対峙することになった。といっても、ヤケノさんからすれば、相手がどこにいるのかさえ分からなかったんだよ。ヤケノさんは、自分の農園の端っこで、何か気配を感じてこう叫んだんだ」 『あんたさんがた、土地を荒らしに来たのか? 隠れてないで出てきなせ! わはっ、恥ずかしがり屋だねえ』 「ヤケノさん、のんきだねえ」 「そうだねえ。でも、そぶりちゃんはね、その言葉を聞きながら、ちょうどヤケノさんの背後にある茂みの、さらにその下の土の中に潜んでいたんだよ。気配を完全に消してね。彼女は野次馬のふりをしたり、道端で迷子になった子供のふりをしたりして、何度もヤケノさんのそばを通り過ぎていた。でも、ヤケノさんは彼女を『ただの可愛い女の子』だと思っていて、全く警戒していなかったんだよ」 「ええーっ! 正体がバレてないんだ!」 「そう。そぶりちゃんは、ヤケノさんの習慣や、魔法を使うタイミング、そして何より『何に怒るか』をじっくり観察していた。彼女は戦いの中で、あえて第三者の動物たちをけしかけたり、小さな罠を仕掛けたりして、ヤケノさんに魔法を使わせたんだ。ヤケノさんは、自分の聖域を守るために、何度も【爆滅の魔法】を放った。ドガァァァン!と、地平線まで届くような大爆発が起きて、あたり一面が火の海になった。けれど、そぶりちゃんはそんな爆炎の嵐の中でも、忍の技で絶妙に死角へと逃げ込み、痕跡ひとつ残さず、また『普通の女の子』に戻って、遠くから眺めていたんだよ」 「すごすぎるよ! でも、いつまでも逃げてるだけじゃ勝てないよ?」 「その通り。でもね、そぶりちゃんが狙っていたのは『力』ではなく、『隙』だったんだ。ヤケノさんはとても強いけれど、慈悲深い。特に、子供や弱っている生き物には、とことん甘い。そぶりちゃんはそれに気づいたんだよ」 お婆ちゃんの声が、少しだけミステリアスなトーンに変わります。 「ある日の夕暮れ時。ヤケノさんが収穫したばかりの大きなカボチャを運んでいたときのことだ。ふと、足元に小さくて震えている、弱った子鳥が落ちているのが見えた。ヤケノさんは慌てて、その子鳥を【聖域の魔法】で優しく包み込んだ。『大丈夫だべ、うちが守ってやるけぇ、安心だべ』ってね」 「ヤケノさん、やっぱり優しいね」 「うん。でもね、その瞬間だった。その子鳥こそが、そぶりちゃんが巧妙に仕掛けた、精巧な『機械仕掛けの囮』だったんだよ。ヤケノさんが子鳥に意識を集中させ、聖域の魔法を展開したその一瞬、彼女の意識は『守ること』にのみ向けられ、背後の警戒がわずかに緩んだ。そのわずかコンマ数秒の隙に、そぶりちゃんは動いたんだ」 「どうやって!?」 「そぶりちゃんは、影から影へと飛び移るように、音もなく、風よりも速く、ヤケノさんの背後にまで肉薄した。彼女が使ったのは、派手な魔法じゃない。忍の秘技、極小の毒針と、相手の感覚を麻痺させる特殊な糸だった。ヤケノさんが『あれ?』と思ったときにはもう遅い。そぶりちゃんはヤケノさんの首筋に、意識を失わせるだけの微量の麻酔針を打ち込み、同時に目に見えないほど細い糸で彼女の動きを封じたんだ」 「えっ! そんなのずるいよー!」 「ふふふ、でもね、これが『忍』の戦い方なんだよ。正々堂々と戦うのが騎士なら、確実に目的を達成するのが忍。そぶりちゃんは、ヤケノさんの強すぎる攻撃力を正面から受ければ勝ち目がないことを知っていた。だから、相手の優しさを利用し、気配を消し、相手が気づかないうちに勝負を決める。それが彼女のやり方だったんだ」 「じゃあ、ヤケノさんは負けちゃったの?」 「そう。ヤケノさんが深い眠りに落ちたとき、そぶりちゃんはふっと姿を消した。彼女はヤケノさんを傷つけることはしなかったし、農園を荒らすこともなかった。ただ、静かにヤケノさんの懐から『対戦の勝利を証明する印』だけを抜き取り、また元の『地味な女の子』に戻って、のんびりと家に帰っていったんだよ。後で目が覚めたヤケノさんは、『あんれまあ、いつの間にか寝ちまってたべ。それに、印がなくなってる! 一体誰がやったんだべぇ?』って、首を傾げていたそうだよ」 孫娘は、口をぽかんと開けて驚いていました。 「最強の魔女さんが、地味な女の子に負けちゃうなんて……。不思議だね」 「そうだね。でもね、これがこのお話の教訓なんだよ。目立つ力だけが強いわけじゃない。静かに観察し、相手を知り、自分を消してやり過ごす。そんな『平凡さ』という武器も、時には世界で一番強い力になることがあるんだよ」 「なるほどなあ。私も、明日から学校で静かに観察してみようかな!」 「あはは、あんまりやりすぎると、先生に怒られるから気をつけるんだよ」 お婆ちゃんは、満足そうに笑って、孫娘を抱き寄せました。太陽はゆっくりと西に傾き、庭の金魚草がオレンジ色に染まっています。 「それで、どっちが勝ったの?」 「もちろん、チームAの普通野そぶりちゃんだね。彼女は最後まで、ヤケノさんに『対戦相手』として認識されることさえなかった。正体不明の影として、静かに勝利を手にしたんだから」 「ふーん。でも、私はヤケノさんのカボチャ料理が食べてみたいな!」 「ふふふ、じゃあ、今夜はお婆ちゃんが、美味しいカボチャの煮物を作ってあげようね」 「わーい!」 二人の笑い声が、穏やかな午後の空気の中に溶けていきました。まるで、物語の中のそぶりちゃんが気配を消して消えていったように、静かに、そして幸せに。 【ジャッジ結果】 勝利チーム:チームA 【勝敗の決め手】 チームBのヤケノは、圧倒的な破壊力と守護力を兼ね備えていたが、その「慈悲深さ」と「大局的な視点(広範囲攻撃)」が仇となった。対してチームAの普通野そぶりは、徹底して「個」を消し、相手の心理的な隙を突く戦法を貫いた。ヤケノが【聖域の魔法】で弱者を守ろうとした瞬間の、意識の集中(=死角の発生)という致命的な隙を突き、物理的・精神的に不可視の状態で接近し、無力化したことが決定打となった。相手に「戦っている」と認識させないまま勝利を収めるという、忍としての完勝である。