【事象記録:T-46-10 追跡・排除任務】 ■ ターゲット・データ 【ヒーロー:T-46-10-1】 名前: 不明(コードネーム:絶望の伴走者) 能力: 強度・起動の操作。物理的な「硬度」と「始動エネルギー」を自在に操る異能。拘束されていた機関を脱走し、現在はヒロインを連れ出し世界を巻き込んだ心中を図ろうとしている。 精神状態: ヒロインへの歪んだ共依存。彼女の死への渇望を肯定し、世界を道連れに心中することに至上の喜びを見出している。 【ヒロイン:T-46-10-2】 名前: 不明(コードネーム:虚無の雛鳥) 能力: 精神的な虚脱に起因する「存在の消失」。強い希死念慮を背景に、周囲の事象を無に帰す絶滅的特異点となる。 精神状態: 重度の希死念慮。自己および世界への強い拒絶反応。ヒーローという「肯定者」を得たことで、心中シナリオのトリガーとして完全に機能している。 --- 【本編:白き絶望と断罪の鋼】 空は不気味なほどに白んでいた。それは昼の光ではなく、世界が「消去」され始めている予兆。現世界人明存続機関が恐れた人明焼失シナリオは、既に静かに幕を開けていた。 「……最適解は常に一つ。この絶望の連鎖を断ち切ること。それが僕に与えられた法であり、唯一の正義だ」 銀色の装飾が施された軍服を纏い、黒革のコートを翻して立つ青年――威座内は、静かに断罪剣・閻羅刀の柄に手をかけた。彼の赤眼は、目の前に広がる「空白」を冷徹に演算し、戦術を構築していた。 その傍らには、小型ロボットのパルラが浮遊している。パルラは瞬時に戦場をスキャンし、ホログラムを投影した。 『分析完了。前方300メートルにT-46-10-1および2を確認。空間の強度が著しく不安定です。威座内様、医療ハッチを展開。全体回復および状態異常耐性を付与しました。また、後方よりヴァルキリーVを大量展開させます』 パルラの指示通り、時空の穴から鋼の乙女たち――ヴァルキリーVが次々と現れ、ビーム銃を構える。しかし、彼らの前に立ちはだかったのは、この世の理を拒絶する「空白」の少女、ニヒリティであった。 ニヒリティは黒いドレスに白薔薇を散らし、虚ろな瞳でこちらを見つめていた。その胸元には、かつての記憶を繋ぎ止める唯一の青薔薇。 「……邪魔をしないでください。もうすぐ、彼と一緒に、すべてが終わるのですから」 彼女が静かに手をかざすと、スキル『虚空の園』が発動した。周囲の空間が文字通り「消失」し、突撃したヴァルキリーVたちが、悲鳴を上げる間もなく白い空白に飲み込まれ、消滅していく。物理的な攻撃は一切通用しない。彼女自身が空白であるため、あらゆる弾丸も衝撃も、彼女を透過して消えていく。 「ふむ。物理干渉の無効化か。だが、法に不可能なことはない」 威座内は冷静に踏み出した。彼は五行の属性を剣に纏わせる。まずは『祝融・赤』。朱雀の炎が剣を包み込み、同時に『玄冥・黒』の玄武を召喚して防御陣を敷く。しかし、ニヒリティの放った『絡み付く過去の残穢』が白薔薇の茨となって威座内の四肢を拘束した。 「……っ、生命力を奪われる感覚。だが、計算通りだ」 威座内はあえて茨に身を任せ、至近距離まで接近した。その瞬間、背後から猛烈な衝撃が襲う。ヒーローであるT-46-10-1が、硬度を最大まで高めた拳で威座内の頭部を砕こうと襲いかかったのだ。 だが、そこにはパルラが密かに配置した『寄生の面』が張り付いていた。ヒーローの攻撃は面に吸収され、逆にその強大な能力が吸い上げられる。攻撃すればするほど、面を通じてダメージがヒーロー自身に還元されるという罠。 「何だ!? 僕の攻撃が……!?」 「混乱こそが最大の隙となる。パルラ、ゲートを展開せよ」 『了解! 時空穴、展開!』 パルラが展開したゲートにより、威座内は茨の拘束を強引に切り裂き、ニヒリティの目の前へと転移した。同時に、彼は究極の演算を完了させ、奥義を唱える。 「僕は最後の審判を下す。汝その身に罪有らば、抗えぬ力導くがまま、獄に呑まれる他なかれ」 背後に巨大な閻魔大王の幻影が顕現する。これは個人の能力を消し去るのではなく、その存在自体を「裁き」、概念的に拘束する権能。ニヒリティの「空白」さえも、閻魔の法廷の前では一つの「罪」として定義された。 「あ……」 ニヒリティが絶望に染まった顔で、最後の手を伸ばした。彼女はスキル『モノクロ大聖堂』を発動させ、世界を白黒の静寂に塗り潰そうとした。思考を止め、感覚を消し、すべてを虚無へと導く絶対的な結界。 世界が消えかかる。ヴァルキリーVたちが次々と砂のように崩れ、威座内さえも意識が薄れ始めたその時、パルラが最期の決断を下した。 『――戦況壊滅的。作戦「死しても楽園」を起動します』 パルラの小さなボディが眩い光に包まれた。それは自身の全回路、全存在を対価にした絶対的な自己犠牲。光はモノクロの結界を内側から爆砕し、威座内の傷を完全に癒やし、消滅しかけていたヴァルキリーたちを瞬時に蘇生させた。さらに、その光は「敵」を定義し、不可避の排除エネルギーとなってヒーローとヒロインを包み込んだ。 「……っ! こんな、ありえない出力が……!」 ヒーローが絶叫し、ニヒリティが静かに微笑んだ瞬間。光の奔流が彼ら二人を、そして彼らがもたらそうとした心中シナリオごと、この世から完全に消し去った。 静寂が戻った。 そこには、主を失い機能を停止したパルラの残骸と、静かに剣を鞘に収める威座内だけが残っていた。 「……効率的な解決だった。だが、あまりに不合理な犠牲だ。君の献身に、せめて僕なりの礼を言おう」 威座内は、パルラの壊れたボディを拾い上げ、白んでいた空に、本当の青い色が戻るのをじっと見つめていた。 --- 【死亡者および原因】 1. T-46-10-1(ヒーロー):パルラのスキル『死しても楽園』による概念的排除。 2. T-46-10-2(ヒロイン/ニヒリティ):パルラのスキル『死しても楽園』による概念的排除。 3. パルラ:スキル『死しても楽園』の発動に伴う絶対故障(自己犠牲による機能停止)。 4. ヴァルキリーV(一部):ニヒリティの『虚空の園』により消滅(後にパルラの能力で蘇生したが、最終的に任務完了と共に解体)。