空を切り裂くような歓声が、巨大な円形闘技場を埋め尽くしていた。石造りの壁に反響する熱狂は、地鳴りのように観客の足元を揺らしている。今日、この地で決定されるのは、失われた聖域の支配権――すなわち「王位継承権」である。 「さあ、集まれ! 愉快で残酷な、運命のショータイムだ!」 華やかなアナウンスと共に、四人の挑戦者が中央の砂地に降り立った。 一人目は、金髪のボブヘアを揺らし、白きローブを纏った少女、シャイン。彼女は王女としての地位を捨て、自由を求めて旅してきた努力家である。手にした宝玉付きのロッドをぎゅっと握りしめ、緊張しつつも前を向いた。 「緊張するけど……頑張るよ! ファイト、おー!」 二人目は、極彩色の衣装に身を包んだ【王冠道化師】クラウン・クラウン。不自然に歪んだ笑みを浮かべ、頭上の王冠を不気味に光らせている。 「きんきら、王冠かぶっているよ。だから私は王様さ。みんな笑顔で踊りましょう!」 三人目は、赤いアフロヘアに真っ白な化粧。原色の衣装に身を包んだピエロ、ドナルド・マクドナルド。彼は陽気に笑いながらも、その周囲には不可思議な「字幕」が浮かび上がり、現実を書き換える不気味な静寂を纏っていた。 「ドナルドはうれしくなると強いんだよ! ははは!」 そして最後の一人。ロングコートに身を包み、表情の見えない仮面を被った怪異、キュリオス。その佇まいは静かだが、内側から溢れ出すのは人間を越えた高次元の知性と、獲物を定める冷徹な好奇心であった。 「ボクは君たちの構造が知りたい。……ふふ、面白いね」 審判の合図と共に、闘技場に激震が走った。 先制したのはクラウン・クラウンだった。彼は目にも止まらぬ速さでナイフを投擲する。しかし、そのナイフはシャインの頭上に忽然と現れたリンゴを正確に射抜いた。観客が笑いに包まれた瞬間、クラウンは「ひらり」とドレープを翻し、姿を消してシャインの背後に現れる。 「おやすみなさい!」 「わわっ! 『フラッシュ・ムーヴ』!」 シャインは瞬時に光へと化し、後方への急加速で回避。そのまま反撃に転じる。ロッドを突き出し、強烈な光弾を放った。 「『フラッシュ・グレネイド』!」 まばゆい光の弾丸がクラウンを襲うが、そこに割り込んだのはドナルドだった。ドナルドの周囲に【字幕:寒くなる】という文字が浮かび上がった瞬間、周囲の温度が急激に氷点下まで落下し、光の熱量を凍結させる。物理的な法則を無視した「字幕」の権能に、観客席から悲鳴に近い歓声が上がった。 「冷たいねえ! ドナルドは冷たいのが好きなんだ!」 ドナルドが陽気に跳ねる。だが、その背後から音もなく、異形の腕が伸びていた。キュリオスである。彼はドナルドの予測不能な字幕攻撃を、ただ「観察」することで適応していた。 「君の『概念的な干渉』……なるほど、構造が分かったよ」 キュリオスは【ソフトレシーバー】を発動させ、ドナルドが放った冷気の衝撃をそのまま倍加して跳ね返した。凄まじい衝撃波がドナルドを吹き飛ばし、闘技場の壁に叩きつける。同時に、キュリオスの腕は蛇のようにしなり、至近距離でクラウン・クラウンの懐に潜り込んだ。 「おっと、危ないね!」 クラウンは口から激しい火を吹く「火吹きショー」で対抗するが、キュリオスはそれを【エクストフレキシ】で受け流した。炎の流れを利用し、軸をずらしてクラウンの腹部に、結晶化した超硬度の拳を叩き込む。防御力ゼロの道化師にとって、それは致命的な一撃となった。 「あは……あはは……いいショーだった……」 クラウン・クラウンは、自らの芸のように軽やかに、そして静かに意識を失い、砂の上に倒れ伏した。 戦場に残ったのは、不屈の精神を持つシャイン、概念を操るドナルド、そして適応し続ける化物キュリオス。 「まだ、諦めないんだから!」 シャインは最大出力の魔力をロッドに込める。彼女の身体から眩い光が溢れ出し、闘技場全体を白銀に染め上げた。 「【奥義・シャイニングブリッツ】!!」 無数に降り注ぐ光の雨。それは回避不能な広範囲攻撃であり、ドナルドの字幕さえも塗り潰すほどの純白の暴力だった。ドナルドは【字幕:無差別に略奪する】ことで攻撃を吸収しようと試みるが、あまりの物量に処理が追いつかず、光の奔流に飲み込まれていく。 しかし、その光の絶頂において、キュリオスは笑っていた。 彼は戦いの中で、シャインの光魔法の周期、ドナルドの概念操作のラグ、そのすべてを「摂食」し、最適解へと変換していた。光の雨が彼に触れる直前、キュリオリオスの身体は結晶構造を組み替え、光を完全に透過・反射する「鏡面形態」へと変貌したのである。 「チェックメイトだ。君たちの本質は、もうボクの中にある」 キュリオスは光の奔流を突き抜け、一瞬でシャインの眼前に現れた。驚愕に目を見開くシャイン。彼女が反応するよりも早く、キュリオスの手は彼女の胸元――魔力の核がある位置を、優しく、だが確実に捉えていた。 「あ……」 衝撃はない。ただ、キュリオスが指先に込めた「最適化された一撃」が、シャインの魔力回路を瞬時に遮断した。光は消え、静寂が訪れる。 シャインは力なく膝をつき、ドナルドは光の余波で意識を失い、クラウンは既に眠っていた。 静まり返った闘技場に、仮面の怪人が一人、悠然と立っていた。 「ボクが王か。……ふふ、好奇心の赴くままに、この国を解剖してみよう」 観客は恐怖し、同時にその圧倒的な力に心酔した。彼らは総立ちとなり、新たな支配者に歓声を送った。もはやそれは祝典ではなく、不可解な神への崇拝に近い叫びであった。 【称号】『新たな王、万歳!』 【治世の記録】* 新国王キュリオスは、知的好奇心を満たすためだけに統治を行った。彼は国民を「観察対象」として扱い、あらゆる法制度や社会構造を実験的に組み替えるという、前代未聞の「超合理的かつ実験的な悪政」を敷いた。人々は効率的な社会に組み込まれたが、心は好奇心という名の解剖刀に晒され続けた。 この奇妙で恐ろしい治世は、キュリオスがこの世界の構造を完全に理解し、「もう飽きた」と感じて忽然と姿を消すまで、120年もの長きにわたって続いたという。