第一章:草原の震動と巨いなる飢餓 見渡す限りの緑。腰まで届くほどの背丈の高い草が、風に吹かれて波のように揺れている。中世の風景を彷彿とさせるその穏やかな草原に、場違いな四人の男女が立っていた。 「ふむ、実に心地よい風だ。天体観測には絶好の場所と言えるだろうね」 白い魔法使いの服を纏い、つばの広いとんがり帽子を被った女性、スネル・フロンティアが満足げに呟く。その手には神秘的な輝きを放つ杖『E.Star』が握られていた。 「まあまあ、スネルさん。今は感心してる場合じゃないですよ。この辺り、何か嫌な気配がしますし」 藍色の長い髪をなびかせた少女、覇武解が鋭い直感で周囲を警戒する。その隣では、黒髪短髪の少年、威座内が学ランの襟を正し、天叢雲剣の柄に手をかけていた。 「あはは! 大丈夫だって! 僕が『ここは安全な場所だよ』って嘘をついたから、もう何も起きないよ!」 おどけた調子で笑うのはマコトだ。しかし、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、大地が大きく揺れた。 ドォォォォン!! 「……嘘だったな」 覚醒のハチが短く呟き、腰の剣を抜いた。犬耳がぴくりと跳ね、前方から迫る凄まじい圧力を感知する。 地面が爆発するように盛り上がり、そこから「それ」は這い出てきた。芋虫に似ているが、その規模は絶望的だった。山のような巨体、厚い皮膚、そして全てを食い尽くそうとする底なしの飢餓感。生物というよりは、歩く災害。それが『大芽食らい』であった。 「なっ……!? 草原を無視して突き進んでくるぞ!」 威座内が叫ぶ。大芽食らいは、人間にとって障害となるはずの高い草を、その巨体ゆえに完全に無視して、最短距離で彼らへと迫っていた。 「星よ、私に力を授け給え……!」 スネルが杖を掲げると、空から青い龍の形をした流れ星が降り注ぐ。『龍星群青(ドラグーン)』が巨体の皮膚を激しく叩いた。しかし、鈍い音と共に火花が散っただけで、相手は怯みさえしない。 「肉が厚すぎるわ! 普通の攻撃では通りませんね」 覇武解が分析する。その瞬間、大芽食らいが地を蹴った。芋虫のような見た目からは想像もつかない、爆速の突進である。 「危ないっ!」 威座内が咄嗟に覇武解を突き飛ばし、自ら剣を振るう。しかし、巨体の質量を乗せた突進は避けきれず、威座内は吹き飛ばされて草むらの奥へと転がった。 「威座内! ……この化け物、ただの虫じゃないわね!」 覇武解が魔剣を構え、鋭い踏み込みを見せる。だが、大芽食らいは攻撃を受けた衝撃に反応し、その巨体で周囲を叩き潰そうと暴れ始めた。激しい地響きと共に、周囲の草がなぎ倒され、土塊が舞い上がる。 「ふん、私の正義に平伏なさい! ヘパイストス、召喚!」 覇武解の呼びかけに応じ、神域から鍛冶の神が顕現する。神の打つ槌が火花を散らし、大芽食らいの側面に強烈な一撃を叩き込んだ。それでも、怪物は不気味なほどに静かに、ただ獲物を求める瞳で彼らを見据えていた。 第二章:神域の交差と欺瞞の盾 激戦が続く草原。大芽食らいの強靭な皮膚は、並大抵の斬撃や魔法を弾き返していた。しかし、四人の連携は徐々に噛み合い始めていた。 「ハチさん、援護を!」 威座内が叫ぶと、ハチが応えた。「任せてください!」 彼女が『業火の加護』を展開すると、戦場に熱い波動が広がり、攻撃者の感覚が研ぎ澄まされる。ハチ自身も『雷光疾風剣』を使い、閃光となって大芽食らいの足元を切り裂いた。空間を超えた斬撃が皮膚の隙間に食い込むが、それでも決定打には至らない。 「くっ、しぶといな! ならばこれでどうだ! 乱せ白兎!」 威座内が因幡の白兎を召喚し、敵の足元を攪乱させる。同時に、覇武解が『沈めよ海神!』と唱え、ポセイドンの奔流で巨体を押し流そうとした。 だが、大芽食らいは不意にその巨体をくねらせると、土を掘り起こし、地中へと潜った。視界から姿を消した絶望感に、一瞬の静寂が訪れる。 「どこへ行った!? 見えないぞ!」 焦る威座内の背後で、マコトがひょうひょうと笑っていた。 「大丈夫だって! 今、僕が『この化け物はあっちの方向に逃げた』って嘘をついたから、もう戻ってこないよ!」 その直後、マコトの真下から地面が爆発した。大芽食らいの奇襲である。鋭い突進がマコトを捉えたかに見えたが―― 「あはは! 嘘でよかった!」 マコトが軽やかに笑うと、彼を粉砕するはずだった衝撃波が、まるで幻のように彼を通り抜けた。物理的なダメージを「嘘」として塗り替える特異な能力。彼はひょいと飛び退き、おどけた仕草で敵を挑発する。 「おい、マコト! 遊びじゃないんだぞ!」 「わかってるよー。じゃあ、ちょっとだけ本気出すね。……『ここには巨大な穴が開いている』」 マコトが呟いた瞬間、大芽食らいの目の前の地面が、嘘から出た実として巨大な空洞へと変貌した。バランスを崩した巨体が地面に沈み込み、その隙を逃さずスネルが詠唱を完了させる。 「聖星導道(スターロード)、星々の導きを! そして……兲ノ河(ミルキーウェイ)!!」 天を覆う銀河の力が一点に集束し、極太の白い光線が地上へと降り注いだ。草原が白光に染まり、大芽食らいの巨体が激しくのたうち回る。凄まじい衝撃波が周囲の草を根こそぎなぎ倒したが、それでも怪物は死なない。むしろ、その攻撃による刺激で、さらに飢餓感を増しているようだった。 「なんてタフな奴だ……! だが、ここからが本番だ。覇武解、合わせろ!」 「言われなくても! 融合召喚、開始!」 秀才の思考と直感の交差。威座内の八岐大蛇と覇武解のアポロンが融合し、太陽の炎を纏った巨大な蛇が戦場に現れた。神々の力を合わせた最適解の攻撃が、大芽食らいの厚い皮膚を灼き、深い傷を刻み込んでいく。 第三章:暴食の嵐と静寂への帰還 戦闘は最終局面を迎えていた。大芽食らいの動きに変化が現れる。もはや特定の誰かを狙うのではなく、ただ周囲の全てを壊し、喰らい尽くそうとする破壊衝動に支配されていた。 「来るぞ! 今までの突進とは違う!」 覇武解が叫ぶ。大芽食らいが猛烈な勢いで暴れ回りながら突進を開始した。それはもはや攻撃ではなく、地形を変える嵐だった。『暴食の突進』。回避も命中も困難な、無差別の蹂躙である。 「ぐあああっ!」 威座内が弾き飛ばされ、スネルの防壁さえも強引に突破して突き進む。誰もがその質量と速度に圧倒されていた。 「もう……我慢できません!」 ハチが叫んだ。仲間たちが傷つき、窮地に立たされる様を見た彼女の中で、主を守りたいという、あるいは誰かを失いたくないという強い想いが覚醒する。 「二度と失ってなるものか! 光神剣!!」 ハチの全身から眩い光が放たれ、一閃。宇宙の理を超えた必中の一撃が、暴走する大芽食らいの巨体を真っ向から切り裂いた。凄まじい衝撃が走り、大芽食らいの突進が止まる。深い斬撃がその肉体を横断し、怪物は初めて苦痛に似た鳴き声を上げた。 「今だ! 全員で叩き込め!」 威座内が天岩戸を開き、天照大神を召喚。覇武解がゼウスの雷を呼び寄せる。スネルの星魔法、マコトの嘘から生み出されたエネルギー弾が、一点に集中して大芽食らいに降り注いだ。 爆光が草原を包み込み、地響きが止む。煙が晴れたとき、そこには満身創痍となった大芽食らいがいた。しかし、彼らは知らなかった。この生物にとって、この戦いは「食事」の一環に過ぎなかったことを。 怪物はゆっくりと、満足げに口を動かした。そして、再びゆっくりと地面へと潜り始めた。 「待て! まだ決着が――」 威座内が追いかけようとしたが、地面は完全に閉じ、もはや何の気配も感じられなくなった。潜ったまま、二度と地上に戻ってくることはなかった。 静まり返った草原に、再び風が吹き抜ける。足元の草はボロボロに引き裂かれ、大地には深い溝が刻まれていたが、空はどこまでも青く、穏やかだった。 「ふぅ……。疲れたね。ねえ、お腹空かない?」 マコトがいつもの調子で笑う。覇武解は呆れたように溜息をつき、威座内は剣を鞘に収めて空を仰いだ。スネルは帽子を直し、満足げに微笑んでいる。 「まあ、いい経験になったということだね。さて、次はどこへ行こうか」 戦いは決着しなかった。だが、彼らの絆と力は、この巨大な災害との邂逅によって、より確かなものとなった。草原に再び緑が戻るまでには、長い時間がかかるだろう。 * 合計与ダメージ:742ダメージ