雨が降りしきる幕末の夜。賑わいを見せる城下町は、今や静まり返った屠殺場へと変貌していた。 降りしきる雨は血を洗い流そうとするが、地面に染み込んだ紅は消えず、ただ濃く、暗い。その中心に、一人の老剣鬼が立っていた。 【闇夜の人斬り】無窮 玄。 返り血でどす黒く染まった黒衣を纏い、白混じりの髪を濡らす。紅い瞳は、凪いだ水面のように静かでありながら、対峙する者たちの「死」を正確に観測していた。 対峙するのは、理外の力を持つ四人の討伐者たち。野球少女・高野レン、吸血鬼の王・DIO、死神の少女・■■ちゃん、そして十刻者の頂点・ファスト。 「……ふむ。多種多様な『生』が集まったな」 無窮の声は低く、雨音に溶ける。彼はただ、腰の刀の柄に手を添えていた。構えもしない。回避もしない。ただそこに在るだけで、空間が凍りつくような圧迫感が四人を襲う。 「いい加減、この不気味なじいさんを片付けましょうよぉ!」 レンが金属バットを肩に担ぎ、不敵に笑う。 「フン、小癪な老いぼれだ。我が前に立ちながら、そのような静寂を保てるとはな」 DIOが傲慢に口角を上げる。その背後には黄金の精神【ザ・ワールド】が静かに蠢いていた。 「なのだ! この可愛い死神が、ボコボコにしてやるのだー!」 ■■ちゃんが巨大な鎌を振り回し、無邪気に跳ねる。 「……理解した。貴様がこの場の特異点か。だが、結論は変わらない」 ファストが冷徹な眼差しで大剣『ヘルメス』を構える。「全て、圧倒的な武力の前に無力だ」 先陣を切ったのは■■ちゃんだった。 「にゅー☆殺戮の斬撃ー!!」 次元ごとぶった斬る紅い閃光が、無窮の首を一瞬で切り裂いた。しかし、無窮は表情一つ変えない。斬られたはずの首が、不自然に、しかし静かに元の位置に戻る。血の一滴すら流れていない。いや、流れた血さえも、彼の「理」に飲み込まれていた。 (第一の想起:かつて斬った、名もなき剣客の絶望) 無窮の脳裏に、数百年前に斬った男の顔が浮かぶ。必死に技を研鑽し、死に物狂いで斬りかかった男。だが、その努力さえも、一太刀の糧として昇華された。無窮にとって、相手の全力こそが最高の砥石なのだ。 「……斬撃か。心地よい。だが、浅い」 無窮が僅かに、本当に僅かに、刀を抜いた。その瞬間、世界が断裂した。 「ッ!?」 ファストが反応し、大剣『ヘルメス』で受け止める。ガギィィィィン!! と、城下町全体を震わせる轟音が鳴り響いた。因果破壊を持つはずの大剣が、ただの一撃に押し込まれ、地面にめり込む。 「なっ……!? 私の『理』を、正面からねじ伏せたか!」 「不可思議な力だ。だが、理屈などという脆弱な盾で、私の剣を止められると思うな」 無窮の瞳に宿る静寂が、鋭い殺意へと変わる。彼は攻めない。だが、相手が動いた瞬間に、その「動き」そのものを斬り伏せる。それは回避ではなく、受け止め、そして喰らう行為。 DIOが嘲笑を浮かべ、指を鳴らす。 「『ザ・ワールド』!!」 時が止まった。世界から色が消え、雨粒さえも空中で静止する。絶対的な静止世界において、DIOは悠々と無窮の懐に潜り込み、その胸を黄金の鉄拳で貫いた。心臓を、肺を、肉体を粉砕する一撃。 「ハハハ! 止まった時の中で、何ができる? 絶望の中で死ね、老いぼれが!」 時が動き出す。本来であれば、ここで無窮は絶命しているはずだった。 だが。 「……時を止めたか。面白い。だが、止まった時の静寂さえも、私の剣の糧となる」 無窮は、胸に巨大な穴が開いたまま、微笑んでいた。彼は死んでいなかった。いや、死という概念さえも「一太刀」へと昇華させていた。彼はそのまま、DIOの腕を掴み、静かに呟いた。 「貴様の傲慢さ、心地よい研磨剤だ」 ドォォォォン!! 正体不明の衝撃波がDIOを吹き飛ばす。反撃せず、ただ「受け止めた」はずの無窮が、DIOの全力の打撃をそのまま倍にして返した。DIOは壁を突き破り、数軒の民家をなぎ倒して転がる。 「馬鹿な……! 私の攻撃を、そのまま利用しただと!?」 (第二の想起:かつて斬った、不老不死の怪物) 無窮は思い出す。死なない体を持つ者がいた。だが、死なないということは、永遠に斬られ続けるということだ。彼はその怪物を、死なない時間を超えた「終焉」で斬り伏せた。今、目の前の吸血鬼も、同じ轍を辿ろうとしている。 「レンちゃん! こいつ、めちゃくちゃ強いのだ!」 ■■ちゃんが再び鎌を振るうが、無窮はそれを指先一つで弾き飛ばす。さらに、ファストが冷徹に分析し、因果を操作して必勝の軌道を導き出す。 「なるほど、理解した。貴様は攻撃を吸収し、それを自身の力へと変換している。ならば、その変換速度を上回る絶大なる武力で――」 「理屈を、語るな」 無窮の姿が消えた。いや、消えたのではない。あまりに速すぎた。あるいは、距離という概念を斬った。 「ガハッ!!」 ファストの肩から腕が、鮮血と共に舞い散った。冷徹な表情が初めて崩れ、驚愕に染まる。彼女の『理解』が、追いつかなかった。 「……貴様の武力は、確かに強大だ。だが、私はそれを数万回、数億回と積み重ねてきた」 無窮の剣が、今や鈍い光を放っている。彼は四人の攻撃をすべて受け止め、その全てを自身の「一太刀」に蓄積させていた。もはや、彼はただの老人ではない。積み重なった死の集積体である。 (第三の想起:かつて斬った、神を自称した者) 天を統べると豪語した者がいた。その神を斬った時、無窮は気づいた。頂点などどこにもない。ただ、極致へ向かう道があるだけだ。今の彼にとって、この四人は最高の「素材」だった。 「さて、そろそろ終局か」 無窮が静かに、刀を正眼に構える。その瞬間、周囲の雨がすべて止まった。いや、雨が「消えた」。彼を中心とした円形の領域から、あらゆる物質的、概念的な存在が消滅し始めている。 境。極致を超越した、終わりなき研磨の果ての領域。 「あ、あはは……! これ、マジでやばいやつだぁ!!」 レンが冷や汗を流しながら、バットを握りしめる。彼女は直感していた。今、ここで打たなければ、自分たちは文字通り「消される」ことを。 「クソッ……この私が、ここまで追い詰められるとはな!」 DIOが再び【ザ・ワールド】を召喚し、全力のラッシュを叩き込む。しかし、無窮は動かない。数千の拳が彼を打ち据えるが、そのすべてが、無窮の体に吸い込まれていく。攻撃すればするほど、無窮の剣に宿る輝きが増していく。 「死神ちゃん! ファストさん! 今だぁー!!」 ■■ちゃんが絶叫し、次元を裂く最大の一撃を放つ。ファストもまた、失った腕を無視し、全魔力を『ヘルメス』に込めて因果を破壊する一撃を突き立てた。 三方向からの絶大なる攻撃。そして、その中心で、高野レンが跳ねた。 「隙見せたわね!! 野球しましょ!!」 レンのフルスイング。それは、この物語のメタ構造さえも破壊する、理外の「本塁打」。 「逆転満塁本塁打ーーー!!! メルヘーンゲットォ!!!」 金属バットが、無窮の剣と真っ向から衝突した。キィィィィィン!! という、鼓膜を突き破るような絶叫のような音が響き渡る。 (第四の想起:かつて斬った、己自身の影) 無窮は笑った。最後に斬ったのは、己の未熟さという名の影だ。今、目の前の少女が放った一撃は、彼が人生で一度も経験したことのない「理外の理」だった。だが、だからこそ心地よい。 「……素晴らしい。これこそが、私の求めていた『極致』の先だ」 無窮は、レンのフルスイングを、あえて真っ向から受け止めた。 ドッッッッッッッ!!!! 爆発。城下町の半分が文字通り消し飛んだ。衝撃波でDIOは遠くへ吹き飛ばされ、■■ちゃんは身体がバラバラになり、ファストは地面に深く突き刺さった。 煙が晴れる。そこには、刀を構えたまま、静かに佇む無窮の姿があった。 ……しかし、彼の黒衣は、ボロボロに裂けていた。そして、その胸には、金属バットの形をした巨大な打撃痕が刻まれていた。 「……ふっ。勝ちだ。貴様らの勝ちだ」 無窮の瞳から、紅い光が消えていく。彼は、レンの「メタ階層突破」という理外の理を、その一撃で完全に受け止めた。しかし、それを昇華させる前に、彼の「器」としての寿命が尽きた。積み重ねすぎた死の重みが、ついに彼自身を押し潰したのだ。 「あ……あはは……。勝ったぁ……?」 レンが呆然とバットを下ろす。 無窮 玄は、ゆっくりと刀を鞘に納めた。鞘に収まった瞬間、彼の身体は静かに白い灰となり、雨の中に消えていった。 「……至高の一撃だったぞ。野球娘」 その声だけが、雨音に混じって聞こえた。 【戦闘終了】 勝者:討伐者側(高野レン、DIO、■■ちゃん、ファスト) 生死者: ・無窮 玄(消滅) ・■■ちゃん(肉体損壊・生存:木工用ボンドで修復中) ・DIO(重傷・生存) ・ファスト(右腕喪失・生存) 勝利側MVP:高野レン (理由:無窮の『境』すら超越したメタ能力による決定打を叩き込み、唯一的に彼に「敗北」を認識させたため)