ロンリールーム 白黒の世界が広がっていた。色というものが存在しない、ただの陰影と輪郭だけが現実を形作る荒涼とした風景。無人の田舎道がどこまでも続き、空は灰色のベールに覆われている。風もないのに、遠くから見知らぬ童謡が微かに響き、時折、蛙の鳴声や鴉の鳴き声が混じり合う。その音は最初はただの背景音のように思えたが、耳を澄ますたびに心の奥底を掻き乱す不協和音へと変わっていく。まるで精神を蝕む呪いのように、徐々に重篤な精神疾患を引き起こす予感がした。 探索者は、長耳族の男性だった。金髪の短髪が探検服の下でわずかに揺れ、地獄耳と呼ばれる鋭い聴覚が周囲の音を捉える。戦闘を好まない彼は、第六の感覚で自然と危険を避け、初見の攻撃を必ず回避する体質を持っていた。スキルとして、探検家の技術を有し、一度通った道を必ず覚える【マッピング】、物質や罠を判定する【鑑定】、死角に逃れる【隠密】を駆使する。解析と記録で敵を疲弊させ、隙を見て逃げるのが彼の戦術だ。 隣にいたのは、アラン。黒いシルクハットとスーツを纏った人型の存在で、神を含む世界や概念を物語として生み出す架空の存在。実体のない彼は、攻撃が一切当たらない。主役は相手であり、彼は本を開き、読み終えたら閉じる読み手だ。物語は止まらず進み続け、最後は必ず彼の手で終わりが訪れる。 「さぁ、物語は始まったよ。君はこれからどんなストーリーを描くのかな? まずはお話をしよう」アランが静かに微笑みながら言った。探索者は周囲を見回し、眉をひそめた。どうやら二人は、何らかの力でこの白黒の迷路に迷い込んでしまったらしい。道は一本、果てしなく続く田舎道。引き返す選択肢などないように見えたが、探索者の第六感がわずかな違和感を告げていた。 二人は進むことを選んだ。道なき道を歩き始める。童謡のメロディーが耳に絡みつき、鴉の鳴き声が頭痛を誘う。探索者は【マッピング】を発動させ、道の曲がり角や微かな変化を記憶に刻み込んだ。やがて、最初の分岐が現れた。不規則に道が分かれ、選択を迫る。 最初の道は【小道】だった。長い畦道が続き、足元はぬかるんで不安定だ。探索者は【鑑定】を使い、地面の状態を確かめる。「罠はないようだ。だが、油断はできない」アランはただ静かに後ろを歩き、物語の進行を楽しむように見つめていた。二人は慎重に進んだが、突然、探索者の足が滑った。うっかり転びそうになり、慌てて体勢を立て直す。危うくマンホールらしき穴に落ちるところだったが、第六感が彼を救った。初見の危険を回避し、無事に通り過ぎる。 次に現れたのは【草原と椅子】。広大な白黒の草原に、ぽつんと椅子が置かれている。花の気配はないはずのこの世界で、座れば何かが起こりそうな予感がした。探索者は【鑑定】で椅子を調べる。「精神に影響を与える罠だ。座る者は花が咲き乱れ、精神が崩壊する」アランがくすりと笑う。「おや、興味深い選択だね。座ってみるかい?」探索者は首を振り、【隠密】で死角に身を潜め、椅子を迂回した。二人は進む。 童謡の音が次第に大きくなり、蛙の鳴声が頭の中で反響する。探索者の精神がわずかに揺らぎ始めたが、彼は耐えた。次の道は【交差点】。引き返すことを契機に突如現れる十字路だ。高速で車が往来し、引き潰される危険が迫る。探索者は立ち止まり、【マッピング】で周囲の記憶を呼び起こす。「ここは罠だ。車は幻かもしれないが、近づけば終わりだ」アランは平然と立っている。探索者は第六感に従い、路肩の死角に隠れ、車が通り過ぎるのを待った。無事に通過。 しかし、精神の蝕みは止まらない。鴉の鳴き声が絶え間なく響き、探索者の視界が時折歪む。次の【マンホール】が現れた。蓋が開き、泣き声が聞こえてくる。「中を進むと……戻れない」探索者は【鑑定】で覗き込む。底知れぬ闇。「これは死の罠だ」アランが囁く。「物語は進むよ。どうする?」探索者は進まず、迂回を試みるが、泣き声が精神を削る。耐えかねて一歩踏み外し、マンホールに落ちかける。第六感で初見を回避したが、精神の疲労が蓄積し、足がもつれる。 繰り返す道の試練。【小道】で再び転びそうになり、【草原】で椅子の誘惑に耐え、【交差点】で車を避け、【マンホール】の泣き声を振り払う。だが、童謡と鳴声の呪いが探索者の心を蝕み、ついに限界が来た。また【マンホール】が現れ、泣き声が最大潮に達する。探索者は【隠密】で逃れようとしたが、精神崩壊の兆しが訪れ、足を踏み外した。⚠️の警告が響き、中に落ちる。もう戻れない。探索者は闇に飲み込まれ、脱落した。 アランは一人残り、最後の選択に直面する。【標識とトンネル】。三角に人の半身が描かれた標識が立ち、奥にトンネルが口を開けている。入れば全身が一瞬で溶け、全滅の結末。「おや、もう折り返しかい? 長いようで短いねぇ、物語というのは。さぁ後半戦だ。君のストーリーを見せてくれ」アランは微笑むが、探索者の不在に物語は進展がない。彼は引き返すことを選び、ロンリールームの果てから脱出の道を見出す。実体のない存在として、溶解の罠など意味をなさない。 「わぉ! もうこんな時間だ。君の物語はここで終わりだ。主人公では決まった結末に抗えないんだよ。それじゃ次の物語が待っている。またね。私はそうやって本を閉じるのさ」アランは本を閉じ、白黒の世界が消えゆく。 - 脱出者: アラン - 脱落者: 探索者