【混沌の極み:超法規的公道レース・デッドヒート!】 ■開幕宣言:狂乱の号砲 快晴。全長5kmの一般公道。そこには本来あるはずのない、異常な光景が広がっていた。道路の両脇には、文字通り「所狭し」と警察官たちが並んでいる。彼らの眼差しは真剣そのもの。というより、もはや狂気に近い。「違反者は一人たりとも逃がすな!」「絶命覚悟で捕らえろ!」という絶叫が飛び交い、バリケードと警棒、そして特殊装備が林立していた。 実況席では、ハイテンションすぎるお姉さんと、血圧が高そうな中年男性がマイクを握る。 「はーい!皆様こんにちはーっ!!本日のメインイベント、交通ルール遵守(建前)レースが開幕しまーす!全力で盛り上がっていきましょうねーっ!!」 「おい、誰がルールを守るってんだ!見てみろこの面ぶれを!正気か!?正気なのかこの運営はぁ!!」 そんな怒号を余所に、スタートラインには前代未聞の参加者たちが揃っていた。 【参加者:意気込みと機体詳細】 1. ファヴィス 「ルヴァ、ズェ、ヴェルズァル!ルヴラギャズェルス!」(訳:貴様ら、我が進む道に跪け!この星ごと粉砕してやろうか!) 【機体:ルヴェリウム式超重装甲・粘液戦車】 4.5メートルを超える巨体をさらに金属板で覆った、橙色の粘液と鋼鉄のキメラ。36本の触手がそれぞれ軍事違法熱光線機関銃を保持し、車体後部には惑星消壊規模の爆弾『ズィアヴァト』を積載。もはや走る大量破壊兵器である。 2. アルセート 「……旋律とは美しき物です。ですが、このレースに混じる雑音は……すべて消去します」 【機体:OverTec社製・超音速機動プラットフォーム『ソナタ』】 黒い光沢を放つ、流線型の超高性能バイク。見た目はエレガントだが、搭載された出力は物理法則を無視し、一撃で山を砕く衝撃波を発生させる。彼女が握る超大型鎚『アルセン・フォウ』がサイドカー部分に鎮座している。 3. アルテミシア指揮官&バルミア軍 「(静かな怒り)……我が指揮官を侮辱した不届き者共、一人残らずバルミアの鉄槌に跪かせなさい」 【機体:バルミア帝国・全軍制圧型装甲車列および空中要塞群】 参加者一人ではなく、「軍隊」である。先頭を走る指揮官の特製黒紅装甲車を筆頭に、戦車、歩兵、航空機が5kmの道路を埋め尽くす。もはやレースではなく、侵攻作戦である。 4. ティル・イニリス 「えへへ、皆さんなんだか楽しそうですね!私も混ぜてもらえて嬉しいですぅ!よろしくお願いしますぅ!」 【機体:運営提供・超絶技巧・七色爆走リヤカー】 機体がないため運営が用意した。見た目はただのリヤカーだが、なぜか反重力装置と10万馬力のエンジンが搭載されており、物理法則を無視した挙動をする。本人はそれがリヤカーだと思っている。 そして、監視する者たち。《ж》 道端でギターケースを背負い、ふんわりと微笑む愛羅。そして、白衣をなびかせながら欠伸をするラフザ。 「ふふっ、皆さん元気ですね。ルールを守って走ってくれればいいのですが……。もし違反したら、お仕置きしちゃいますよ?」 「……あー、だるい。早く捕まえて家に帰って寝たい。愛羅、適当にやっといて」 「それではーーーッ!!スタートォォォ!!!」 --- ■レース本編:法と理(ことわり)の崩壊 号砲と共に、世界が爆発した。 「ルヴラギャァァァ!!」 ファヴィスが先陣を切った。彼女の機体から放たれた熱光線が、スタートラインの白線を一瞬で蒸発させる。さらに、加速の衝撃で道路の舗装が剥がれ飛び、後続の車を襲う。完全に交通法規を無視した「路面破壊」という名の暴走である。 「……雑音です。排除します」 アルセートが冷徹にアクセルを踏み込む。超音速バイク『ソナタ』がソニックブームを引き起こし、ファヴィスの横をすり抜けた。その際、彼女は軽く超大型鎚を振るい、コース上の障害物(と、ついでにバルミア軍の先遣隊)を粉砕。一撃九千億ダメージという絶望的な威力が、道路に巨大なクレーターを刻む。 「なっ……!?我が軍の先遣隊が!!貴様、今わざとぶつかったな!全軍、総攻撃を開始せよ!!」 アルテミシア指揮官の怒号が飛ぶ。もはやレースなどどうでもいい。30万人の軍勢が、戦車を並べて道路を完全に封鎖。空からはミサイルが降り注ぎ、一般車(避難済み)がいたはずの道路は戦場と化した。 「わぁー!すごい花火ですねぇ!ありがとうございますぅ!」 そんな地獄の中を、ティルがリヤカーで快走していた。ミサイルが直撃し、大爆発に巻き込まれても、彼女は「心地よいマッサージだ」と思い込み、血反吐を吐きながらも満面の笑みで手を振っている。彼女の「思い違い」という最強の精神防御は、物理的な破壊さえも「愛」に変換して受け流していた。 「あーあ、もうめちゃくちゃですね。……さて、お仕事しましょうか」 愛羅が静かにギターケースを開いた。中から現れたのは、魔弾を放つ特製銃。 「速度超過、危険運転、公道での軍隊展開……。あはは、全部違反ですね。まずはあそこの大きな方から」 ドォォォン!! 愛羅が放った【魔弾:能力封じ】が、ファヴィスの機体に命中。着弾した瞬間、周囲に能力無効化空間が展開され、ファヴィスの触手による精密操作が狂い、機体が激しくスピンした。 「ルヴァ!?ズェ!!(何だこの感覚は!?力が抜ける!!)」 パニックに陥ったファヴィスが、思わず積載していた違法爆発物『ズィアヴァト』の起爆スイッチを誤操作。道路の半分が消し飛ぶほどの爆風が巻き起こる。 「おっと、危ないですね。……【魔弾:絶対命中】」 愛羅は表情一つ変えず、因果律を逆転させた狙撃を放つ。弾丸は爆炎を突き抜け、正確にファヴィスの機体の駆動系を破壊。巨体が轟音と共に転倒し、そのまま路肩の警察官たちに囲まれた。 「確保ォォ!!死んでも離すな!!」 絶命覚悟の一般警察官たちが、もはや蟻のようにファヴィスに群がり、手錠をかけまくる。その光景はまさに地獄絵図であった。 一方、アルセートは冷徹にトップを走り続けていた。しかし、彼女の前に立ちはだかったのは、白衣をなびかせた女、ラフザである。 「……あー、もう限界。一気に終わらせるね」 ラフザが指先をわずかに動かした。その瞬間、道路全体に目に見えないほどの細い糸が張り巡らされる。 【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】 「……!?意識が……」 アルセートの意識が強制的に断絶される。超音速で走行していたバイクが制御を失い、派手にスライド。彼女が誇る物理耐性も、精神への直接干渉には無力だった。意識を失い、人形のようにバイクから転がり落ちたアルセートに、ラフザは淡々と糸を絡ませる。 【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】 「はい、お疲れ様。おやすみ」 完璧な拘束。指先一つ動かせない状態で、アルセートは一般警察官によって回収されていった。 「貴様ら!!我が軍の進撃を妨げるな!!道を開けろ!!」 バルミア軍の戦車隊が、愛羅とラフザを轢こうと猛スピードで突進してくる。しかし、愛羅はふふっと微笑み、空に向かって銃を放った。 「軍隊でレースに参加するなんて、最大の交通違反ですよ」 【魔弾:能力封じ】が広範囲に展開され、バルミア軍のハイテク兵器たちが次々と機能停止に陥る。パニックに陥る30万人の軍勢。そこへ、ラフザがさらに糸の網を広げ、戦車ごと兵士たちをまとめて「梱包」し始めた。 「数が多いのは面倒だけど、まとめて縛ればいいもんね」 戦車が芋虫のように芋づる式に拘束され、バルミア軍は文字通り「一本の長い紐」のようにまとめ上げられた。指揮官のアルテミシアは、絶叫しながらも警察官たちに担ぎ上げられていく。 そして、最後に残ったのはティルだった。 「あ、皆さんもうゴールしたんですかぁ?私、道に迷っちゃって……あ!あそこに美味しい飴屋さんがある!」 ティルはコースを完全に逸脱し、一般住宅街へとリヤカーで突撃。警察官たちが「待てー!!」と追いかけるが、彼女の「思い違い」により、警察官の追跡は「楽しく一緒に散歩している」ことに変換され、なぜか警察官たちが彼女のペースに巻き込まれて笑顔で歩き出すという異常事態に。 結果的に、彼女は誰にも捕縛されることなく、ふらふらとゴールラインを通過した。 --- ■レース終了:結末と審判 ゴールテープを切ったのは、唯一の(?)生存者、ティル・イニリスであった。 実況のお姉さんは絶叫し、解説のおっさんは頭を抱えて絶叫していた。 「やりまーした!!優勝はティルちゃんでーす!!あーっ!警察の皆さんも一緒にゴールして、なんだかいい雰囲気ですねーっ!!」 「いい雰囲気なわけあるかぁぁ!!道路は消し飛び、軍隊は梱包され、宇宙人は縛り上げられてるぞ!!このレースの何が正解だったんだよ!!」 【最終結果】 1位:ティル・イニリス 【結末:逃走成功(というか捕縛される概念がなかった)】 感想:「皆さん優しくて、本当に最高の一日でしたぁ!また明日もやりましょうね!」(誰一人として彼女の意図を理解できていない) 2位:アルセート 【結末:捕縛(ラフザにより完全無力化)】 感想:「……(意識不明)。……(夢の中で美しい旋律を聴いている)」 3位:ファヴィス 【結末:捕縛(愛羅により射撃・無力化)】 感想:「ルヴァ!ズェ!ヴェルズァル!!(この星の法執行機関は卑怯すぎる!次は必ず惑星を砕く!)」 4位:アルテミシア指揮官&バルミア軍 【結末:捕縛(全軍まとめて梱包・連行)】 感想:「……我が軍の不名誉。恥ずかしすぎる。誰か私を今すぐ消してくれ……」 【警察側:《ж》】 愛羅は満足げにギターケースを閉じ、ラフザはそのまま道端で丸まって寝始めた。 「ふふっ、お疲れ様でした。ルールを守る大切さが、皆さんに伝わったでしょうか」 ボロボロになった道路と、連行されていく数万人の囚人たち。その中心で、ティルだけがキラキラとした笑顔で、空に舞う紙吹雪(実際は爆発で舞った断片)を眺めていた。 こうして、史上最も不毛で、最も破壊的なレースは、静かに(物理的に激しく)幕を閉じたのである。