白銀の照明が、巨大なアリーナを昼よりも明るく照らしていた。 幾重もの観客席から、地鳴りのような歓声が押し寄せる。魔法陣の浮かぶ床、結界に覆われた空、四方の巨大スクリーン。中央に立つのは、桃色のステッキを振り上げた少女――実況魔法少女サケビ! 「ずぅええええ! 本日は超豪華四名による、異種格闘・魔法・死神・仙術ぜんぶ盛りの大決戦だぁああああ! まずは選手の意気込みを聞いていきましょう、どぅわあああああ!」 最初に、白いふわもこロングヘアを揺らして、クララが雲の上からゆっくり降りてくる。黄色い瞳は眠たげだが、雷リボンの先では小さな火花が弾けていた。 「えっと……わたし、クララ。きみたちと、たのしく戦えたらいいなぁ……。できれば、終わったあとに甘いものがほしいな。……でも、ちょっとだけ、やる気はあるよぉ」 「ふわふわなのに雷雲を従えているぅ! かわいさと電撃の二段構えだずぅええええ!」 次に、令が歩み出る。都市風のジャケット、工裝褲。銀髪を結えた長身の姿は静かで、左耳の道符だけが風に揺れた。 「令。勝敗は流れ次第だろう。私は私の歩法を使うだけだ。無理に気負う気もないが、手を抜く理由もない。……まあ、怪我をしたくなければ、よく見て動くことだ」 「余裕たっぷりの大師姐! その一歩に何千年分の修練が詰まっているのかぁああ!」 三人目は、銀髪ツインテールに地雷系ファッション。ソーダ=クリームは指輪をくるりと回し、満面の笑顔でポーズを決めた。 「ソーダちゃんでーす! 今日はどんなコーデでみんなの寿命を縮めちゃおっかな? あ、でもソーダちゃん自身は老いたり汚れたりするの、ぜーったいイヤだからね! 原典が決めた結果なら、ちゃーんと実現してあげるよぉ!」 指輪が黒紫の光を噴き上げ、死の色をしたチェンソーへ変わる。刃が回転し、観客席から悲鳴と歓声が同時に上がった。 「笑顔で物騒! これぞ死神、これぞソーダ=クリームだぁあああ!」 最後に、武流臼里依がリングへ飛び込む。両手のヌンチャクを打ち鳴らし、熱気をまとって仁王立ちした。 「武流臼里依、十七歳! 向島仕込みの情熱で、ここにいる全員を燃え上がらせてやるぜ! 考えるんじゃない、感じるんだ!! 勝負ってのはなぁ、最後まで立ってたヤツが勝つんだよぉおおお!」 「熱血全開、映画魂全開! 奇声にも期待だぁあああ!」 サケビがステッキを振り下ろす。 「試合開始ぃいいい! ずぅえええええええ!」 最初に動いたのは里依だった。 「ホアチャァアアアーーーー!!!!」 空気を震わせる戦哮。観客の髪まで揺れるほどの声圧に、クララの雲がふらりと傾き、ソーダが一瞬だけ目を丸くした。 「うるさいなぁ。かわいい声ではあるけど」 「声にかわいいも何もあるかぁ! 龍翔乱舞ぅううう!」 ヌンチャクが唸り、里依が一直線に駆ける。だが令は半歩だけ身体をずらした。乾飛脚。刃のような蹴りが里依の腕をかすめ、続く兌沈歩で重心を沈める。 里依は倒れない。むしろ勢いを利用して回転し、ヌンチャクを横薙ぎに振り抜いた。令は巽箭歩で後方へ滑る。床に残った軌跡を、クララの雷が走った。 「ばちばちライン……」 遠距離から放たれた雷撃が、蛇のように令へ迫る。令は五身生剋勢の水形為閉。身を閉じ、雷の線を紙一重で受け流す。しかし雷は床を跳ね、軌道を変えてソーダへ向かった。 「わ、こっち来た!」 ソーダはゲーラス・チェンソーを振る。雷撃は刃に触れた瞬間、黒い火花となって散った。斬れた空気の一部が、寿命を迎えたように灰色の砂へ変わる。 「へえ、電気も切れるんだぁ」 「切ったんじゃない。受け流しただけだ」 令が言うと同時に、彼女の足元から震脚が響く。震轟脚。衝撃が地面を伝わり、四人の立つ床が波打った。 クララの雲が大きく揺れる。ソーダは跳躍し、里依はヌンチャクを地面に突き立てて耐えた。 「だったら、まとめていくぜぇ! 戦哮ぉおおお!」 再び奇声が炸裂する。今度はソーダが耳を塞ぎ、クララがぽかんと目を瞬かせた。その隙を逃さず、里依の龍翔乱舞が二人へ迫る。 ソーダはチェンソーを盾にし、刃でヌンチャクの鎖を受けた。触れた回数に応じて、武器の寿命が削られていく。鎖の一部が砂になり、里依の動きが乱れた。 「うおっ、俺の相棒がぁ!」 「ごめんねぇ。でも、原典にそう書いてあったら仕方ないの!」 その瞬間、クララが両手を広げた。 「もこもこトラップ……いっぱい、置くねぇ」 小さな雷雲がアリーナ中へ散らばる。床、壁、宙。どれもふわふわと漂いながら、近づくものへ微弱な放電を浴びせた。 令は八卦脚歩で雲の隙間を縫う。乾飛脚、坎転腿、離散腿。まるで雷雲の配置を最初から知っていたかのような動きだった。 里依は避けずに突っ込んだ。電流が身体を走り、髪が逆立つ。 「効いてる! だが、熱いってことは燃えてるってことだぁ!」 勢いのままヌンチャクを振り上げ――自分の額へ直撃させた。 「ぐわぁああああ! 痛ぇ! だが、これも修行だぁ!」 「ずぅええええ! 自爆すら情熱に変えるぅ!」 ソーダが笑いながら踏み込む。ゲーラス・チェンソーが里依の肩口をかすめた。衣服が裂け、触れた箇所から生気がわずかに抜ける。里依の呼吸が重くなる。 だが彼女は倒れず、ヌンチャクを持ち直した。 「こんなもんで、止まるかぁ! 映画の主人公はなぁ、傷ついてからが本番なんだよぉ!」 里依の目が輝いた。騒がしい情熱が、戦場の動きを吸い上げていく。雷雲、歩法、チェンソー。そのすべてを見て、彼女は新たな構えを思いつく。 「新技……名付けて、雷龍ヌンチャク返しぃいいい!」 即興の一撃。ヌンチャクが雷雲を叩き、跳ね返った電撃をまとってソーダへ飛ぶ。ソーダはチェンソーを回転させて受けたが、雷の衝撃で大きく後退した。 「ちょっとぉ! せっかくの服が焦げたじゃん!」 クララはその隙に、頭上へ巨大な雲を生み出す。 「ごろごろサンダー……落ちるよぉ」 雷が令へ、ソーダへ、里依へ、次々に落ちる。令は五身生剋勢の火形為燦で身体を翻し、雷撃の間を抜けた。ソーダは刃で雷を切り分ける。里依はヌンチャクを掲げ、感電しながらも耐え抜く。 雷撃はクララ自身にも降り注いだ。 「……あ。そうだったぁ」 かみなりチャージ。攻撃を吸収したクララの身体に、淡い金色の電光が蓄えられていく。雲は厚くなり、雷リボンが激しく明滅する。 「きみたちの攻撃、わたしの力になってるみたい……。ありがとうねぇ」 「なるほど。なら、蓄えさせすぎないことだ」 令が一息で距離を詰めた。八卦脚歩、艮馬脚。低い姿勢から踏み込み、七魄拳・問手。クララの雲を探り、次の瞬間には圏掌、通背肘、子午靠が連続する。 クララはびりびりシールドを展開。雷雲の壁が令の拳を受け、触れた腕へ痺れを返した。 だが令は止まらない。柔らかく沈み、金形為備へ転じる。攻撃の力を受ける角度を変え、シールドの表面を滑って懐へ入った。 「しびしびショッカー……」 クララの指先から微弱な電流が令の身体へ流れ込む。令の動きが一瞬だけ鈍る。しかし屍僵の肉体に宿る内功勁気が電流を押し流し、令は片膝をついただけで立ち上がった。 「悪くない。だが、私を止めるには少し足りないな」 七魄拳・両儀封法。掌がクララの雲の流れを断つ。クララはふわりと上空へ逃れた。 その下から、ソーダが迫る。 「空中なら、逃げ道は少ないよねぇ!」 チェンソーが横一文字に振られた。クララはぱちぱちリフレクトを展開。渦巻く雷雲が刃を吸い込み、雷を付与して弾き返す。 ソーダのツインテールが大きく裂け、銀髪の一房が砂になった。 「きゃああ! 髪ぃ! 髪はダメぇ!」 「ご、ごめんねぇ……でも、試合だからぁ」 「その謝り方、眠そうなのに強いんだけど!」 ソーダは笑顔を崩さず、残ったチェンソーを構え直す。その瞳には猟奇的な輝きが浮かんでいた。 「だったら、もっとかわいく斬ってあげる!」 彼女は里依へ向かって走る。里依は受けて立った。ヌンチャクとチェンソーが激突し、火花と砂が飛び散る。里依は鎖を絡め、ソーダの刃を止める。ソーダは腕力で引き抜こうとし、里依は全身で踏ん張った。 「考えるんじゃない……感じるんだぁああああ!」 「感じてる感じてる! 寿命がちょっとずつ減ってる感じ!」 令が横から割り込んだ。震轟脚が二人の間の床を砕き、同時に七魄拳・双龍爪がソーダのチェンソーの軌道を逸らす。クララはその上空から、ばちばちラインを放った。 三人は同時に跳んだ。 雷撃が床を貫き、爆発的な光がアリーナを満たす。 サケビの声が響き渡った。 「どぅわあああああ! 全員が全員を狙い、全員が全員を利用しているぅ! ここまで対等、ここまで熾烈! 勝敗の天秤は、まだ完全に中央だぁあああ!」 四人はそれぞれ距離を取った。誰も無傷ではない。クララの雲は濃密な雷を抱え、令の動きにはわずかな痺れが残る。ソーダの髪と服には焦げ跡があり、里依のヌンチャクは鎖の一部を失っていた。 それでも、誰も退かなかった。 「そろそろ、まとめて終わらせるねぇ」 クララが両手を空へ掲げる。 「ばちばちストーム……」 巨大な雷雲がアリーナ全体を覆った。無数の雷が落ち、結界が軋む。令は八卦脚歩で走り続け、雷を避けながら三人の位置を見極める。ソーダは雷の隙間を縫い、里依は叫びながら突進した。 「ホアチャァアアアーーーー!!!!」 雷鳴と奇声が重なる。里依の即興技、龍翔乱舞・烈火旋風。残った鎖を軸にヌンチャクを振り回し、落雷を弾き、ソーダのチェンソーを押し返す。 ソーダは身を沈めた。刃が里依の足元をかすめ、寿命を奪う。だがその瞬間、令の坤延歩が二人の間へ入り、ソーダの手首を流した。 「斬るなら、斬る場所を選べ」 「選んでるよぉ! でも、あなたも邪魔ぁ!」 ソーダが回転し、令へ刃を返す。令は水形為閉で受け、肘で刃を逸らす。クララの雷がさらに降り注ぐ。 四人の攻撃が一点へ集まった。 クララの最終雷撃。 令の七魄拳・両儀封法。 ソーダのゲーラス・チェンソー。 里依の龍翔乱舞。 轟音。 光。 そして、結界の内部に立っていたのは――クララだった。 彼女の前には、雷を吸い込んで巨大化した雲の盾。令は片膝をつき、ソーダはチェンソーを地面へ突き立て、里依は壊れかけたヌンチャクを握ったまま仰向けになっている。 クララもまた、ふらふらだった。けれど最後の雷を吸収したことで、身体にはまだ立てるだけの電力が残っていた。 「……えっと。わたしが、勝ち……なのかなぁ?」 一拍遅れて、観客席が爆発した。 「ずぅええええええ! 勝者、クララぁあああ! 四者四様の力がぶつかり、最後まで誰も譲らない激闘を制したのは、雷雲の魔法少女だぁああああ!」 クララは眠たげに微笑み、雲の上へ腰を下ろす。 「みんな、すごかったよぉ。きみたちと戦えて、楽しかったぁ。……あの、甘いもの、あるかなぁ?」 サケビは選手たちへマイクを向けた。 「では最後に、みなさんから感想と、もちろん自身の宣伝をどうぞぉおおお!」 令が立ち上がり、服の埃を払う。 「良い試合だった。クララ、勝利は見事だ。里依、勢いだけではない閃きがあった。ソーダ、刃の扱いは厄介だな。私の宣伝か? 大陸全域で鬼や魔を祓っている。困りごとがあるなら、広東を拠点に私を探せばいい」 ソーダは焦げたツインテールを撫でながら、にっこり笑った。 「負けちゃったけど、みんなの寿命、すっごくおいしそうだったぁ! 次はもっとかわいい衣装で来るからね。死神ソーダ=クリームは、原典に書かれた死をちゃーんと実現するよ! お仕事の依頼も、かわいい着せ替えも、よろしくぅ!」 里依は半身を起こし、額の赤みを押さえながら拳を突き上げた。 「最高の勝負だったぜ! クララ、勝利おめでとう! 令の拳も、ソーダのチェンソーも、全部感じた! 俺はもっとヌンチャクを極めて、次は絶対に勝つ! 武流臼里依、アクション映画と熱い魂を愛する高校二年生だ! みんな、情熱を忘れるなぁあああ!」 最後にクララが、雲の上から小さく手を振る。 「わたしはクララ。雷雲の魔法で、ふわふわ飛んだり、ばちばち戦ったりするよぉ。甘いものも大好きだから、おいしいお菓子があったら教えてねぇ。きみたちのところにも、雨のあとに遊びに行くかもぉ……ふぁ……」 「寝ないでくださぁああい! ずぅええええ! 最後まで熱狂のアリーナ、実況は実況魔法少女サケビがお届けしましたぁあああ! また次の決戦で、どぅわあああああ!」