空は鉛色に濁り、地表はかつての激戦を物語る黒い焦土と化していた。風が吹けば灰が舞い、死の臭いが鼻を突く。そこへ、互いの目的を胸に抱いた五人のバトラーたちが集結した。 「うわぁ、ここマジで最悪な場所だな!でも、強そうな奴がいそうじゃね?」 もっさりとしたマッシュヘアを揺らし、半狼獣人の少年バンチが陽気に跳ねる。その隣では、アロハシャツにサングラスという場違いな格好をした男、セミ丸が不機嫌そうに舌打ちしていた。 「うるせぇガキだ。……チッ、どこのどいつだ。この不快な空気を作った悪党は」 その後ろから、無精髭を蓄えた中年男、ツキカゲが太刀と小刀を腰に下げて飄々と歩いてくる。「まあまあ、喧嘩は無しにしよう。さて、主賓のお出ましだ」 彼らの視線の先。地平線の向こうから、絶望的な威圧感を放つ巨躯が現れた。 並の戦士の三倍の背丈。砕けた兜の下に黒ずんだ鋼の甲冑を纏った巨漢――『《最強》ウォラートル』である。 「腹が減ったなぁ……、あぁ……てめぇらが少しでも腹持ちが良いと良いが」 ウォラートルが手にするのは、真紅の焔を噴き出す神話の武器、魔剣〚レーヴァテイン〛。その大剣が地面を擦るだけで、大地が赤熱し、溶岩のようにドロドロと溶け出した。 「ひえっ!デカすぎだろ!」バンチが叫ぶ。だが、その目は恐怖ではなく興奮に輝いていた。 「相棒、準備はいいか!」バンチが呼びかけたのは、宙に浮く黒い球体、影の精霊ノクシアだ。 「任せろって!最高の武器に変身してやるよ!」 ノクシアがバンチに飛び込むと、眩い光と共に、彼の拳に黒い影のガントレットと鋭いスパイクが装着された。ステータスが跳ね上がり、バンチの闘志に火がつく。 「まずはオレからだ!連撃魔、ここに見参!!」 バンチが超高速で踏み込む。『リードブロー』。鋭い一撃がウォラートルの脇腹を打つ。だが、巨漢は微動だにしない。逆に、ウォラートルの剛腕がバンチを薙ぎ払った。 「ぎゃあああ!!」 吹き飛ばされ、地面を転がるバンチ。だが、スキル『闘魂』が発動する。体力が減るほどに、彼の筋肉が膨れ上がり、速度が増していく。 「次は俺の番だ!」 セミ丸が叫び、その姿を変貌させた。人間と蝉が融合した不気味な異形の姿。空気を震わせるほどの高周波振動を纏い、超高速でウォラートルの懐へ潜り込む。しかし、ウォラートルはそれを予測していたかのように、レーヴァテインを横一閃に振るった。 「遅いな」 紅蓮の炎がセミ丸を包み込む。改造人間としての強靭な生命力で耐えるが、その皮膚は見る間に焼けただれた。 「……ふん。派手にやるな」 黒鉄の魔剣士ミシウが、低姿勢から地を蹴った。『俊撃』。黒剣がウォラートルの甲冑の隙間を縫うように切り裂く。ウォラートルは不敵に笑い、その攻撃をあえて正面から受け止めた。ミシウは即座に『黒壁』を展開。衝撃を反射しつつ、魔力を急速に充填させる。 「今だ!」 溜まった魔力が黒剣を白銀に輝かせ、聖剣へと昇華する。強烈な光の斬撃がウォラートルの肩を深く切り裂いた。 「いい攻撃だ。だが、足りん」 ウォラートルが咆哮し、レーヴァテインを振り下ろす。その一撃は衝撃波となって周囲の地面を粉砕した。ミシウは辛うじて回避したが、後方で耐えていたセミ丸がその余波に飲み込まれ、絶叫と共に肉塊へと変わった。 「セミ丸!!」バンチが叫ぶ。だが、絶望に浸る暇はない。 「さて、そろそろ僕の出番かな」 それまで静観していたツキカゲが、静かに太刀『疾風』を抜いた。その瞬間、空気が凍りついた。神速の称号を持つ男の速度は、もはや視認できない。 『音速-新月』、『神速-半月』。不可視の斬撃がウォラートルの全身を刻む。一秒間に数十回の斬撃。最強の剣士対最強の剣士。ウォラートルの甲冑がバラバラに砕け散り、血飛沫が舞う。 「ほう……速い。だが、俺は死なぬ!」 ウォラートルの驚異的な生命力が、斬撃で裂けた肉を瞬時に塞いでいく。さらに、彼はノクシアを装備したバンチの影を掴み、そのまま地面に叩きつけた。 「がはっ……!」 ノクシアが『精霊の加護』でダメージを肩代わりするが、限界だった。ノクシアは弾き飛ばされ、バンチは意識を失い昏倒する。 「ふん、飽きたな」 ウォラートルがレーヴァテインを高く掲げたその時、ツキカゲが最高速度に達した。理外の速度、『独速-満月』。 一閃。 空間そのものが切り裂かれ、ウォラートルの右腕と、彼が誇る魔剣レーヴァテインが真っ二つに分かたれた。魔剣が砕け散り、紅蓮の炎が消える。 「……チッ、まぁ良い。神を喰らう為に鍛えた刃だ、思い入れは無い!!」 絶望的な状況にあっても、ウォラートルの表情は変わらなかった。彼は戦場に転がっていた、錆びついた「極普通のハルバード」を拾い上げた。 その瞬間、空気が変わった。武器の強さに頼らぬ、真の「最強」が覚醒する。第二形態への移行。ハルバードという単純な道具が、彼の腕の中で神殺しの武器へと変貌した。 「これで終わりだ」 ウォラートルがハルバードを軽く一振りしただけで、真空の刃が走り、ツキカゲの身体を斜めに両断した。 「……あ、はは。速かったのは、僕だけじゃなかったか」 ツキカゲは笑いながら絶命した。 残されたのは、意識を失ったバンチと、肩で息をするミシウ。そして、全てを喰らい尽くそうとする巨漢のみ。 ミシウは黒剣を握り直し、死にゆく仲間たちの想いを背負って、絶望的な最強へと斬りかかった。 しかし、結果は残酷だった。最強ありきの武器を手にしたウォラートルにとって、もはや誰の攻撃も届かない。ミシウの聖剣は、ハルバードの一撃によって容易く砕かれ、彼女の身体もまた、無慈悲な鉄の刃に噛み千切られた。 静寂が戻った荒地に、一人、満足げに腹をさする巨漢が立っていた。 「ふぅ……少しは腹が膨れたか。次はどこの神を喰らいに行こうか」 最強の名は伊達ではなかった。戦場には、もはや誰の叫びも響いていなかった。 -------------------------------------------------- 【死亡者および原因】 ・セミ丸:ウォラートルの広域衝撃波による圧死および焼損 ・ツキカゲ:第二形態ウォラートルのハルバードによる斬殺 ・バンチ:第二形態ウォラートルの捕食および打撃による絶命 ・ミシウ:第二形態ウォラートルのハルバードによる切断および捕食 ・ノクシア:装備者の消滅に伴う存在崩壊