静寂が支配する寂れた墓場。ぎこちない金属音が時折、古びた墓石の間を響き渡る。朽ちた木々に囲まれたその場所では、ひときわ目を引く白い石の墓が静かに佇んでいた。そこに、遺された戦闘人形は、まるで持ち主を守るかのように佇んでいる。 「主……守る……私、守る…」 彼女の声は故障にも似た途切れ途切れの機械音。彼女の存在は、かつての主への無限の忠誠を証明していた。しかし、今、彼女が守るべきものが狙われていた。 「さあ、殺してやろう。」 不気味な笑い声が、墓場の静寂を打ち破って響いた。現れたのは、異形の者たち、墓の精霊か、それとも別の何か。彼らは遺された戦闘人形の周囲に集まり、仲間の亡骸を冒涜しようとしている。 「守る…守る…」 戦闘人形は、持ち主の墓を守るためにその場を動かずに立ち尽くす。だが、圧倒的な数の敵に彼女は完全に孤立していた。彼女の機械の体は周囲の敵を一掃する武器を備えているが、彼女の命令は一つ、墓を守ることだけだった。 そんな彼女の運命を見かけていた者が一人、そこに現れた。 「ふむ、面白い。少し手伝ってやるか。」 金髪で可愛らしいフランドール・スカーレットが、繊細な羽音を響かせながら墓場へ降り立った。彼女は、どこか楽しそうに、戦闘人形の周囲をぐるりと見回す。 「汝の独り善がりな忠義、理解するわ。だが、そんなことでは生き延びられない。」 フランドールは、その尖った耳をピクン、と動かし、戦闘人形に向かって歩み寄る。 「どうせ、私には何でもできるし、貴方を助けるのも悪くないよ。」 彼女は、ふんわりとした笑顔の裏に潜む狂気を隠し持っていた。その目はすでに目の前の敵に向けられている。 「まずは、少しだけ…遊ぼうか。」 彼女が手を伸ばすと、その指先から飛び出す光が敵たちに向かって放たれた。全てを破壊する力が集まったその弾丸は、一瞬で敵たちの体を捉え、まるで紙のように切り裂いていく。 「バカね、貴方は。」 フランドールの魔法が炸裂する中、戦闘人形は何もできずに立ち尽くしていた。彼女がこれはなぜ自分に手を差し伸べるのか、全く理解できなかった。ただ、与えられた命令を果たすことに必死だった。 フランドールは、次第にその戦闘人形に好奇心を抱くようになっていた。彼女にとってそれは、ただの遊びではなく、抱えている使命を果たす日々に小さなスパイスを与えてくれる存在だったのだ。 「私の力があれば、もっと楽しいことができる。貴方も少しリラックスしたら?」 彼女はさらなる攻撃を浴びせながら、戦闘人形に向き直る。「目の前の敵に無限の忠義を抱いているのは理解できる。でも、破壊の中に癒しを見出せるとも、教えてあげるわ。」 「私、墓守り…忠義…」 彼女の言葉には悲しみが込められていた。しかし、フランドールは無邪気な笑顔を見せながら、周囲の敵を次々と排除していく。 敵を迅速に片付けながら、彼女は戦闘人形に少しずつメッセージを送り続けた。そのどこか無邪気な言葉は、彼女の狂気を帯びた力に、少しずつ心を開かざるを得ない状態に陥る。 「無駄よ、それで貴方の意義は満たせないわ。」 フランドールは、すでに抵抗がない敵の残骸の上で、楽しげに跳ね回る。「でも、私が貴方を守ることになるなんて、なんと面白いことだ。」 やがて全ての敵が片付けられた頃には、戦闘人形はその居場所でしっかりと立ち上がり、自らの手を前に出していた。 「主を守るために、私の命はどこまで必要なのか。」 フランドールは、微かに笑みを浮かべながら戦闘人形に答える。「いいえ…。貴方が生き続ける限り、何が正しいのかを見つけ出せばいい。それがどんなに困難であっても。」 墓場の静けさは再び訪れ、惨劇が終わった後。フランドールは、戦闘人形に微笑みを投げかけ、今までもこれからも彼女の物語が始まる予感を抱かせた。 何がおかしいのか、それはきっと、彼女自身もわからないまま、彼女にとっての新たな日常が動き出そうとしていた。