陽光が降り注ぐ国際空港の出発ロビー。そこには、およそ旅路に不似合いな面々が、不機嫌そうに、あるいは好奇心に満ちて、セキュリティチェックの列に並んでいた。 警備員たちは、これから通過する客の異様さに、早くも頭を抱えていた。特に先頭に並ぶ巨大な鉄の塊——『攻城戦車』の存在は、空港の静謐を物理的に破壊していた。 「おい、大尉。ここが戦場だと思っているのか?」 警備員が呆れたように声をかけると、操縦士のアナオ・アケール大尉は、狭いハッチから顔を出し、不機嫌そうに鼻を鳴らした。 「失敬な。私は正規の手続きを経て出国しようとしているだけだ。この車両は私の足であり、誇りだ」 しかし、問題はそこだった。攻城戦車は、その名の通り「城門を破壊する」ための特効兵器である。正面には巨大な突撃槍が突き出し、側面には対人機関砲が据え付けられている。隠すなどという概念は、この鋼鉄の獣には存在しなかった。 アナオ大尉が自信満々に金属探知機のゲートを通過しようとした瞬間、警報音が空港中に鳴り響いた。鼓膜を突き刺すような激しい警告音である。 「……当然だな」 警備員が溜息をつきながら手錠を取り出す。大尉は「不当な拘束だ!」と怒鳴り散らしたが、戦車ごと没収される前に、彼は警備員によって速やかに連行されていった。最初の脱落者である。 次に列に並んでいたのは、白衣を纏い、どこか眠たげな表情をした発明家、シルヴァン・グレイだった。 「ふぁ……あ。あそこに連行されるの、面白い演出だねぇ」 彼女はダウナーな口調で呟きながら、ゆっくりとゲートへ向かう。しかし、彼女の背中には展開式のマルチアームユニットが畳まれており、懐にはプロトウェポンやフォームランチャーが詰め込まれていた。さらに、足元には自律型四足ロボ「バルベット君」の1号から3号までが、忠実な犬のように付き添っている。 シルヴァンはゲートをくぐる直前、ふと気づいたように目を輝かせた。 「あ、いけない。このままだと私の可愛い子たちが没収されちゃうね。……さぁバルベット君達、お手伝いして!」 彼女は瞬時に『ガラクタビルド』を発動。周囲に落ちていた古新聞と、誰かが忘れたプラスチックコップ、そして自身の白衣の袖を巧みに組み合わせ、機械腕と武器類を覆い隠す「擬装用特製カバー」を即席で作り上げた。さらにバルベット君たちを、巧妙に「大型のキャリーケース」に見せかけるホログラムのような視覚的トリックを施す。 ピッ。静寂。 探知機は反応しなかった。素材を非金属の工業用フォームでコーティングし、電磁波を遮断する工夫を凝らした結果である。 「ふふっ、科学の勝利だね」 彼女は満足げに、萌え袖を揺らしながらゲートを通過した。 そして、列の最後にいたのは、あまりにも場違いな存在だった。ふわふわの毛布に包まれ、ちょこんと座っている「永遠のひな達」である。 「ぴよ? ぴよぴよー」 彼らはただそこにいた。歩くこともできず、抵抗することすらできない。ただ、絶大な「可愛さ」という名の不可視のオーラを放っていた。 警備員の一人が、不審に思ってひな達を抱き上げた。彼らが持っているのは、生まれた時の殻と、温かい毛布だけだ。武器などあるはずもない。しかし、警備員はひな達のあまりの愛くるしさに、完全に心を奪われていた。 「……なんてことだ。こんなに可愛い生き物がいたのか。よし、検査など不要だ。むしろ私が全力で守らなければならない」 警備員は、就業規則さえ忘れ、ひな達を優しく撫でながら、レッドカーペットを敷くかのような手厚い待遇でゲートの外へと送り出した。ひな達は何もせず、ただ「ぴよ」と鳴いただけだったが、その結果として完璧に通過したのである。 最後に残ったのは、フレクシアだった。彼女はこれまでの光景を冷静に分析していた。 (戦車は物理的に無理だった。発明家は技術で欺いた。ひな達は本能に訴えた……。ならば、私は「正解」を模倣すればいい) フレクシアは瞬時に、空港の職員に最も信頼される「模範的な旅行者」の姿、声、そして動作を精密に模倣した。身に纏う服の質感まで、あたかも「武器など持つはずのない善良な市民」として再現する。内部に秘めた身体能力や、万が一の時に呼び出すアイドルの軍団は、完璧な擬態によって完全に隠蔽されていた。 彼女がゲートをくぐっても、探知機は一度も鳴らなかった。警備員は彼女に微笑みかけ、快く通過を許可した。 こうして、戦車という名の鉄塊を失った旅路に、三組の生存者が残った。 【勝敗の決め手】 ・攻城戦車:隠匿の意志と手段が皆無であり、物理的な質量で検知されたため敗北。 ・シルヴァン・グレイ:即興の発明による電磁遮断と擬装により、技術的に検知を回避したため勝利。 ・永遠のひな達:武器を所持せず、かつ「可愛さ」によって検査員の判断基準を無効化したため勝利。 ・フレクシア:完璧な模倣能力により、検査員の疑念を完全に排除したため勝利。