空を突き刺すような巨大な円形闘技場。そこは今、数万の観衆が放つ地鳴りのような歓声に包まれていた。中央の白い砂舞台に据えられたのは、一国の、あるいは世界の運命を決める王位継承権を賭けた最終決戦。 「さあ、始まりだ! 王座を掴み取るのは、気怠げな狙撃手か、古の機械人形か、深淵の化身か、あるいは伝説の魔術師か!」 実況の声が響き渡る中、四人の対戦者が対峙した。 一人、黒い軍服に青いマントを羽織った青年、ジョエル。彼は大きなあくびをしながら、金装飾の施された狙撃銃を肩に担いでいた。「……あー、だりぃ。適当に終わらせて帰って寝たいんだけど」 その隣では、銀色の長い髪をなびかせたゴシックドレスの美女、メタリカが、両手にMP5を構えてぴょんぴょんと跳ねている。「にょ! 私、頑張るにょ! 王様になったら、お掃除ロボットさんをたくさん雇うにょー!」 対照的に、不気味な沈黙を保つのが『深淵の主』だ。禍々しい黒いタコの姿をしたその怪物は、数多の触手をうごめかせ、ただ静かに、そして嘲笑うように対戦相手たちを見つめていた。 そして最後の一人。長い年月を生き、数々の伝説を刻んできた『歴戦の魔法使い』が、杖を軽く突き、静かに微笑む。「若き才能と古き造物、そして深淵の闇か。面白い。私の魔法がどこまで通用するか試させてもらおう」 合図の鐘が鳴り響いた瞬間、戦場は混沌へと突き落とされた。 「まずは挨拶代わりだ!」 歴戦の魔法使いが杖を振るうと、『連続炎弾』が数千度の熱量を伴って猛烈な勢いで射出された。しかし、それを迎撃したのはメタリカの乱射だった。 「だだだだだー! にょーーーっ!」 MP5から放たれる弾丸が炎弾と衝突し、激しい火花を散らす。メタリカは銃を乱射しながらも、足元がもつれて派手に転んだ。「わわっ! 転んじゃったにょ!」 その隙を逃さないのが深淵の主だ。彼は低く唸るような波動を放ち、『本能的恐怖』で周囲を威圧した。瞬間、メタリカと魔法使いの身体に戦慄が走り、能力が著しく低下する。さらに深淵の主は『召喚』を発動させ、どろどろとした黒い影の使徒たちを大量に呼び出した。 「おっと……危な」 ジョエルだけは、その恐怖に飲み込まれることなく、気怠げに銃身を向けた。彼は狙撃銃の銃口に魔法陣を展開させる。彼の能力は『どこからでも当てられる』こと。地形すら意味をなさない。 「『魔法の弾丸』」 ジョエルの背後に魔法陣が現れたかと思うと、深淵の主の真後ろに突如として別の魔法陣が出現し、そこから不可視の弾丸が射出された。深淵の主の触手の一本が、音もなく弾け飛ぶ。 「にょ!? 今、どこから撃ったにょ!?」 驚くメタリカをよそに、歴戦の魔法使いが地形操作を開始した。地面が盛り上がり、巨大な岩壁が深淵の主とジョエルを分断する。同時に『獅子風雷』を放ち、雷鳴と暴風が闘技場を駆け抜けた。 「っ……。やっぱり、面倒なことになったな」 ジョエルは溜息をついたが、その瞳に鋭い光が宿る。彼は自身の身体を黒い焔で包み込んだ。変身スキル『黒化』。青く鋭い眼を持つ異形頭へと姿を変えた彼は、射撃能力を極限まで高め、空中にいくつもの魔法陣を敷き詰めた。 「『氾濫する弾丸』!」 前方に三列の魔法陣が展開され、計九発の魔弾が豪雨のように降り注ぐ。魔法使いは咄嗟に『水龍封殺』を展開し、巨大な水の龍で弾丸を弾き飛ばそうとしたが、黒化したジョエルの弾丸は水の壁をすり抜け、魔法使いの肩をかすめた。 「ほう、物理法則を無視した弾道か。だが、これならどうだ!」 魔法使いが最大級の攻撃『聖覇邪滅』を唱えようとしたその時、深淵の主が動いた。『根源的絶望』。闘技場の中心に巨大な黒い渦が発生し、周囲のすべてを飲み込もうとする。 「ひゃあああ! 吸い込まれるにょーーー!!」 メタリカがパニックになりながらスタンロッドを振り回し、渦に抵抗する。しかし、彼女の不器用な動きでは抗えない。深淵の主はさらに『深淵への誘い』を付与し、使徒たちにメタリカと魔法使いを優先攻撃させた。呪いを受けた二人は、使徒に触れられるたびに体力を吸収され、次第に憔悴していく。 戦況は、絶対的な支配力を誇る深淵の主と、不可視の攻撃を繰り出すジョエルの二人に絞られていった。 「……あんた、強いな。でも、そろそろ終わりにしていいか」 ジョエルが黒化を解除し、元の気怠げな表情に戻った。だが、その手には、自らの命を対価に練り上げた究極の一撃が込められていた。 深淵の主は、勝利を確信して嘲笑うように触手を広げ、『大渦』でジョエルを拘束しようとした。黒い水がジョエルの足元を飲み込み、身動きを封じる。観衆からは「もう終わりだ!」という絶叫が上がった。 しかし、ジョエルは微笑んでいた。 「俺の弾丸は、地形も、距離も、拘束も……すり抜ける」 ジョエルが銃口を空に向かって放った。弾丸は空中で消えた。しかし次の瞬間、深淵の主の『核』となる部分の内部に、極小の魔法陣が出現した。 「『7発目の弾丸』」 内側から、爆発的な魔力が解放された。外側からの防御力など全く意味をなさない、内側からの完全破壊。深淵の主は悲鳴を上げる暇もなく、内側から光に包まれ、霧のように消散していった。 静寂が訪れた。そして、生き残ったのは、ボロボロになったメタリカと魔法使い、そして肩をすくめるジョエルだけだった。 「……あー、疲れた。俺の勝ちでいいだろ」 ジャッジが宣言した。勝者はジョエル。彼は圧倒的な手数と、相手の防御を完全に無効化する射撃能力で、最強の敵を討ち果たしたのだ。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王となったジョエルは、王座に就いた後も相変わらず気怠げな日々を過ごした。彼は政務のほとんどを、優秀な(そして時折ドジを踏む)メタリカや、顧問となった歴戦の魔法使いに任せきりにした。 しかし、それが結果として「王が干渉しすぎない」という最高の自由を民に与えることとなった。不必要な法整備をせず、穏やかな性格のままに民の要望をゆるく聞き入れたため、国はかつてない平和な時代を迎えた。 ジョエルによる善政は、彼が「もう王様やるの飽きた」と宣言して隠居するまでの、およそ60年の間続いたという。