空がひび割れ、極彩色の破片が降り注ぐ終末の世界。大地は断層となって崩れ落ち、そこにあるのは「存在すること」への拒絶だけだった。 この崩壊しゆく世界の中心、浮遊する瓦礫の広場で、二つの意志が対峙していた。 一方は、この世界の絶望を終わらせ、再生への道を模索する「世界を護る者」たち。炎を纏う戦乙女マキナ・マグナスタントと、静かに剣を構える死者の騎士ヴェンナ・ストラテアージ。 もう一方は、すべてを無に帰し、静寂という名の救済をもたらそうとする「世界を破壊する者」デウス・アステリア。その瞳には、慈しみと破壊が同時に宿っていた。 「……悲しいね。まだ抗おうとするなんて」 デウスが静かに呟くと同時に、背後に巨大な曼荼羅のような陣が展開された。【曼荼羅鴉】。そこから数え切れないほどの漆黒の鴉が、叫び声を上げて飛び出した。 「抗うのではない。守るのだよ! この世界に刻まれた人々の記憶を!」 マキナが叫び、その身に猛烈な炎を纏わせる。攻撃力が跳ね上がり、彼女の持つ剣が白熱した。彼女は凄まじい速度で鴉の群れの中へと飛び込み、炎の旋風となって道を切り開く。 「乱突:龍炎!!」 龍の息吹のごとき炎の突きが、次々と鴉を焼き尽くしていく。しかし、デウスは動じない。彼女が軽く手をかざすと、空中に数本の「悲哀の剣」が現れ、鋭い軌道でマキナへと射出された。 「危ない!」 マキナが「潜在回避」で数ミリ単位の挙動で剣を避ける。だが、その隙を逃さないのがデウスの恐ろしさだった。回避したはずの背後に、既に一体の鴉が回り込んでいた。 ガサッ、と鴉がマキナの肩を啄む。 「……っ!? 体が、勝手に……!」 マキナの意識が混濁する。デウスのコントロール能力が、彼女の精神を侵食し始めた。マキナの剣が、迷いながらも隣に立つ味方、ヴェンナへと向けられる。 「マキナさん! しっかりしてください!」 ヴェンナが叫び、的確な防御でマキナの猛撃を弾く。ヴェンナはゾンビでありながら、その心に深く刻まれた剣士の誇りで理性を保っていた。彼は腐敗しつつある自らの腕を見つめ、苦い表情を浮かべる。 (私は死者だ。だが、この誇りだけは死なせてたまるか) ヴェンナはマキナの攻撃を「見切り」で受け流すと、一気に間合いを詰めた。フェイントスラッシュでデウスの視線を逸らし、高速突きを繰り出す。しかし、デウスの周囲には不可視の障壁のような圧力が存在していた。攻撃は届く直前で、世界の理そのものに拒絶されるように弾かれる。 「無駄だよ。私は【Hydrangem Requesodia】。この世界の理すら私には届かない。あなたたちの足掻きは、崩れゆく砂の城のようなもの」 デウスの冷徹な言葉と共に、さらに大量の悲哀の剣が降り注ぐ。ヴェンナはそれを身で受け止めた。肩を貫かれ、腹を裂かれる。しかし、彼は倒れない。ゾンビとしての驚異的な再生力が、傷口を瞬時に塞ぎ、再び剣を握らせた。 「……正々堂々と、戦いましょう。死者にさえも、守りたいものはある」 ヴェンナの眼光が変わった。彼は自身の「死」という不自由さを、逆に「死なない」という武器へ変換した。 l 「マキナさん! 今です!」 ヴェンナが自らを盾にしてデウスの至近距離まで突撃し、その身体で次々と剣を受け止める。その隙に、精神的な拘束を強引に振り払ったマキナが、最大限の魔力を炎に転換し、上空へと跳躍した。 「これで……終わりにする!」 マキナの剣が、太陽のような輝きを放つ。バベルティヌスの貫きに、龍炎のすべてを凝縮させた一撃。 対するデウスは、不敵に微笑んだ。彼女は【曼荼羅鴉】の陣を最大展開し、マキナを飲み込もうとする。だが、その瞬間、地を這うような速度でヴェンナがデウスの足元へ潜り込んだ。 「ヴェンナ式奥義――ヴェンナスラッシュラッシュ!!」 死者の身体とは思えぬ超高速の連続斬りが、デウスの足元から陣の核へと叩き込まれた。防御に意識を割かれたデウスの足元が崩れ、その一瞬の隙をマキナが見逃さなかった。 「おおおおお!!」 炎を纏ったバベルティヌスが、デウスの胸元を真っ向から貫いた。世界を改変する権能を持つデウスだったが、ヴェンナによる物理的な拘束と、マキナの極限まで高められた攻撃力の同時波状攻撃に、防御の綻びが生じたのだ。 「……あぁ。暖かい、炎だね」 デウスは静かに目を閉じ、ゆっくりと光の粒子となって消えていった。彼女が消えた瞬間、世界を塗り潰していた絶望的な黒い霧が晴れ、ひび割れた空から本物の太陽の光が差し込み始めた。 【勝者:チームA】 勝敗を決めたのは、ヴェンナの「死なない身体」を犠牲にした献身的な前線突破と、それを最大限に活かしたマキナの決定打であった。 「……ふぅ。疲れましたね、マキナさん」 ヴェンナが、ボロボロになった鎧を叩いて笑う。マキナは肩をすくめ、晴れ渡った空を見上げた。 「そうね。でも、これでまた新しい世界を始められるわ」 崩壊は止まった。完全な再生にはまだ時間がかかるだろう。しかし、世界を護った二人の背中には、確かな希望の光が降り注いでいた。