参加者詳細 名前: ビヨンド・パイオニアー 二つ名: 超えてゆく、凡ゆる者の予測、認識を飛び越えて。冷静沈着な老人 種族: 人間 所持品: 凡庸なる小刀――刃こぼれも目立つ、どこにでもある小刀。ただ一つだけを携えている。 特性: 不確定の結果。結果は確定せず収束もしない。ゆえに覆せる。 越権: 無限因果を認識し、覆し、超える権利。 信条: 人間はいつも前へ進むという意思を持って道を切り拓いた。行けるところまで切り拓き、超えてゆこう。それが人間だ。 この記録は、塔の全階層を踏破した証ではない。塔は進行を望む者の前に、いくらでも上へ続く。記録された到達階層と高さは、今回の探索で確認された数値である。 到達記録 { 1,847階:《勝利》 } 最終到達階層: 1,847階 地上からの高さ: 7,386.4㎞ --- 最終戦記録――第1,847階 第一章 終わりを告げる鐘 第1,847階に、上へ続く階段はなかった。 あるのは、地平線のように広がる白い床と、その中央に吊られた黒い鐘だけだった。壁も天井もない。遠くを見れば、雲海の下に地上の青い曲線がかすかに見える。ここは地上から7,386.4キロメートル。空気も重力も、階層が用意した規則によって保たれていた。 ビヨンド・パイオニアーは鐘の手前で立ち止まった。長い道のりの疲れは老人の肩に残っていたが、呼吸は乱れていない。手には、あの凡庸なる小刀がある。 鐘が鳴った。 音は耳に届く前に、彼の足元から過去を消した。第1階層からここまで、何度も傷つき、何度も倒れ、それでも進んできた道筋が、白い床から一本ずつ抜き取られていく。傷の痛みも、勝利の記憶も、積み重ねた経験さえも、無かったことにする鐘の音だった。 その音の向こうから、魔物が歩み出る。 《終鐘を告げる黒冠の審判者》《審判種》終端執行者 ネームドモンスターだった。 黒い鎧の巨人。頭部には冠にも似た輪が浮かび、その輪の内側には、無数の閉じた目が並んでいる。右手には黒い槌。左手には、判決文を刻んだ巨大な石板を持っていた。 「進行者、ビヨンド・パイオニアー。ここまでの到達を認める。これより先への進行は認めない」 審判者の声には怒りも憎しみもない。すでに決まった結末を読み上げる声だった。 ビヨンドは小刀を握り直した。 「まだ、先がある」 「先はない。お前の敗北をもって、この探索は閉じる」 「それは、そちらが決めることじゃない」 鐘が二度目に鳴った。 第二章 確定した敗北 審判者の槌が床を打つ。 衝撃は音も光も伴わなかった。ビヨンドの右脚が、膝から下だけ「敗北した後の状態」へと書き換えられる。骨は折れていない。血も流れていない。それでも脚は、最初から敗北を受け入れた者のように動かなかった。 続けて、石板に文字が刻まれる。 ――凡庸なる小刀は、終端に届かない。 小刀の刃が、瞬きのあいだに錆びた。刃先が欠け、柄が割れる。道具の未来を先に定め、現在をその未来へ従わせる力。戦う前に、勝利へ必要なものを奪う審判だった。 ビヨンドは床へ片膝をついた。 鐘の三度目の音が近づいてくる。音が鳴れば、彼の敗北は過去と未来の双方に刻まれるだろう。立ち上がったことも、ここへ来たことも、最後には「敗北するための前置き」として整理される。 彼は、小刀を見た。 凡庸な刃だった。何かを斬るために特別に作られたものではない。伝説も、祝福も、世界を変える力もない。だが、その刃を手にした者は、いつだって目の前のものへ向き合えた。 「判決はもう決まっている」審判者が告げる。「覆らない」 「決まっていることと、変えられないことは違う」 ビヨンドは、折れた脚を床につけた。 身体は応じなかった。だから彼は、身体に応じさせようとはしなかった。脚が動かないという結果を認めたまま、その結果の外側へ重心を移す。 片手を床につき、肩を押し上げる。 彼は立ち上がった。 第三章 越権 鐘が鳴る。 今度は、ビヨンドの存在そのものへ響いた。 過去の彼が敗北し、現在の彼が敗北し、これから先の彼も敗北する。無数の因果が一つの結末へ折り畳まれ、すべての分岐が黒い一点に収束しようとした。 それでも結果は、確定しなかった。 敗北の筋書きは、彼を完全には閉じ込められない。ビヨンドは、決まった因果を認識する。認識したうえで、そこに小さな隙間を見つける。たった一歩ぶんの隙間を。 彼は倒れ、また立った。 概念がその動きを否定した。絶望が、進む目的など無いと告げた。記録そのものが、ここで終わると宣言した。見えない何者かが、物語の外から敗北を確定させようとした。 ビヨンドは、それらすべてを受けた。 そして、受けたまま前へ進んだ。 「なぜ、続ける」審判者が初めて問いを発した。「終わりを拒む理由は何だ」 「理由があるから進むんじゃない」 老人は、割れた柄を握り締める。 「進むと決めたから、道ができる」 彼は床を蹴った。動かぬはずの脚が一歩を刻む。傷は消えない。敗北の因果も消えない。だが、それらはもはや彼の歩みを決めるものではなかった。 審判者は槌を振り上げた。 ビヨンドは、その眼前へ至った。 第四章 GO BEYOND 審判者の槌が振り下ろされる。 その一撃は、彼が避ける場所を先回りして塞いでいた。あらゆる回避の可能性が読み取られ、選ばれる前に潰されている。小刀の届く距離へ踏み込む未来もまた、判決文の中で禁じられていた。 だが、ビヨンドの斬撃は、予測される未来のどれにも属さなかった。 彼は大きく構えない。技巧を誇示しない。握った小刀を、ただ一度だけ横へ振る。 GO BEYOND。 斬撃は、槌を断った。 黒い石板を断ち、冠の輪を断ち、鐘の音が作り上げた因果の鎖を断った。刃が触れたものだけではない。刃が届かないはずだった距離も、決められた判決も、「この戦いの結末は変わらない」という前提も、ひとつの斬線に沿って裂けていく。 万象を断つ一閃。 それは、世界を壊すためではなかった。進行を拒むものを断ち、前へ行くための道を開くための一撃だった。 審判者の鎧に、一本の細い線が走る。 「結末が……覆ったのか」 「いや」ビヨンドは答えた。「結末は、まだ決まっていなかった」 黒冠が砕けた。石板が白い床へ崩れ、終鐘の音はそこで途切れた。審判者は膝をつき、巨体を静かに横たえる。 ビヨンドの小刀も、最後の一振りで完全に折れていた。 第五章 ポータルの向こう 戦いの後、白い床の端に帰還ポータルが現れた。 第1,847階は十の倍数ではない。通常なら帰還手段はないはずだった。しかしネームドモンスターを倒したことで、塔は戦利品とともに、規則に記されていない一時的な帰還門を残した。門が保たれる時間は短い。先へ続く道もまた、遠くに開いている。 ビヨンドは、その先を見た。 さらに上へ伸びる階段がある。第1,848階、その先にもまた階層がある。今の勝利は塔の制覇ではない。塔は終わっていない。彼の探索も、進むことを望むなら続いていくだろう。 だが、折れた小刀を手にした老人は、いったん帰還を選んだ。 疲れた身体を休め、道具を整え、また歩き出すために。 ポータルをくぐる直前、彼は振り返った。 「行けるところまで、だ」 塔は答えなかった。ただ、雲の上へ、さらに高く続いていた。 特別報酬 報酬: 「終鐘の欠片」1個 ネームドモンスター《終鐘を告げる黒冠の審判者》の冠から落ちた、親指ほどの黒い金属片。手の中で握ると、鐘の音に似た微かな振動を返す。 - 一日に一度、受けた一つの呪縛・拘束・因果干渉を、十秒間だけ保留できる。 - 保留した効果を消滅させる品ではない。十秒後には再び作用するため、その間に逃走、反撃、解除などを行う必要がある。 - 希少な塔産素材として、適正な鑑定を受けた場合の推定価値は金貨12,000枚。 報酬額: 金貨12,000枚相当 参加者の感想:「道は、いつも勝てる者だけに開くんじゃない。負けると決められた場所からでも、次の一歩を探す者に続いている」 --- 最高到達階層: 1,847階《勝利》 地上からの距離: 7,386.4㎞(参考: 地上から静止軌道までのおよそ36,000㎞の約5分の1) 特別報酬: 「終鐘の欠片」1個(金貨12,000枚相当) 参加者の感想:「行けるところまで、切り拓き、超えてゆこう。それが人間だ」