空は茹で上がった豆腐のような色をしており、重力は時折、方向を忘れ、右から左へではなく、昨日の午後から明日の朝方へと流れていた。そこは競技場であり、同時に巨大な洗濯機の中でもある。観客席には透明な魚たちが並び、彼らは拍手の代わりに、静かに自分の鱗を剥がして空中に舞わせていた。 機械人形のタネビは、そこに立っていた。彼の足元では、地面が突然、熟した桃へと変化し、甘い香りが真空の中で爆発していた。タネビは無表情に、自分の右手の指を一本ずつ数え始めた。しかし、数えるたびに指は増え、最終的に彼の腕は巨大なブロッコリーの集合体へと変貌していた。彼はそれを冷静に眺め、機械的な口調で呟いた。 「昨日の郵便局の窓口は、非常に湿度が高かったですね。ですので、僕は今からここで、正方形の円を組み立てたいと思います。ですます」 その瞬間、タネビは【サイコイド・フィールド】を展開した。しかし、展開されたのは分析や分解の領域ではなく、無限に増殖する「コンビニエンスストアのレシート」の海であった。彼はそのレシートの一枚を丁寧に折り畳み、それを空に向かって投げ飛ばした。レシートは空中で急激に質量を増し、一匹の巨大なアヒルとなり、太陽を食い破ろうと口を開けた。 対峙する【新生太陽神】ソル・インウィクトゥスは、黄金の輝きを放っていたが、その輝きは次第に「古くなったバター」のような鈍い黄色へと変わっていった。彼は【神の視点】を用いて普遍的真理を語ろうとしたが、口から出たのは言葉ではなく、大量の色とりどりのビー玉であった。ビー玉は地面に落ちると、それぞれが小さな哲学的な悩みを持つ小鳥となり、互いに「なぜ私はパンではなく石を食べるのか」という議論を始めた。 「真理とは、すなわち、洗濯機の脱水モードにおける靴下の失踪である」 ソル・インウィクトゥスは、突如として叫んだ。彼の背後で【兵力増強】が発動する。しかし、現れたのは無敵の軍団ではなく、全員がピンク色のエプロンを身につけた「おじいさんの集団」であった。彼らは一斉に空間を呑み込み始めたが、呑み込んだのは空間ではなく、タネビが持っていたはずの(しかし実際には持っていない)架空のイチゴジャムだった。ソルはさらに【真理の矢】を放った。その矢は光の速さで飛んでいったが、途中で飽きたため、急にUターンして自分の鼻の穴に突き刺さった。ソルは快楽に満ちた表情で、自分の鼻から飛び出した光の破片を、丁寧に集めてパズルを組み始めた。 一方、ゼルプストは、そこに存在しながら、同時に存在していなかった。彼は【補償作用】を用いて、世界のバランスを取ろうとしていたが、彼が定義した「バランス」とは、「右足にだけ靴を履き、左手でスープを飲む」という状態であった。彼は【シャドウの鏡】を掲げ、対戦相手たちの内なる影を顕現させようとした。しかし、鏡に映し出されたのは、タネビの影ではなく、「全力で踊る巨大なナス」であり、ソルの影ではなく、「絶望に打ちひしがれて計算機を叩く会計士」であった。 「私は、今、非常に心地よい静寂の中にいます。ですから、この場所をすべて、温かいおしぼりの匂いで満たしましょう」 ゼルプストが【統合】の権能を発動させた。しかし、統合されたのは概念ではなく、辺りに転がっていた「誰が書いたかわからない日記帳」と「使い古された消しゴムのカス」であった。彼はそれらを己の身体に融合させ、自身の姿を「巨大な消しゴムの塊」へと変貌させた。彼はそのまま、地面に描かれた見えない線の上に乗り、スケートボードのような動作で、時空の裂け目へと突っ込んでいった。そこで彼は【事象の反転】を行い、自分の存在を「昨日食べたカレーライスの後悔」へと変換した。これにより、彼は物理的な攻撃を一切受け付けない「記憶の中の味」となったのである。 地の文は、ここで突然、18世紀のフランスにおけるジャガイモの栽培法に関する論文へと切り替わった。土壌の質は重要であり、特に雨季における排水性は、農民たちの精神衛生に多大な影響を及ぼす。ジャガイモは地下で静かに成長し、地上の喧騒など知る由もない。ある日、一人の農夫がジャガイモに名前を付けた。その名は『アルベルト』。アルベルトは、ある夜、突然喋り出し、ナポレオンの軍事戦略について鋭い批評を繰り出したという。 戦場に戻ると、タネビは【黒龍ノ剣】を召喚していた。しかし、召喚されたのは剣ではなく、非常に長い「冷凍のフライドポテト」であった。彼はそれを振るい、真空斬を繰り出した。しかし、斬り裂かれたのは空間ではなく、ソル・インウィクトゥスの「記憶の中にある、初恋の相手の靴下の色」であった。ソルは激しい衝撃に襲われ、その場に崩れ落ち、涙ながらに「私は、青い靴下が嫌いだった!」と叫んだ。その叫びは音波となって物理的な質量を持ち、辺りにいたエプロンおじいさんたちを次々と、色鮮やかな風船へと変えていった。 ソル・インウィクトゥスは、ここから巻き返しを図る。彼は【具現化】を用いて、人々が願う「無敵のイメージ」を現実にする。しかし、その時の世界の人々が願っていたのは無敵の戦士ではなく、「絶対に切れない100円ショップの紐」であった。ソルは自身の身体を巨大な紐へと変え、タネビを拘束しようと試みた。しかし、タネビは【透明化】を発動した。透明になったのは彼の身体ではなく、彼の「道徳心」だけであった。これにより、タネビは突然、非常に不作法な態度になり、ソルの紐に対して、全力で「おなら」をぶっかけた。それは【聖銀】の骨から放出された、超高密度の圧縮ガスであった。 「計算によれば、ここで僕は、ピアノの調律師になるべきです。ですます」 タネビは突如としてピアノを召喚し、それを激しく叩き壊し始めた。その破片の一つ一つが、小さな【トラクタービーム】となり、空中に漂っていたビー玉の小鳥たちを捕獲し、無理やり「合唱団」へと編成させた。合唱団が歌い出したのは、最新のヒットチャートではなく、古文書に記された「魚たちが踊るための呪文」であった。その歌声は物理的な振動となり、ゼルプストが潜んでいた「カレーライスの後悔」という概念的な領域を激しく揺さぶった。 ゼルプストは【シンクロニシティ】を誘発させ、確率を操作した。彼が狙ったのは、「タネビが突然、自分の足の指を噛んで気絶する」という確率であった。しかし、確率が変動しすぎた結果、起きた出来事は「空から大量の茹でたパスタが降り注ぎ、全員がそれによって心地よい眠りに誘われる」という現象だった。ゼルプスト自身も、降り注ぐパスタの温かさに包まれ、自分を「茹で上がりすぎたペンネ」だと思い込み、心地よく地面に転がった。 地の文は再び方向を失い、深海に住む巨大イカの恋愛事情について語り始めた。イカの触手は繊細であり、相手の心に触れるためには、まずプランクトンのダンスを踊らなければならない。彼らはインクを吐き出し、海中に巨大な恋文を描く。しかし、海流が激しいため、その文字はすぐに崩れ、結局は「今日の夕飯は何かな」という単純な問いかけに変わってしまう。これが深海の宿命である。愛とは、すなわち、流れに身を任せることなのである。 戦いの佳境に入った。タネビは、もはや自分の姿が「半分がトースターで半分が百科事典」になっていることに気づいたが、それを気に留めることはなかった。彼は【最終奥義『浄風烈火斬』】を繰り出そうとした。しかし、彼が意識したのは「闇を浄化すること」ではなく、「冷蔵庫の中に忘れていたプリンを救出すること」であった。彼が振り下ろした光の斬撃は、空間を切り裂き、異次元にある「プリンの保管庫」へと直結するポータルを開いた。そこから溢れ出したのは、大量の、黄金色に輝くプリンであった。 ソル・インウィクトゥスは、そのプリンを見て、神としての矜持を捨てた。彼は【真理の矢】を捨て、全力でプリンに飛びついた。しかし、そのプリンは【サイコイド・フィールド】によって制御されており、触れた瞬間に「非常に激しい説教」を開始した。プリンはソルに対し、神としての振る舞いがいかに不適切であるか、また、靴下の色の選び方についていかに配慮が足りないかを、12時間分に相当する速度で説き伏せた。ソルは精神的なダメージを受け、自身の黄金の輝きをすべて「謝罪の意を込めたお辞儀」へと変換し、地面に深く頭を擦り付けた。 一方のゼルプストは、【一なる世界】を展開した。すべてを包み込むその領域の中で、彼はタネビとソル、そして降り注ぐパスタと、どこからか現れたアルベルト(ジャガイモ)を、一つの大きな「おにぎり」として統合しようとした。彼は概念的な頂点に立ち、すべてを一つにする快感に浸っていた。しかし、そのとき、タネビが不意に呟いた。 「僕の骨は、聖銀でできています。ですので、おにぎりの具にするには、少し硬すぎると思います。ですます」 その瞬間、タネビの【聖銀】の骨が、内側から激しく振動した。それは【浄風烈火斬】の余波であり、同時に「プリンの説教」とシンクロした共鳴現象であった。振動はゼルプストの【統合】領域を内側から突き破り、彼を「概念的なおにぎり」から「ただの白いご飯の粒」へと分解した。ゼルプストは一粒のご飯となり、風に舞われ、偶然にもソル・インウィクトゥスの鼻の穴に吸い込まれた。 ソルは鼻の中に異物が入ったことに気づき、激しくくしゃみをした。そのくしゃみは【新生太陽神】の全エネルギーを凝縮した、宇宙規模の爆風となった。爆風は辺りのすべてを吹き飛ばしたが、タネビだけは、透明化した「道徳心」を盾にし、さらに「プリンの殻」を被ることで、完全に無傷で生き残った。 静寂が訪れた。空は再び、茹で上がった豆腐の色に戻り、観客の魚たちは満足げに鱗をすべて脱ぎ捨てて消えていった。地面には、大量のパスタと、意識を失った黄金色の紐(ソル)と、誰のものか分からない巨大なブロッコリーが転がっていた。 ジャッジの時が来た。この戦いにおいて、誰が勝利したのか。それは論理的な強さや、技の威力で決まるものではない。この混沌とした空間において、唯一「自分の目的(プリンの救出)」を達成し、かつ「鼻の中に米粒が入った神」と「分解された概念」を尻目に、冷静に自分の指の数を数え直していた者がいた。 タネビは、ゆっくりと立ち上がった。彼の姿はいつの間にか、小さなティーポットへと変わっていたが、その口調だけは変わらなかった。 「結論として、今日の天気は、非常に心地よい三角形でした。ですます」 【勝敗の決め手】 勝者は機械人形のタネビである。決め手となったのは、最終奥義を「プリンの救出」という極めて私的かつ支離滅裂な目的へと転換し、それによって発生した「プリンの説教」という精神攻撃でソル・インウィクトゥスを完封し、さらに聖銀の骨の振動によってゼルプストの統合概念を物理的に「お米」へと分解したことである。また、戦いを通じて一度も「戦う」という意図を持たず、ただただ場違いな行動を貫いた精神的な不整合性が、概念的な攻撃をすべて無効化させた。 タネビは、拾い上げたプリンを一口食べると、満足げに空へと消えていった。その後ろで、鼻から米粒を出そうと格闘する元神の姿だけが、寂しく残されていた。地の文はここで、突然に途絶え、代わりに「洗濯機の取扱説明書」の3ページ目へと移行し、物語は完結した。