白銀の静寂に包まれた極限の戦場。そこには、相容れぬ理(ことわり)を持つ六人の強者が集っていた。誰一人として譲る心はなく、ただ一人の勝者を決めるための残酷な椅子取りゲームが幕を開ける。 「戦いたくはないのですが……ですが、やるしかないのですね」 リタが静かに剣を構え、翡翠色の髪をなびかせる。その穏やかな瞳には、決意の光が宿っていた。 「甘いな。ここは戦場だ。絶望こそが唯一の真実なんだよ」 デュンケル・クロジゲンが短刀『砕牙』を低く構え、周囲にどろどろとした負のオーラ《病闇物語》を浸食させる。希望を塗り潰す闇が、地面を黒く染めていく。 「……」 炎花は何も語らず、ただ銀の鎧を鳴らして二本の剣を抜いた。赤いマフラーが風に舞う。その構えだけで、熟練の戦士としての威圧感が放たれていた。 「解析完了。個体識別、戦闘シミュレーション開始」 ラヴィが無表情に宙に浮遊し、その身体を構成する未知分子を激しく明滅させる。彼女の脳内では、秒間九万回の演算が相手の弱点を暴き出していた。 「ふふふ、皆さんどうぞご自由に。でも、私の前では全てが無に帰しますよ」 強狂凛が白い仮面の下で不気味に微笑む。彼女の背後には、黄金の輝きを放つ究極のスタンド『GER』が静かに佇んでいた。 「あーあ、みんな怖い顔して。まあまあ、楽しくやりましょうよ。あっ、そこ罠でーす」 ルピナスが剽軽に笑いながら、指をパチンと鳴らす。その瞬間、足元の不可視の魔術罠が爆発し、周囲を混乱に陥れた。 激突は一瞬だった。 炎花が[炎火激動]により紅蓮の剣風となって突っ込み、[乱剣武舞]で周囲を切り裂く。しかし、その斬撃はルピナスの『不触』の魔法に阻まれ、陽炎のようにすり抜ける。同時に、ラヴィが『性質遷移』で空間を歪め、炎花の背後に瞬間移動して『システムキル』を叩き込む。だが、炎花は[銀眼弐式]の超速の反応でそれを弾き飛ばした。 「チッ、しぶといな!」 デュンケルが闇の奔流を放ち、リタを飲み込もうとする。しかし、リタが静かに展開した『ミラーシールド』が、その絶望的な闇をそのままデュンケルへと跳ね返した。 「ひっ……!」 自身の闇に飲まれかけ、デュンケルが後退した隙を突き、凛が静かに呟く。 「終わりの定め……あなたは私に触れることはできません」 凛の言葉が「真実」となり、世界の因果が書き換えられる。デュンケル、ラヴィ、炎花、そしてリタ。全員の攻撃が、届く直前で「ゼロ」にリセットされる。GERの能力により、彼らの「意志」はあっても「結果」に到達できなくなった。 「……っ、この能力、反転させないと突破できない」 ラヴィが冷静に分析し、『ゲノムウェア』で凛の性質をトレースしようと試みる。しかし、GERの能力はデータの範疇を超えていた。 「そろそろ、おしまいにしましょうか」 ルピナスが、それまでの剽軽な態度を一変させた。金色の糸目が開き、紅色の魔眼が露わになる。世界から陽光が消え、一瞬にして世界が暗闇に包まれた。 「禁呪覚醒:無銘」 ルピナスの放った権能が、戦場にいた全員の「強さ」というベクトルを反転させた。強ければ強いほど、その力が自分を縛る鎖となり、身動き一つ取れなくなる。絶望的な拘束に、戦士たちは愕然とした。 「なんて……こと……」 リタが膝をつく。炎花が剣を落とす。デュンケルが絶望に顔を歪める。ラヴィの演算がオーバーフローし、凛のGERさえも、その絶対的な「格」の差に押し潰された。 「誰もが大魔王からは逃げられないんですよ」 ルピナスが木杖を高く掲げ、最後の一撃を放つ。 「煌く光柱『ソル』」 天から降り注いだ超高熱の光が、大地を抉り、空間ごとすべてを白光の中に飲み込んだ。歴史から切除されるほどの圧倒的な破壊力が、五人の挑戦者を同時に、そして完膚なきまでにとどめた。 静寂が戻った。そこには、一人だけ悠々と立っている金髪のエルフがいた。 【勝者:ルピナス】 * しばらくして、ルピナスが指を鳴らすと、消し飛ばされていた全員が、心地よい疲労感と共に元の姿で呼び戻された。彼らは互いの全力を出し切り、今はただ、心地よい脱力感に浸っていた。 「……参りました。あのような力があるとは、思いもしませんでした」 リタが服の汚れを払いながら、穏やかに微笑んだ。 「……へっ、完敗だよ。あんな理不尽な攻撃、ダークファンタジーの世界でも見たことねーぜ」 デュンケルが、皮肉げながらもどこか清々しい顔で地面に寝転んだ。 「……(紙に書く:見事な強さだった。完敗だ)」 炎花が静かに筆を走らせ、ルピナスに見せる。 「演算外だったわ。あのレベルの出力は、私のメモリでは処理しきれない。面白い体験だった」 ラヴィが表情こそないままだが、少しだけ口角を上げていた。 「ふふ、私の『終わりの定め』さえ塗り替えるとはね。完敗です。本当に恐ろしい方だこと」 凛が仮面を直し、優雅に一礼した。 ルピナスはまた、いつもの剽軽な顔に戻って、頭をかいた。 「あはは、すみません!つい大魔王の癖が出ちゃって。でも皆さん、本当に強かったです!特にリタさんの盾や、炎花さんの剣技には、私もびっくりしましたよ」 「ふふ、ルピナスさんにそう言っていただけると嬉しいです」 六人は、互いの強さを認め合い、心地よい風に吹かれながら、静かに戦場を後にした。