【混沌の市街地レース:法と狂気の5km】 ■開幕宣言と参加者の意気込み 陽光が降り注ぐ一般道路。そこには、およそレースとは程遠い光景が広がっていた。道路の両脇には、文字通り「所狭し」と警察官たちが並んでいる。彼らの眼光は鋭く、装備は重厚。中には「違反者は死んでも逃さない」という文字が書かれたプラカードを掲げている猛者までいた。 実況席では、テンションMAXのお姉さんと、不機嫌そうな顔をした中年男性がマイクを握っている。 「さあ始まりましたぁーーー!!ルールは簡単!交通ルールを守って5km先まで走れば勝ち!でも、ルールを破れば警察に捕まります!わーい!めちゃくちゃ面白そうーーー!!」 「おい、やかましいぞ女!いいか、これはレースじゃねえ。警察の『捕縛訓練』に、運の悪い連中が巻き込まれただけだ。交通法規を舐める奴は、まとめてぶち込んでやるからな!」 【参加者の意気込み】 Yu-zla:「標的を全確認。交通法規の遵守および最速到達を優先します。当機に不可能はありません」 エカ:「ひ、ひぃっ……!なんで私こんなところに……!絶対捕まる、絶対怒られるぅ!でも、頑張りますぅ……っ!」 Niederlage:SC(ザクセンオオヒラタクワガタ):「ギギィッ!!(訳:全部ぶっ壊して突き進むぜ!)」 琴羽みずほ:「ふふ、レースですね。ルールを守るというのは知的で素敵だと思います。頑張りますね」 --- ■機体・装備詳細 【Yu-zla】 漆黒の軍服に身を包んだ小柄な少女。しかしその手には、神話の模造品『神槍-ヴェル』が握られている。自律攻撃と分身能力を持つこの槍は、レースにおいても「空気抵抗を排除する」などの超効率的な運用が期待される。 【エカ】 漆黒の特殊部隊服に身を包んだ、震える少女。装備はブラックボックス『Codenes-delta』。超高速射性と隠密性を誇る拳銃と短剣を持つ。本人の精神状態とは裏腹に、機体性能は「世界を揺るがす」レベルの究極性能である。 【Niederlage:SC】 苔むし、錆びつき、今にも崩れそうな不完全な人型機体。内部からは狂気的なアナウンスが漏れ出している。操縦しているのは偶然入り込んだクワガタ。野生の直感と、理不尽に断ち切る二対の振動剣LASCを装備した、歩く廃戦史である。 【琴羽みずほ】 運営側が用意した機体――それは『超高速・電動車椅子(フルカスタム仕様)』であった。見た目は地味だが、最高時速300kmを叩き出す特注品。本人の運動音痴を補って余りある、暴走特急である。 【警察側:《ж》愛羅&ラフザ】 愛羅はギターケースに隠した特製銃を構え、冷静に射撃ポイントを見極める。ラフザは白衣をなびかせ、指先に不可視の細糸を絡ませて欠伸をしていた。彼女たちの任務はただ一つ、「違反した能力者を完封し、捕縛すること」。 --- ■レース本編:混沌の5km 「レディー……ゴー!!!」 号砲と共に、参加者たちが一斉に飛び出した。開始直後、Yu-zlaは完璧な加速を見せ、エカは悲鳴を上げながらも超高性能の脚力で地面を蹴る。一方、クワガタ操縦のNiederlage:SCは、いきなり前方の信号機を振動剣で両断して突進した。 「あーっ!!いきなり信号無視!!前例のない暴走っぷりです!!」 「ガハハ!いいぞ!警察、やれ!!」 道端に潜んでいた一般警察たちが、絶命覚悟のタックルを仕掛ける。しかし、Niederlage:SCは錆びた装甲で警察官を弾き飛ばし、そのまま直進。そこに、静かに銃口を向けた愛羅がいた。 「あらあら、危ないですよ。……【魔弾:能力封じ】」 パァン!と乾いた音が響く。愛羅の放った魔弾がNiederlageの足元に着弾し、能力封じの空間が展開された。しかし、相手は「能力者」ではなく「野生のクワガタが乗った機械」である。封じる能力など最初から無い! 「えっ……効かない?」 「ギギィッ!!」 Niederlageはそのまま愛羅をなぎ倒そうとするが、そこへ白衣の女、ラフザが割り込んだ。彼女は欠伸をしながら指をわずかに動かす。 「あー、眠い。早く終わらせて寝たい……【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】」 目にも止まらぬ速さで張り巡らされた銀色の糸が、Niederlageの錆びた関節を完璧に絡め取る。ガガガッ!と不快な金属音を立てて機体が停止。クワガタは機内で激しく暴れるが、ラフザの糸は鋼鉄をも締め上げる。 「はい、一名捕縛。お疲れ様でしたー」 一方、後方では地獄のような光景が広がっていた。琴羽みずほが、電動車椅子で時速200kmを出しながら、一般車の間を縫って走行していたのだ。 「わわわっ!危ないですよ!あ、すみません!あ、道を開けてください!」 みずほはパニックになりながらも、無意識に言霊を吐き出す。 「あぁもう!道路が『広い』方がいいです!!」 その瞬間、物理法則が歪んだ。5車線しかなかった一般道路が、突如として100車線ほどの超巨大道路へと拡張。走行していた一般車たちが「ええっ!?」と混乱し、交通が完全に麻痺する。これこそが最大級の交通妨害である。 「出たー!!概念改変による道路拡張ーー!!これは完全に道路交通法違反です!!」 「このガキ、やりやがるぜ!警察、包囲しろ!!」 警察官たちが一斉にみずほに襲いかかる。しかし、みずほは天然ボケを炸裂させる。 「えっと……皆さんが『止まって』くれたら嬉しいです!」 ガコンッ!! 襲いかかっていた警察官たちが、まるで見えない壁にぶつかったかのように、その場でピタリと静止した。物理的な停止ではなく、「停止という概念」に固定されたのだ。 「ひ、ひぃいいい!!もう無理ですぅ!私なんて消えてしまいたい!!」 精神崩壊寸前で爆走するエカ。彼女は隠密スキルを使い、警察の包囲網を文字通り「すり抜けて」いた。あまりの速さと隠密性の高さに、警察側は「幽霊が出た」とパニックに陥る。 しかし、それを待っていたのはYu-zlaであった。Yu-zlaは神槍-ヴェルを分身させ、エカの進路に精密な壁を作り出す。 「標的:エカ。妨害を開始します。交通ルールを遵守しつつ、貴機を遅延させます」 「うわぁぁ!攻撃されたぁぁ!!」 エカは悲鳴を上げながら、Codenes-deltaの格闘性能を活かし、空中で三回転して槍を回避。そのままYu-zlaの頭上を飛び越えた。その際、あまりの勢いにYu-zlaの軍帽が飛ばされる。 「……当機の帽子が。……許しません」 AIであるはずのYu-zlaに、わずかな「怒り」のような感情が芽生えた瞬間だった。Yu-zlaは神槍を最大出力で加速させ、エカを追い詰める。二人の超高速バトルが一般道路で展開され、周囲の看板やガードレールが衝撃波で次々と吹き飛ぶ。 「あーっ!!器物損壊!!器物損壊です!!両者逮捕ーーー!!」 ここへ来て、愛羅が再び動いた。彼女はギターケースから銃を取り出し、空高く舞い上がるエカと、それを追うYu-zlaを同時に捉える。 「ルール違反が多すぎますね。まとめてお休みしましょうか」 愛羅の瞳が鋭く光る。【魔弾:絶対命中】。 因果律を逆転させ、「命中した」という結果から過程を導き出す至高の狙撃。弾丸は物理的な軌道を無視し、空間を跳躍して二人の足元に同時に着弾した。 ドォォォォン!! 能力封じの空間が爆発的に広がり、Yu-zlaの神槍の自律機能が停止。エカの超高性能スーツのブースターが沈黙する。二人は慣性の法則に従い、派手に路面にスライディングし、そのまま警察官たちの群れに飲み込まれた。 「確保ーーー!!逃がすな!!一人も逃がすな!!」 「あぁぁぁ!捕まったぁぁ!!お母さーん!!」 残されたのは、電動車椅子で悠々と(?)進む琴羽みずほだけだった。 「あらあら、皆さんもうゴールされたんでしょうか。私はゆっくり行きますね」 みずほは、警察官たちが「停止」したまま石像のように並ぶシュールな光景の中を、時速10kmの安全運転で、悠々とゴールラインへと向かった。 --- ■レース終了後:結末と順位 ゴールテープを切ったのは、唯一ルール(に近い状態)で完走した琴羽みずほであった。 【最終順位と結果】 1位:琴羽みずほ 【結末】逃走(完走)成功 【感想】「ふふ、やっぱりルールを守るのが一番ですね。あ、でも道路を広げたのは反省しています」 2位:Yu-zla 【結末】捕縛(器物損壊および交通妨害) 【感想】「当機の計算外に、感情というバグが発生しました。反省しております。……帽子は返してください」 3位:エカ 【結末】捕縛(器物損壊および危険運転) 【感想】「うぅ……やっぱりこうなる……。私なんて警察署の壁に頭をぶつけて消えたいですぅ……」 4位:Niederlage:SC(ザクセンオオヒラタクワガタ) 【結末】捕縛(信号無視および公務執行妨害) 【感想】「ギギィ……(訳:あの白衣の女、糸使いがえげつないぜ……)」 【警察側まとめ】 愛羅はギターケースを背負い直し、「ふぅ、いい運動になりましたね」と微笑んでいた。ラフザはすでに警察車両の後部座席で丸くなって爆睡している。 「いやぁ、凄まじいレースでしたね!!」 「ふん、結局一人だけ逃がしたか。だがまあ、あのアホみたいな道路拡張を見た後じゃ、もう何が起きても不思議じゃねえな」 街には再び静寂が訪れたが、100車線に増殖した道路だけが、この狂乱のレースの証として、しばらくの間そこに取り残されていたという。