静寂に包まれた白亜の闘技場。そこは次元の狭間に浮かぶ、勝敗を決するためだけの聖域であった。陽光さえも人工的に制御されたその場所で、対照的な二人の少女が対峙していた。 一人は、夜を切り取ったかのような漆黒のドレスを身に纏い、ふわりと舞う桃色の長髪を揺らす少女、エリア。彼女は【支配の瞳】の幹部としての矜持を隠そうともせず、不敵な笑みを浮かべていた。その瞳には、ボスから授かった禁忌の力「鏡眼」が妖しく光っている。 対するは、一見すれば可憐な魔法少女。しかし、彼女の周囲にはあり得ない数の武具が、まるで見えない意思に導かれるように円環状に浮遊していた。彼女の名は「剣槍斧弓刀鎚砲盾鎧の魔法少女」。武器たちの囁きを聞き、その魂を共鳴させる稀代の使い手である。 「いや〜、まさかこんなところで戦うことになるなんて!運命って本当に面白いです!ねえ、あなた、そんなにたくさん武器を持ってて重くないですか?見てるだけで肩が凝りそうです!」 エリアが屈託のない、しかし相手を小馬鹿にした明るい口調で言い放つ。彼女は軽やかにステップを踏み、空間に指先で円を描いた。 「……彼らは重くない。私と心を一つにしているから」 魔法少女の静かな返答。それが合図だった。エリアが指を弾くと、空間に突如として巨大な鏡の壁が数枚、不規則な角度で出現した。 「まずは挨拶代わりに、これで!」 エリアが叫ぶ。彼女の背後に現れた鏡から、凝縮された高密度の光線が放たれた。――『ライトレーザー』。真っ白な閃光が空気を焼き、凄まじい速度で魔法少女を襲う。直撃すれば地形を変えるほどの威力を持つ光の槍である。 しかし、魔法少女は眉一つ動かさなかった。彼女の背後から、黄金色に輝く巨大な盾が瞬時に前面へと飛び出した。――『盾魔法』。 ガキィィィィン!! 鼓膜を突き刺すような金属音が鳴り響き、光線は盾に当たった瞬間に激しく散乱した。火花が舞い、衝撃波が地面をえぐったが、魔法少女は一歩も退かない。 「へぇ、いい反射神経です!でも、正面だけ見てちゃダメですよ?」 エリアがクスクスと笑う。魔法少女が盾に意識を向けていた隙に、周囲に配置していた鏡から無数の鋭い破片が射出された。――『ミラーショット』。それはまるで銀色の雨のように、あらゆる角度から魔法少女を包囲し、殺到する。 魔法少女は即座に反応した。今度は槍と刀が同時に舞い出る。――『槍魔法』『刀魔法』。超高速の回転斬りと突きが、飛来する鏡の破片を次々と叩き落としていく。キィィィン!という高い金属音が連続して鳴り、空間に銀色の粉塵が舞った。 「あはは!いいですね、その調子で頑張ってください!でも、飽きちゃったので次に行きますね!」 エリアが瞳を細めると、彼女の周囲に実体を持った「もう一人のエリア」が次々と現れた。――『ミラージュ』。そしてさらに、彼女の「鏡眼」が発動する。魔法少女の姿を完全にコピーした、実体を持つ鏡像が誕生した。鏡像は本人の六割の力を持つが、それでも十分すぎる脅威である。 「私の鏡像と、あなたの鏡像。どっちが強いか試してみませんか?」 エリアの本体と鏡像たちが一斉に襲いかかる。鏡像の魔法少女は、本物と同じように武器を操り、猛攻を仕掛けた。空を切り裂く斧の斬撃、地を砕く鎚の一撃。本物の魔法少女は、自分自身のコピーという鏡合わせの戦いを強いられることになった。 「くっ……! 動きが完全に読まれている……!」 魔法少女は『鎧魔法』を展開し、全身を不可視の魔力障壁で覆うことで、鏡像たちの猛攻を凌ぎ切る。しかし、エリアの本体はそれを嘲笑うかのように、鏡の中へと消えた。 「どこを見てるんですかー? ここですよー!」 魔法少女の真後ろの空間に鏡が出現し、そこからエリアが飛び出す。同時に、彼女は魔法少女の姿を鏡に映し出した。――『ミラーリンク』。エリアが空中で自分の掌を叩くと、鏡の中の魔法少女の胸元に衝撃が走った。実体への直接攻撃。物理的な防御を無視した、鏡の理による攻撃である。 「きゃっ!」 魔法少女が衝撃で後方に弾き飛ばされる。しかし、彼女は空中で体勢を立て直すと、これまでで最も激しい魔力の高まりを見せた。彼女の周囲に浮かぶ全ての武器が、一つの中心点へと集束していく。 「武器たちの声が……聞こえる。全力で、あなたを打ち破れと!」 魔法少女が右手を高く掲げると、巨大な砲撃器が最前線に現れた。――『砲魔法』。それだけではない。砲身の周囲を剣、槍、斧が旋回し、遠心力による魔力加速を加える。まさに兵器の頂点とも言える複合攻撃の構えだ。 「おっと、本気出しますか! 面白いです、私も全力で返してあげますね!」 エリアは余裕の表情を崩さず、正面に巨大な鏡の壁を一枚、展開した。それはあらゆる攻撃を跳ね返す究極の防御。――『リフレクト』。 「撃て!!」 魔法少女の号令と共に、砲撃が放たれた。凄まじい轟音と共に、極太の魔力光線が放たれ、大地を蒸発させながらエリアの鏡へと激突する。衝撃波で周囲の瓦礫が消し飛び、白い光が視界の全てを塗りつぶした。 しかし、エリアは不敵に笑っていた。 「はい、お返しです!」 リフレクトの効果により、放たれた砲撃はそのまま正確に、魔法少女の方へと跳ね返された。逃げ場はない。自分自身の全力の一撃が、自分に向かって返ってくるという絶望的な状況。 だが、魔法少女は諦めていなかった。彼女は最後の手段として、全ての武器を一点に集中させ、究極の防御陣を構築した。『盾魔法』と『鎧魔法』を極限まで重ね合わせ、さらに剣と刀を十字に交差させて衝撃を逃がす。防御の極致である。 ドォォォォォォン!! 爆発的な衝撃が闘技場を揺らす。光の渦の中で、魔法少女は歯を食いしばり、その衝撃に耐えていた。しかし、エリアの真の狙いはそこではなかった。 「あはは! 必死に耐えてる姿、最高に滑稽です! でも、もう終わりですよ!」 爆煙の中、魔法少女が盾を構えて耐えている瞬間、彼女の足元の地面に小さな鏡が設置されていた。エリアが事前に、鏡を自在に行き来するスキルを用いて密かに配置していたのだ。 その小さな鏡から、エリアの手が伸び、魔法少女の背後に回り込んでいた。彼女は魔法少女の耳元で、いたずらっぽく囁いた。 「チェックメイトです!」 エリアが指先で魔法少女の肩に触れた瞬間、魔法少女の周囲に展開されていた武器たちが、一斉に鏡の破片へと変化した。エリアが鏡の支配権を拡張し、魔法少女が操る武具の「心」さえも鏡の虚像へと書き換えたのだ。 「え……?」 魔法少女が驚愕に目を見開いた瞬間、彼女を囲んでいた武器(鏡の破片)たちが一斉に内側に向かって砕け散った。それは激しい攻撃ではないが、逃げ場のない精神的なショックと、微細な破片による拘束。魔法少女はそのまま、光の粒子に包まれて膝をついた。 静寂が戻る。エリアはふわりと着地し、勝ち誇ったように腰に手を当てた。 「いやー、いい戦いでした! あなたの武器たち、結構いい声してましたよ。でも、鏡の美しさには勝てませんでしたね!」 魔法少女は、自身の武器たちが消え、静まり返った空間に呆然としていたが、やがて小さく溜息をつき、微笑んだ。 「……完敗ね。あなたの遊び心に、武器たちが翻弄されたみたい」 「あはは! 素直でいいですね! 気に入りました。次はもっと面白い遊びをしましょうね!」 エリアは快活に笑いながら、再び鏡の中へと消えていった。後に残されたのは、激戦の跡を物語る砕けた鏡の破片と、心地よい疲労感に包まれた魔法少女だけだった。 【勝者:エリア】 決め手となったのは、相手の全力攻撃を『リフレクト』で受け流し、その注意が完全に防御に逸れた隙に『鏡の転移』を用いて死角から接近し、相手の武器を鏡像へと上書きした戦術的な機転であった。純粋な火力ではなく、相手の心理と視覚を操るエリアの「おちょくり」の精神が、勝利を掴み取ったのである。