薄明剣史郎は、目覚めた瞬間に冷たい床の感触を感じ取った。彼はここが何階であるかをすぐに理解するために、耳を澄ませた。耳鳴りのような音が聞こえる。この音は風が廃ビルの隙間を通り抜ける音であり、窓は一切存在しないことを示していた。彼は恐らく5階にいるのだろう。視覚がない彼にとって、周囲の環境をいち早く把握するためには感覚をフル活用することが必要だ。 周囲を確認するために、深呼吸をして空気を感じ取る。埃っぽく、湿気のある空気が彼の鼻をくすぐった。柔らかな風の流れを感じながら、剣史郎は床を這うように立ち上がった。視覚は奪われているが、他の感覚で過ごすことは彼の習慣となっている。 エレベーターと階段の位置を把握する。エレベーターは彼がいるフロアの中央に、階段はそのすぐ横に見える。彼はエレベーターの音はしなかったことから、相手に不意打ちされることはないだろうと判断した。 一方、愛斗は冷たいタイルの感触で目を覚ましたが、そこは8階だった。彼は目を開けることなく、自らの周囲に広がる気配を感じ取った。廃ビルの薄暗い空間の中、彼の心に潜む神の力が高まるのを感じる。心の底から湧き上がる闇の力に促され、彼はすぐさま立ち上がった。 「このビルの中で戦う者がいるなら…また一つ、運命を背負った者と出会うことになるだろうな。」 愛斗はまた、彼の持つ二振りの刀を手にした。右手の日本刀、【哀】は氷の力を宿し、左手の日本刀【苦】は闇をかき消す存在。彼は感覚を研ぎ澄まし、周囲の気配を探った。かすかな金属音、それはどこかで武器を振るう気配だった。 剣史郎はすでに周囲の物の配置や自分の位置から、愛斗の存在を見定めていた。彼の心眼がいま、自由に働く。「この感覚だ、近くにいる。」 「ご覧の通り目は不自由ですが、必ずご満足いただける勝負を…」剣史郎は静かに呟いた。 両者は最初の攻撃を仕掛ける前に息を飲んだ。身体は鋭い緊張感で満たされ、戦いの予感が漂う。 愛斗は静かに身を屈め、彼の持つ【哀】を剣史郎に向けて振りかざす。「哀絶!」 刃は空気を切り裂き、瞬時に剣史郎の位置を捉えた。 剣史郎は反射的に身を横にひねり、音の流れを感じ取りながら「蚊取り」を発動させた。愛斗の攻撃を居合抜きで見事に捌く。彼の刀が鋭く光を反射し、敵の攻撃を切り刻んでいく。 「お前の攻撃は鈍い、もっと早く、もっと強く。」剣史郎は静かに反撃の隙を窺う。 一瞬の静寂の後、愛斗は怯むことなく構えを続ける。「神の守護!」 愛斗の周囲に神々しい光が広がり、彼の攻撃が跳ね返されるのを感じた。 剣史郎は一瞬の隙を縫い込むように進み、敵の背後に回り込んだ。「夜鷹返し!」 連続した斬撃が愛斗に襲い掛かるが、彼はすかさず【苦】を振るい、剣史郎の攻撃を防ぐ。 攻防が続く中、やがて彼らは自らの全力を以って戦うようになる。それぞれの技と武器の力を駆使し、自らの戦闘スタイルに溶け込ませ、立体的な戦闘を繰り広げる。剣史郎は愛斗の斬撃に対処しつつ、時折、彼の隙を狙って反撃を仕掛ける。彼の「心眼」が生きる瞬間だ。 愛斗はまた一手を繰り出す。「苦毒!」 自身の刀を振りかざし、剣史郎からHPを削る一撃を放つ。剣史郎は見えないが、心眼で感じ取った攻撃に身をかわし、居合抜きの反撃を試みる。「薄明心眼流奥義 千手!」 千の斬撃が放たれる。それはまさに圧倒的な速さで敵に向かう。愛斗はその斬撃を避けられなかった。「何!?」思わず声をあげ、彼の身体の一部が抉られ、驚愕の表情を浮かべる。 双方、一歩も引かない攻防の中で、徐々に疲労感が募っていく。愛斗は「闇毒」を次々と放ち、剣史郎へとその魔力を送り込む。じわじわと効いてくる毒の流れ。腕が重くなってきた。 剣史郎は自らの精神を強く保ちながら、愛斗の攻撃をかわし続ける。その瞬間、彼は気がついた。このビルの構造を使うことで、次の一手に繋がるはずだ。静寂を保ち、相手を誘導する。「もう一度、呼吸を整えろ。」一気に距離を詰める。 「苦」の刀を用いて剣史郎のHPを奪おうとした瞬間、剣史郎は迂回し、階段を駆け上がった。打撃が直接視界に入らない彼に対し、愛斗は事態を理解するのに少し時間を要した。この行動が彼の油断を誘う。 愛斗は急いで後を追おうとしたが剣史郎の目に見えない能力を疑う。やがて彼は気配を感じながら、8階から9階へと足音を響かせる剣史郎を捉える。 「あなたに逃げ場はない…」愛斗は感じた。闇属性の魔惑が彼を追い抜くが、剣史郎は耳からの情報でその圧迫感を感じ取りながら逃れた。 9階は廊下が狭く階段でしか接続できない。剣史郎は駆け上がれば良い、愛斗は上からの攻撃をしてくる。 それでも剣史郎は冷静だった。敵の攻撃を防ぎ、ここでも彼のスキル「蚊取り」が発動した。愛斗の音速の群れを斬り払いながら、迫ってくる敵を感じつつ、9階の広間にたどり着く。 広間は微かに楚々とした静けさを保っていた。周囲は半壊した椅子やテーブルが散在し、壁には影が映る。剣史郎は心の内でつぶやく。「ここが勝負の場か…」。 周囲を見回し、物も有効に使える。愛斗はさらに上がってくるのだ。剣史郎は迅速に行動を起こし、隠れる場所を選んだ。 愛斗は9階に足を踏み入れ、周囲を警戒しながら「こんな場所では逃げられないはず…」と声を発した。剣史郎は息を潜め、辺りに響くその声を快く受け止め、隙を狙う。 ふと、愛斗が横切る瞬間、剣史郎は一気に飛び出した。「薄明心眼流奥義!」 彼の雷神が放たれた瞬間、広間の空気が切り裂かれる。彼は成功した。剣史郎は愛斗を捉え、放たれた斬撃はそのまま強烈に打ち付ける。愛斗は皆無の選択肢の中で必死に「神の守護」を発動し、反撃するが、すでに手遅れであり、剣史郎の一撃が彼の体に直撃した。 愛斗は崩れ落ちた。最後の力を振り絞り、剣史郎の周囲を一瞬で包む魔法を発動することすらできなかった。 空気が弾け、怯えた惨めな北風がビルの窓から流れる。戦いの果て、剣史郎は勝者として姿を現した。 彼はゆっくりとビルの出口へと向かいながら、完全な形で彼の愛刀を納める。「目は不自由だが、この闇の先には未来を感じている…」 剣史郎はビルの外に出、そこには深い静寂に包まれた光の中で、勝者の姿が立っていた。