雲海を突き抜け、天を衝くように聳え立つ絶壁の連峰。そこは地上から隔絶された神域、あるいは地獄――【千剣山】。雷鳴が轟き、白銀の雲が渦巻く頂に、その絶望的な巨躯は鎮座していた。 全長440メートルを超える白銀の鱗。鋼をも凌駕する硬度を誇るその鱗は、周囲の光を冷酷に反射し、見る者に絶望的な格差を突きつける。古龍『蛇王龍ダラ・アマデュラ』。その存在こそが、この山の生態系の頂点であり、同時に破壊の化身であった。 ギルドからこの絶望的な討伐依頼を受けたのは、およそ接点のない四人の異能者たちである。 一人は、星々を瞳に宿した冷徹な美貌の武士、星幽煌輝。黒い甲冑和服に身を包み、腰には薄紫に光る神星刀を携えている。 一人は、厚着で正体を隠した放浪の悪魔、リブライト。身の丈を超える巨大な肉塊の鎚を肩に担ぎ、瞳の奥にどろどろとした破壊衝動を秘めていた。 一人は、戦場に不釣り合いな商人の風貌をした男。だが、その背後には無限とも言える回復アイテムと、変幻自在の武装を隠し持っている。 そして最後の一人は、身から爆弾を生成し、古語を操る異形のスピノサウルス、【爆創】ゼピノザウルサ。 「……星の光が届かぬ雲海。なかなかに風情ある地でございますね」 星幽煌輝が静かに呟き、刀の柄に手をかけた。その瞳は、既に眼前の巨龍の急所を、そして「死」の軌跡を見切り終えている。 「ふふ……。ねえ、あんなに大きいの。思い切り潰していいのよね?」 リブライトが口角を吊り上げ、巨鎚を地面に叩きつけた。彼女にとって、この戦いは狩りではない。快楽なき殺戮こそが最高の娯楽なのだ。 「汝らの覚悟、しかるべき火薬にて購おうぞ。此度の戦、爆炎の海に沈め!」 ゼピノザウルサが古風な口調で吠え、その巨体から火薬の香りを漂わせる。 商人は何も言わず、ただ冷静に【死の商人】の武器を銃へと変化させ、安全圏から状況を分析していた。 その時、静寂は砕かれた。 ――グォォォォォォォォォ!!!!! 蛇王龍の咆哮。それは物理的な衝撃波となって四人を襲い、大気を震わせた。普通の人間であれば、この咆哮だけで精神が崩壊し、心停止に至るだろう。しかし、星幽煌輝は微動だにせず、リブライトは歓喜に震え、ゼピノザウルサは鼻を鳴らした。商人は咄嗟に距離を取り、銃の照準を合わせる。 「まずは挨拶代わりか」 蛇王龍が動いた。鈍重に見える巨体からは想像もつかない速度で、その前脚が空を薙ぎ払う。【前脚薙ぎ払い】。地を抉り、山肌を削り取るその一撃は、文字通り「地図を書き換える」暴力であった。 リブライトが【身かわし】で紙一重に回避し、同時に【滾る衝動】が彼女の精神を加速させる。溜めが蓄積され、彼女の腕にどす黒いオーラが纏わりつく。 「遅い! 遅すぎるわ!」 リブライトが【バランスケープ】で高速移動し、巨龍の鱗に【ディソーグガベル】を叩き込んだ。ズガァァァン!! という凄まじい衝撃波が走るが、蛇王龍の鋼皮はびくともしない。むしろ、反動でリブライトの腕に衝撃が跳ね返った。 「……あはっ! 硬い! すごいじゃない! もっと、もっと強く打たせて!」 狂喜する悪魔。だが、蛇王龍の攻撃は止まらない。巨龍は身を翻し、巨大な尾を円形に振り回した。【尾撃】。周囲の岩石を粉砕し、あらゆる逃げ場を奪う広域一掃攻撃。商人が【死の商人の銃】を連射し、注意を逸らそうとするが、その弾丸は鱗に触れた瞬間に弾け飛んだ。 「無駄な抵抗なり。此度は此方から火を付けようぞ!」 ゼピノザウルサが咆哮し、空中へ【魚雷】を数十発、そして【爆弾ガトリング】を乱射した。空を埋め尽くす爆弾の雨が蛇王龍の頭上に降り注ぐ。 ドガァァァァァン!!!!! 連鎖的に発生する大爆発。千剣山の頂が激しく揺れ、白銀の鱗が爆炎に包まれる。しかし、煙が晴れた後、そこには鱗の一枚すら剥がれていない蛇王龍が、不快そうに首を振る姿があった。 「……なるほど。物理的な打撃では、星の核を穿つことは叶わぬようですね」 星幽煌輝が静かに一歩前に出た。彼女の周囲には、不可視の星々の加護【幾多に重なる星】が展開されており、蛇王龍が放つ熱風さえも彼女に触れることはない。 彼女が神星刀を抜き放つ。その瞬間、空気が凍りついた。 「――神刀術・静環」 閃光。ただの一閃。だがそれは、空間そのものを断ち切る一撃だった。薄紫の光が蛇王龍の側面を切り裂き、超硬度の鱗を容易く貫通して、深紅の血を噴出させた。 「ギィィィィィィィィッ!!」 初めての有効打に、蛇王龍が激昂する。その怒りは山そのものを変貌させた。 【第1段階:崩落】 蛇王龍が巨躯を激しく揺らし、千剣山の一部を破壊。足場となっていた巨大な岩棚が崩落し、プレイヤーたちは絶壁へと突き落とされる。商人が咄嗟に【世界樹の葉】を構え、落下する仲間たちの安全を確保しようとするが、地上の混沌は止まらない。 蛇王龍が口を開いた。そこから放たれたのは、光の球――【閃光爆発ブレス】。 「避けて!!」 商人の叫びと同時に、光球が地面に激突。直後、視界を全て塗り潰すほどの超広範囲爆発が発生した。衝撃波が全てを薙ぎ払い、山頂の地形が完全に消失する。 リブライトは【バランスケープ】で空中に逃れたが、ゼピノザウルサが爆発に巻き込まれた。だが、彼はスピノサウルスであると同時に「爆弾の化身」だ。自らの血を爆弾に変える【身削り】で爆発の衝撃を相殺し、泥臭く生き残った。 しかし、商人は耐えきれなかった。爆風に吹き飛ばされ、岩壁に激突。全身の骨を砕かれ、意識を失った。 脱落者:エリクサー売りの商人(気絶) 「あら、おじさん寝ちゃったわね。ま、いいわ、お掃除は私たちがやるから!」 リブライトは空中で翼を展開し、【ヘルウィング】で急降下。最大まで溜め込まれた【力溜め】を乗せ、蛇王龍の胸殻――唯一の弱点である朱く脈動する部位へと【ファジーブレイク】を叩き込む! ガギィィィィィィィン!! 凄まじい衝撃。防御貫通を伴う一撃が胸殻を捉えた。しかし、そこは【超高温地帯】。リブライトの肉体に激しい火傷が走り、彼女の皮膚がジュウジュウと焼ける音がした。 「あはっ! 痛い! 熱い! 最高!!」 痛みすら快楽に変える悪魔。だが、蛇王龍の怒りは頂点に達していた。 【第2段階:消滅】 蛇王龍が地肌をぶち抜き、エリアの半分を文字通り消滅させた。足場はもはや点在する小石のような岩塊のみ。絶望的な状況の中、さらに最悪の予兆が訪れる。 蛇王龍の胸殻が、不気味な朱色に発光し始めた。周囲には蒼白の粒子が漂い、大気が重く、死の気配に満ちる。 【第3段階:覚醒】 「……星が、泣いていますね。この絶望に」 星幽煌輝が静かに刀を構える。 覚醒した蛇王龍が、天に向かって咆哮した。その瞬間、空の色が変わった。蒼白く輝く無数の隕石――【凶星】が、雨のように降り注ぐ。一つ一つの隕石が戦術核兵器に匹敵する威力を持ち、着弾するたびに山頂が消滅していく。 「ぬおおおお! 此等こそ真の火花なり! ぶつかり合おうぞ!!」 ゼピノザウルサが狂ったように【爆管射出】を連射し、隕石を空中で迎撃しようとする。時速300kmの爆管と隕石が衝突し、空が真っ白な閃光に包まれる。だが、数に圧倒される。一つの隕石がゼピノザウルサの巨体に直撃した。 ドォォォォォォォン!! 「ぐあああッ!!」 爆弾を操る彼でさえ、この天災級の威力には耐えられない。ゼピノザウルサの巨躯は地面に深く埋まり、意識を失った。 脱落者:【爆創】ゼピノザウルサ(気絶) 残されたのは、星幽煌輝と、満身創痍のリブライトのみ。 「さて……。仕上げをしましょうか」 蛇王龍が雲海に姿を消した。静寂が訪れる。だが、それは死の合図だった。エリアの端から、黄金の粒子を伴う蒼白い光の渦が出現。それは千剣山の半分を覆う巨大な刃となり、全てを薙ぎ払う【閃光薙ぎ払いブレス】。 リブライトが絶叫しながら鎚を振り回すが、その攻撃は光の渦に飲み込まれ、一瞬で消し飛ばされた。彼女の肉体は光の刃に切り裂かれ、血飛沫を撒き散らして宙を舞った。 脱落者:リブライト(気絶) 一人。ただ一人、星幽煌輝だけが、静寂の中に立っていた。 彼女の【幾多に重なる星】が、全てを拒絶していた。光の渦が彼女を飲み込もうとしても、星々の壁がそれを弾き飛ばす。状態異常、ダメージ、熱量。その全てが無効化される絶対的な領域。 「貴方は、あまりに美しく、そして残酷。ですが、私の星よりも輝くことは許しません」 彼女が神星刀を高く掲げた。刀身が薄紫色から、まばゆい純白の光へと変化する。彼女の背後に、数多の銀河が展開し、天から星々の力が降り注ぐ。 究極の奥義。全てを終わらせる一撃。 「永劫の星――神星の断罪」 彼女が地を蹴った。速度はもはや視認不能。光速を超えた一閃が、蛇王龍の巨躯を縦に、そして横に、数千回、数万回と切り裂いた。物理的な切断ではない。存在そのものを星の塵へと還す、因果の切断。 蛇王龍ダラ・アマデュラは、咆哮することさえ許されなかった。 白銀の鱗が、内側から白く光り輝き、そして――静かに砕け散った。全長440メートルの絶望が、一粒の星屑となって雲海へ消えていく。 静寂が戻った。破壊し尽くされた千剣山の頂に、ただ一人の女武士が、静かに刀を鞘に収めた。 「……お疲れ様でした。良き星の夜でございました」 彼女は気絶した仲間たちの元へ歩み寄り、そっと目を閉じた。戦いは終わった。 【QUEST CLEAR】