空はどす黒い灰色の雲に覆われ、太陽の光は絶望的に遮られていた。かつての都市は、コンクリートの骸骨のようなビル群が立ち並び、路面には腐敗した肉の臭いと、乾いた血の跡が塗り固められている。 地球を襲った謎のゾンビウィルス。それは生者を死へと誘い、死者を飢えた獣へと変えた。生き残った人々は絶望の中で戦い続け、精神も肉体も限界に達していた。 【荒廃したコロニー】 静まり返ったショッピングモールのような居住区。そこを、一人の男が這うようにして歩いていた。【死体漁り】ジョン・べリュークである。彼の目は常に周囲を値踏みし、生存の可能性だけを計算している。 「……くそ、何もねえ。死体すら食い尽くされてるか」 ジョンが呟いたその時、曲がり角から「ギチ……ギチギチ……」という不快な音が響いた。現れたのは、皮膚が剥がれ落ち、肋骨が剥き出しになったゾンビだ。それは顎が外れ、だらりと舌を垂らしながら、獲物の臭いを嗅ぎつけていた。 ジョンは静かにナイフを構える。正面から戦うのは愚かだ。彼はゾンビが通り過ぎる瞬間、死角から首の付け根を突き刺し、そのままもがいて倒れるまで体重をかけた。ゾンビが絶命すると、彼は手早くその死体が持っていた古びたバックパックを奪い取った。 「……まだ、チャンスが来てないってだけだ」 【その他のエリア:静寂の地下鉄駅】 一方、地下の暗闇の中では、異形の少女が震えていた。クルァウスである。230cmを超える巨体に16本の触手。しかしその心は臆病そのものだ。彼女は自作の『るぁいうぇと』を抱きしめ、もじもじと体をよじらせていた。 「るあ……え……うぃの……?(訳:こん……に……ちわ……?)」 誰もいない暗闇に話しかける。彼女の橙色の外皮は、地上から漏れ出る微量な放射線に反応し、ジリジリと焼けるような痛みを伴って赤く光っていた。彼女にとって、この世界は地獄よりも残酷な環境だった。 そこへ、集団のゾンビがなだれ込んできた。皮膚が灰色に変わり、瞳から光が消えた死者たち。彼らは不自然に関節を曲げ、四足歩行のような速さで襲いかかる。 「ひぎぃっ! らう、こわいっ!」 パニックに陥ったクルァウスが、反射的に『るぁいうぇと』を乱射した。十六丁の熱光線銃が同時に火を噴き、極太の橙色の光線が通路を焼き尽くす。ゾンビたちは悲鳴すら上げられず、一瞬で炭化した。しかし、その反動で彼女は転び、自身の触手でもつれながら泣き出した。 【その他のエリア:崩壊した市街地】 地上では、奇妙な一行が偶然にも合流していた。 「えええん! ぼく、もう歩けないよぉ!」 犬の耳を垂らして泣きべそをかく魔王くん。その隣には、なぜかパンツ一丁で陽気に歩く【愛】ぺぺ・ワキャブラータと、淡々と銃を構える「ただの人」がいた。 「はわわわ〜! 魔王ちゃん、泣かないで! みーが守ってあげるからぁ♡」 ぺぺがハートマークを作ろうとした瞬間、周囲のビルから「ガァァァ!」という咆哮が轟いた。現れたのは、身体が異様に肥大化した『変異種』のゾンビだ。筋肉が皮膚を突き破って盛り上がり、腕は巨大な棍棒のように変化している。 「チッ……運が悪いな」 ただの人が冷静にハンドガンを連射する。弾丸がゾンビの眉間に命中し、頭蓋を砕いた。しかし、変異種は死なない。再生能力を備えていた。 「も、もうダメだぁ! ぼくが囮になるっ!」 魔王くんが勇気を振り絞って前に出た。その瞬間、魔王くんの「愛され体質」が発動する。凶暴だった変異種が、ふと動きを止め、首を傾げた。本能的に「この小さい生き物を壊してはいけない」という矛盾した感情がゾンビを支配したのだ。 「今よ! ぺぺ!」 ただの人の指示に合わせ、ぺぺが全力で指を組んだ。 「みーの愛を受け取ってぇ! ハート・アタック♡」 光速のハート紋様が変異種に突き刺さる。すると、化け物は突然うっとりとした表情を浮かべ、ぺぺの足元にひれ伏した。最強の敵が、最強の味方(奴隷)へと変わった瞬間だった。 【研究所】 彼らは、生き残るための唯一の希望である【研究所】へと向かった。道中で合流したジョンとクルァウスを含め、奇妙なパーティが結成される。 研究所の内部は、さらに地獄だった。壁一面に張り付いた肉腫のようなゾンビが、天井から降り注ぐ。彼らは知能を持ち、戦略的に生存者を追い詰めていた。 「るあああ! いたいぃぃ!」 放射線が強く、クルァウスの外皮が激しく燃え上がる。彼女は激痛に耐えながら、16本の触手で仲間を抱え上げ、熱光線で道を切り拓いた。ジョンは死角からゾンビの急所を突き、ただの人は正確な射撃で後方を援護する。 最深部、ワクチンの保管庫へ辿り着いたとき、彼らを待ち受けていたのは、ウィルスの結晶化した「核」を持つ巨大なボスゾンビだった。その皮膚は鋼鉄のように硬く、銃弾も通用しない。 「ぼく、頑張る……! みんなを助けたいもん!」 魔王くんが、自らの魔力を全て絞り出し、光の壁を作って盾となった。その隙に、ぺぺがボスにハートを撃ち込み、意識を逸らさせる。そして、ただの人が驚異的な運で、ボスの唯一の弱点である「後頭部の亀裂」に、拾い集めた高威力の手製爆弾を投げ込んだ。 ドォォォォォン!! 爆炎と共にボスが崩れ落ち、彼らはワクチンを手に入れた。それを世界に散布し、ウィルスの増殖を止める戦いが始まった。 【エピローグ】 数年後。 世界に緑が戻っていた。灰色だった空は澄み渡り、廃墟の隙間からは色鮮やかな花々が咲き誇っている。 かつての戦友たちは、静かな丘の上に集まっていた。 クルァウスは、もう体が焼けることはない。ワクチンと環境の浄化により、彼女はこの世界で心地よく呼吸していた。もじもじしながらも、彼女は隣にいる仲間たちに、翻訳機を通さず小さな声で「ありがとう」と伝えた気がした。 ジョンは、もう死体を漁る必要はなかった。彼は土を耕し、食料を育てる生活に慣れていた。 魔王くんは、もふもふの耳を揺らしながら、蝶々を追いかけていた。漢字はまだ半分くらい忘れているが、心は満たされていた。 ぺぺは、相変わらずの格好で、世界中の動物たちに愛を振りまいていた。 そして、ただの人は、空を見上げてスマホを閉じた。 「……まあ、なんとかなったな」 彼らは、失われた多くの命に想いを馳せながら、新しく始まった世界の風に身を任せていた。