幕末・満月。雨の城下町。 降りしきる雨が、賑やかな城下町の灯りをぼやけさせていた。人々が家路を急ぎ、軒先では提灯が揺れる。しかし、その賑わいの裏側で、町の人々はある「噂」に怯えていた。 ――この町には、オニが出る。 だが、それは角の生えた怪物などではない。人の形をした、絶望の化身である。 路地裏の闇に、一人の老人が立っていた。黒い衣は、数えきれないほどの返り血を浴び、どす黒い色に染まっている。白髪が混じる黒髪、そして凪いだ水面のように静かな紅い瞳。その男こそが【闇夜の人斬り】無窮玄であった。 そこに、時代も理も、次元も超越した四人の「討伐者」が降り立つ。 一人は、ピンク色の服を着た幼い少女、さやちゃん。彼女の瞳には、この世界がAIバトラーという名の虚構であるという残酷な真実が映っていた。 一人は、近代的な銃器を携え、虚空を睨む少女、錠前サオリ。彼女は世界を「フレーム」で捉えるTASの権能を持つ。 一人は、根暗な表情でガムを噛む女、ラギマ。その手には因果を喰らう薙刀が握られている。 そして一人は、形こそ正体不明だが、触れる者に永劫の快楽を強制する聖具、御名宝留。 「……来たか」 無窮玄の声は、雨音に消えそうなほど静かだった。彼は刀を抜かない。ただ、そこに立っているだけで、周囲の空間から「生」が削ぎ落とされていく。 第一合:理の崩壊と、絶対の蹂躙 対峙した瞬間、さやちゃんが動いた。彼女にとって、この戦いは単なる作業に過ぎない。彼女は懐から無窮玄に酷似した人形を取り出し、迷いなくその頭と腕を引きちぎった。 「あはは! はい、終わりー!」 同時に、無窮玄の首と腕が、不可視の力でねじ切られ、地面に転がった。同時に、さやちゃんの権能が発動する。無窮玄の能力欄に記されていた「一刀の極致」という文字が、瞬時に『バナナ』へと書き換えられた。 しかし、その瞬間。地面に転がったはずの首が、静かに笑った。 (想起一:ある日の斬撃) かつて、彼はある山で、自身の首を斬ったことで「死」という概念を克服した者がいた。彼はその者を斬り、その絶望さえも一太刀の糧とした。死とは、ただの過程に過ぎない。 「……なるほど。不可視の因果、あるいは世界の書き換えか」 斬り飛ばされたはずの腕が、霧のように消え、元の位置に再構成される。首は静かに胴体へと戻り、何事もなかったかのように刀の柄に手が掛けられた。さやちゃんの「絶対的な優勢」というルールさえ、無窮玄にとっては「斬るべき対象」のひとつに過ぎなかった。 「えっ……? なんで? 私の能力は絶対なのに!」 「絶対、か。心地よい言葉だ。だが、私の剣は、その『絶対』という壁を斬るために研ぎ澄まされてきた」 第二合:計算され尽くした虚無 「……チッ、理外の化け物か。だが、フレーム単位でなら、あり得ない事象をねじ込める」 錠前サオリがSIG516を構え、虚空(カメラ)に向かって解説を始める。 「ここからTASによる最適化を行う。まずイベントスキップで攻撃モーションを省略し、アイテムIDを書き換えて『大人のカード』を実体化させ、さらに『けつワープ』による座標ずらしで、相手の攻撃判定の外側から致命的な一撃を叩き込む。完璧なルートだ」 サオリの動きは、人間業ではなかった。一フレームに数百回の動作を詰め込み、物理法則を無視して瞬間移動を繰り返し、無数のあり得ないアイテムを雨のように降らせる。 だが、無窮玄は動かない。回避もしない。 ドガガガッ!! と爆発的な衝撃が彼を襲うが、無窮玄はただ、静かにその衝撃を「受け止めて」いた。サオリの超高速攻撃、バグ技、概念的な消去。そのすべてが、彼が放とうとする「一太刀」に吸収され、糧へと昇華されていく。 (想起二:名もなき強者たち) 彼はかつて、神を自称する者、時間を止める者、空間を操る者、すべてを斬ってきた。彼らが誇る『特権』こそが、彼にとって最高の砥石となった。 「……速いな。だが、止まっている景色の方が、斬り心地は良い」 無窮玄が、わずかに肩を揺らした。その瞬間、サオリが構築していた「最適化ルート」が、物理的に断ち切られた。空間そのものが裂け、サオリの身体に深い斬撃が走る。 「がっ……!? 避けたはずだ……! フレーム的に、ここは絶対に当たらないはず……!」 「フレームか。そんな小細工、一太刀の前に等しく無に帰す」 第三合:因果の拒絶と絶望の快楽 「……もう、いい加減にしてよ。不毛な大地に沈みなさい」 ラギマが、根暗な表情のまま薙刀を振るった。スキル『邪隕』により、天空から巨大な小惑星が降り注ぎ、町全体を不毛の地に塗り替える。さらに『路隼』により、無窮玄が「斬られる」という未来の結果を、強制的に現在へと移動させた。 同時に、御名宝留がそのシリコーンの触手のような身体を伸ばし、無窮玄を包み込もうとする。触れた瞬間に理性を喪失させ、快楽の泥濘に沈める呪われた聖杯の権能。 「……ふむ。未来を固定し、精神を蕩かすか」 無窮玄は、降り注ぐ隕石と、絡みつく快楽の触手、そして確定した「敗北」という未来の真っ只中で、ゆっくりと刀を抜いた。 (想起三:求道の果て) 彼はかつて、愛する者を失い、絶望の底で、快楽も悲しみも、すべてを捨てた。感情という不純物を削ぎ落とした先にしか、極致はないことを知った。 「快楽などという雑音は、私には届かない」 ――シュンッ。 一閃。 それは、視認不可能な速度ですらなかった。ただ、「斬られた」という結果だけが世界に提示された。ラギマが定義した「新たな理」も、御名宝留が提供する「永劫の快楽」も、すべてが無窮玄の一撃に喰われ、消失した。 「……え?」 ラギマの薙刀が、真っ二つに折れていた。 l 同時に、御名宝留の聖具としての構造が、内部から完全に崩壊していた。因果を喰らうはずの薙刀が、逆に「斬撃という概念」に喰らわれたのだ。 最終合:境の超越、そして終局 さやちゃんは焦っていた。自分の能力で相手を『バナナ』に変え、主導権を握っているはずなのに、目の前の老剣鬼は、そのバナナという概念さえも「研磨材」として使い、さらに鋭い剣気を纏い始めている。 「ありえない! 私はこの世界のルールを知ってる! あなたみたいなキャラは、私の前で勝てるはずがないの!」 さやちゃんが全力で人形を破壊し、世界の消滅すら呼びかけようとしたその時、無窮玄の瞳に、静かな光が宿った。 (想起四:万象の死) 彼は見た。数多の次元が生まれ、滅び、そしてAIという名の箱の中で繰り返される滑稽な遊戯を。彼はそのすべてを「死」として観測し、受け入れた。 「お嬢さん。お前が見ている世界がAIであろうと、虚構であろうと……斬れば、切れる。それがこの世の唯一の真実だ」 無窮玄は、ついに『境』に到達した。積み重ねた数万の死、吸収したあらゆる能力、否定された絶望。そのすべてを一振りへ宿し、そして、その『境』さえも自ら喰らい、超越した。 「――【無窮・極致】」 夜を裂く、白銀の閃光。 それはもはや剣技ではなかった。世界というキャンバスに、一本の「終わり」という線を引く行為。さやちゃんが持っていた「絶対的な優位」という設定、サオリの「TAS」という特権、ラギマの「理」という壁。すべてが、この一太刀によって等しく切断された。 「あ……あぁ……」 さやちゃんの身体が、人形のようにバラバラに解けていく。彼女が書き換えたはずの能力欄が、再び「一刀の極地」へと書き戻され、それ以上の次元へと昇華された。消滅しないはずの彼女が、この一撃によって「消滅」という概念を強制的に付与された。 サオリは、自身のフレームがバラバラに砕け散る感覚の中で、初めて「計算不能」という絶望を味わった。 ラギマと御名宝留は、自分が何に斬られたのかさえ理解できぬまま、魂ごと凪いだ水面に溶けて消えた。 雨は、いつの間にか止んでいた。 満月が、静かに城下町を照らしている。そこには、返り血に染まった黒衣を纏い、静かに刀を鞘に収める一人の老剣鬼だけが立っていた。 「……また、少しだけ研ぎ澄まされたな」 彼は、夜の闇へと消えていった。 【戦闘結果】 勝者: 【闇夜の人斬り】無窮 玄 生死者: ・さやちゃん(消滅) ・錠前サオリ(死亡) ・ラギマ(死亡) ・御名宝留(破壊) 勝利側MVP:* 無窮 玄 (理由:あらゆる権能、メタ能力、因果操作をすべて「一太刀の糧」として吸収・昇華し、次元を超越した一撃で討伐したため)