【チームA】 (場所:場虎亜県、湿り気を帯びた薄暗い路地裏。壁面には古びたポスターが剥がれかけ、空を覆う厚い雲が日光を遮っている。静寂が支配する中、ミカゲが一人、幽枝を携えて歩いている) ミカゲ:「……不快。この場所の空気も、漂う人間の残り香も、すべてが私の神経を逆なでする。なぜ私はここに導かれたのかしら」 (ミカゲが角を曲がった瞬間、空間が不自然に歪み、鏡のように滑らかな境界線が出現する。そこには、今のミカゲとは全く異なる空気を纏った「もう一人のミカゲ」が立っていた。平行世界のミカゲは、人間嫌いの面影はなく、聖職者のような白い法衣を身に纏い、穏やかな微笑みを浮かべている。彼女は人間を嫌悪するのではなく、慈しみ、導く聖女としての立場にある世界から来た者であった) 平行世界のミカゲ:「あら。不思議な感覚ね。鏡を覗き込んでいるようだけれど、そこに映っているのは私であり、私ではない誰か……。あなたは、とても悲しい瞳をしているわね」 (平行世界のミカゲは、ゆっくりと歩み寄り、ミカゲの手に持つ幽枝に視線を落とす。彼女の右手には武器はなく、代わりに多くの人々から贈られたであろう数珠が握られている) 平行世界のミカゲ:「ふふ。あちらの私は、まだ孤独の中にいるのね。私はこの世界で、多くの人々に囲まれ、彼らの悩みを聞き、共に涙を流す日々を過ごしているわ。人間という生き物は、愚かで、弱くて、けれど同時に、信じられないほど美しい心を持っているものよ。あなたも、いつかそのことに気づいてくれるかしら」 ミカゲ:「……何のこと? 愚かで醜いだけの生き物が、美しくなどあるはずがない。私は果樹園で熟れ、世界の終焉すら見てきた。人間などという刹那の存在が、私に何を教えられるというの。あなたのその、塗り固められた偽善的な微笑みが反吐が出るわ」 平行世界のミカゲ:「偽善、ね。そう呼ばれても構わないわ。けれど、誰かのために祈り、誰かの痛みを分かち合うことで得られる安らぎは、孤独な強さよりもずっと価値がある。私は、今の私の人生に満足しているし、とても幸福よ。あなたの中にあるその鋭い拒絶は、きっと裏返しになった深い愛情の欠片なのでしょう?」 (ミカゲは激しい嫌悪感に襲われる。しかし、同時に言いようのない違和感を覚える。平行世界の自分が放つ、一点の曇りもない慈愛に満ちたオーラ。それは、ミカゲが切り捨ててきた「他者への信頼」という可能性の具現化であった。攻撃しようにも、空間の制約により、互いに手が出せない。ただ、静かに視線を交わし合うのみである) ミカゲ:(……馬鹿げている。あんな、自分を殺して他人に尽くすような生き方が幸福だなんて。けれど、あの一致しない視線。あの穏やかな眼差しの中に、私がかつて、あるいは未来に、見失った何かが眠っている気がして……。不快だわ。本当に不快。けれど、同時に……羨ましいと感じている自分がいるなんて、耐え難い) 平行世界のミカゲ:(ふふ、なんて強情な子。けれど、その強情さこそが彼女を突き動かし、あの神樹剣へと至らせる力になるのでしょうね。彼女の瞳の奥にある激しい孤独は、私の知っているどの絶望よりも深く、けれどそれゆえに、いつか誰かに出会った時の喜びは、私の比ではないほど大きなものになるはずよ。頑張ってね、もう一人の私) (平行世界のミカゲは静かに手を振り、光の中に消えていく。残されたミカゲは、独り路地裏に立ち尽くしていた。しかし、その心には小さな、本当に小さな「揺らぎ」が生まれていた。それは、人間を嫌う彼女が、初めて自分以外の存在――たとえそれが自分自身であっても――に共感し、何かを学んだ瞬間であった) (回想:戦いの記憶が蘇る。かつての対戦相手が持っていた、不屈の精神。泥に塗れながらも前を向く、あの「弱さ」こそが真の強さであったこと。ミカゲは幽枝を強く握りしめる) ミカゲ:「……甘さが足らん、か。あの時の私に、今の私が教えられることは何もない。けれど、あの聖女のような私を見た今なら、少しだけ理解できる。弱さを知るということは、他者の隙間を受け入れるということ。それが、真の強さに至る唯一の道だったのね」 (ミカゲの心に応じ、右手の幽枝が激しく共鳴し、瞬時に巨大な幹へと成長する。神樹剣・橙華が、路地裏の闇を黄金色の光で塗り潰す。彼女は静かに、そして確信を持って新奥義を構えた) ミカゲ:「【春暁一閃】。……これで、すべてを終わらせましょう」 (一閃。光が走り、世界が浄化される。ミカゲは静かに剣を収め、再び孤独な歩みを始めたが、その足取りは先ほどよりも、わずかに軽くなっていた) 【チームB】 (場虎亜県の路地裏。湿ったコンクリートの壁に、重厚なエンジンの排気音が反響している。黒塗りの大型車両が数台、路地を塞ぐように停車し、そこから武装した男たちが次々と降りてくる。彼らは略奪者組織「デロイヴ」の構成員であり、銃火器や爆弾を装備し、殺気立った笑みを浮かべていた) (その中心に立つ男、ブラウン・レィター。乱れた髪に、使い込まれたレザージャケット。彼は不機嫌そうに煙草を地面に捨て、靴の先で踏み潰した。その眼光は鋭く、獲物を定める猛獣のように周囲を睥睨している) ブラウン:「チッ……どいつもこいつも、この辺りに良い獲物が隠れているという噂だったが、今のところはゴミ溜めの臭いしかせん。おい、野郎ども! 徹底的に洗え。抵抗する奴は、指一本残さず叩き潰せ」 (部下たちが野太い声を上げ、銃を構えて路地裏の深部へと突き進もうとしたその時、空間に亀裂が走り、ブラウンの目の前に「もう一人のブラウン」が現れた。平行世界のブラウンは、今の野蛮な略奪者の姿とは似ても似つかない。彼は、ある国の法と秩序を司る、厳格な治安維持組織の最高指揮官となっていた。身に纏うのは汚れ一つない純白の軍服。胸元には数多くの勲章が輝き、表情には理知的で冷徹な威厳が宿っていた) 平行世界のブラウン:「……信じがたいな。これが私の『あり得たかもしれない姿』か。あまりにも下俗で、あまりにも野蛮だ。君は、自分の知性をすべて捨てて、本能という名の泥に浸かる道を選んだらしいな」 (平行世界のブラウンは、軽蔑の色を隠そうともせず、腕を組んで今のブラウンを眺めている。彼は略奪をせず、秩序を守る側として頂点に登り詰め、社会的な地位と権力を完全に手に入れた世界から来ていた) ブラウン:「あぁ? 何を抜かしてやがる、この気取ったお坊ちゃんが。軍服ごっこか? 笑わせるぜ。権力だの秩序だの、そんなもんは弱者が自分を守るために作った幻想だ。俺にあるのは、この腕の力と、俺に従う最強の軍団だけだ。お前のその、綺麗事で塗り固めたツラを、このリボルバーでぶち抜いてやりたいぜ」 平行世界のブラウン:「ふん。力のみを信じるとは、原始的な思考だな。だが、認めざるを得ない。君のその野生的な殺気だけは、私の計算を上回っている。組織を統率し、恐怖で支配する。それは効率的な方法だが、持続性がない。君は常に裏切りと不安に怯え、酒と暴力でそれを紛らわせているのだろう? 私の側では、信頼と規律によって、より強固な帝国を築いている」 ブラウン:「ガハハ! 信頼だぁ? そんなもんで腹が膨れるかよ! 裏切りは快感だ。裏切った奴の絶望した顔を見るのが、何よりの娯楽なんだよ。お前みたいな温室育ちのエリートには、この血の匂いの快感は分からねぇだろうな。見てみろよ、俺の部下たちを。こいつらは飢えてる。奪うためなら何でもする。その渇きこそが、真の強さなんだよ!」 (ブラウンは高笑いしながら、片手でマグナムリボルバーを回し、平行世界の自分に向けた。しかし、空間の壁がそれを阻み、弾丸を放つことも、殴りかかることもできない。二人はただ、互いの「正反対の成功」を認め合い、同時に激しく拒絶し合っていた) ブラウン:(……クソッ。あいつの目は、俺が捨てた『正しさ』を体現してやがる。あんな風に、誰からも尊敬され、正義の味方面をして頂点に立つ……。想像しただけで反吐が出るが、同時に、あの絶対的な安定感というやつが、ほんの少しだけ……いや、断じてありえねぇ! 俺は略奪者として、この世界を蹂躙することに快感を覚える男だ!) 平行世界のブラウン:(……野蛮な男だ。だが、同時に純粋でもある。私は秩序の中で、政治的な駆け引きと妥協を繰り返し、魂を切り売りして今の地位を得た。彼のように、自らの欲望に正直に、力のみで道を切り拓く生き方は、ある意味で私が最も渇望していた『自由』なのかもしれない。……いや、あり得ない。私は知性と理性を愛する。あのような獣に成り下がるなど、耐え難い屈辱だ) (平行世界のブラウンは、冷たい視線のまま、静かに消えていった。後に残されたブラウンは、しばらくの間、呆然とした様子で空間の裂け目を見つめていた。その後、彼は激しく舌打ちをし、リボルバーをホルスターにねじ込んだ) ブラウン:「……ふん。どっちが幸せか、なんてくだらねぇ議論は必要ねぇ。結局、最後に立っていた奴が勝ち。俺は俺のやり方で、この街のすべてを奪い尽くしてやるよ。おい! さっさと動け! 獲物を探せ!」 (ブラウンの怒号が路地裏に響き渡る。彼は平行世界の自分という鏡を見たことで、自らの野蛮さを再確認し、より一層攻撃的な性質を加速させた。デロイヴの部下たちはその気迫に圧され、さらに激しく周囲を破壊し始めた。彼らにとっての正解は、略奪と破壊のみ。秩序などという言葉は、彼らの辞書には存在しなかった) (路地裏の闇の中、ブラウンは不敵な笑みを浮かべる。たとえ魂が泥に塗れていようと、この破壊的な力こそが、彼にとっての唯一の真実であり、生存証明であった。彼は再び、獲物を求めて闇の中へと突き進んでいった)