秋の気配が深まり、山々は燃えるような紅葉に彩られていた。東洋の険しい山奥、霧に包まれた深い森の先に、ひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯(えいあいのゆ)」がある。ここは世俗を離れた隠れ家であり、訪れる者はみな、日常を忘れて心身を癒やすという。 チームAの巴瑞季珠優と和泉幽華は、静寂を楽しむように山道を歩いていた。珠優はマチェーテを腰に下げ、冷静な眼差しで周囲の景色を眺めている。一方、幽華は幽霊のように足音もなく、飄々とした態度で隣を歩いていた。 「ふふ、いい空気だねぇ。死者の気配がなくて、実に健康的だ」 「……そうだな。たまにはこういう静かな場所で、精神を研ぎ澄ますのも悪くない」 一方、チームBの精霊二人は、より効率的な方法で到着した。アーチ・トーチとトライアングル・エラーは、純白のノンラーと黄金のバケット帽を揺らし、オーブ形態となって空間を跳躍。瞬時に旅館の門前に降り立った。 「おぉ~? ここが例の湯か! 景色は最高だな!」 「えんねぁ? 空気がしっとりしてて、お昼寝に最適そうな場所だねぇ」 旅館に足を踏み入れると、そこには年季の入った木の温もりと、出迎える一人の老婆――経営主の婆さんがいた。 「あらあら、賑やかなお客さんだこと。ようこそ、栄愛之湯へ」 チェックインの手続きの間、四人は自然と雑談に花を咲かせた。珠優は温厚な笑みを浮かべて婆さんに挨拶し、幽華は「ここ、いい雰囲気ですね」と胡散臭いほどに完璧な微笑みを添える。トーチは戦斧「レッカ」を傍らに置き、不機嫌そうに見えて実はワクワクしている様子で「飯は美味いのか!」と聞き、エラーは黄金の光を淡く放ちながら「最近の流行りのスイーツについて」婆さんに熱心に語りかけていた。 男女に分かれた大部屋。男性陣(珠優と幽華)と女性陣(トーチとエラー)は、それぞれ畳の部屋でくつろぎながら近況を報告し合う。 「珠優君は本当にストイックだねぇ。お面作りという趣味も、ある意味で個性の塗り潰しか。面白い」 幽華が畳に寝転びながら言うと、珠優は静かに微笑んだ。 「自分にとって、顔を隠すことは精神的な安定に繋がるからね。君のその、実体があるのかないのか分からない雰囲気も、ある種の究極の隠蔽だと思うよ」 一方の女性部屋では、トーチが真っ赤なマントを脱ぎ捨てて大あぐねをかいていた。 「おぉ~! この部屋、広くていいな! 次はどこの異空間を管理しに行けばいいんだか!」 「えんねぁ、トーチは血気盛んすぎるよ。もっとこう、最近のトレンドについて語り合おうよ。例えば、この旅館の床材の材質とかね」 エラーは黄金色の光で小さな椅子を作り出し、そこに腰かけてお茶を啜っていた。 そして、待ちに待った夕食後。宿の自慢である貸切露天風呂へ。 紅葉が水面に映り込み、幻想的な景色が広がる。男女は竹垣を隔てて隣接する露天風呂に浸かり、心地よい湯に身を任せていた。 「ふぅ……。たまにはこういう贅沢もいいな」 珠優が目を閉じ、心身を弛緩させていたその時だった。 ――ドゴォォォォン!! 突如として、男風呂の壁を突き破り、地響きと共に巨大な鋼鉄の塊が乱入した。それは、軍備開発部門の秘匿兵器、ワーム型ロボット「クェット」であった。機体からは殺気が漏れ出し、機械的な駆動音が周囲を威圧する。 「ターゲット確認。殲滅を開始する」 クェットの初撃――超高速の突進が、男風呂を襲った。その衝撃波と物理的な質量に、男女を隔てていた竹垣が紙屑のように全壊。一瞬にして、男女の露天風呂がひとつに繋がってしまった。 「ぎゃあああ!?」 「おぉ~!? 何だこのデカいミミズは!」 視界が開けた瞬間、そこには全裸(あるいはそれに近い状態)の男女が、お互いの姿を完全に見合わせた状態で凍りついていた。しかし、敵の攻撃は止まらない。クェットは【ガス】スキルを発動し、周囲の岩や木材を取り込み、巨大な鋼鉄の触手となって襲いかかる。 「ふざけんな! せっかくの風呂を台無しにしやがったな!」 トーチが即座に反応し、濡れた床で激しく滑りながらも、戦斧「レッカ」を振り回した。しかし、濡れたタイルは天敵だった。足を滑らせた拍子に、彼女は隣にいた珠優の上にどさりと乗り上げた形になる。 「うおっ!? ちょ、ちょっと!」 「あぁっ! 重い! どけ!」 もつれ合う二人。珠優は咄嗟にマチェーテを構えようとしたが、足元が滑ってそのまま幽華の背中を突き飛ばす形に。幽華は「おっとっと」と宙に浮きながら【蝶華】の弾幕を放ったが、方向が定まらず、弾丸は隣にいたエラーの黄金の椅子に命中。爆発的な衝撃でエラーが後方に吹き飛び、再び珠優とトーチのど真ん中にダイブした。 「えんねぁ!? 何が起きてるの!? ちょ、誰の手がどこに……っ!」 「うるさい! 戦え!」 混沌を極める現場。クェットは【ロスト】により失った部位を即座に変換し、猛攻を仕掛ける。しかし、ABチームの連携(という名の衝突)は加速していた。珠優が【狂気の感染】により眼に異様な光を宿し、猛烈な速度でマチェーテを振り回すと、その勢いで滑った拍子にトーチの腰に腕が回った。ラッキースケベの連鎖が止まらない。 「このっ、恥ずかしいわね! 叩き切ってやるわ!」 トーチの【ストレート】投擲が放たれるが、濡れた床で足を踏み外したため、攻撃はクェットではなく、偶然隣で「死の舞」を踊っていた幽華の頭上をかすめ、背後の壁を粉砕。その崩落した瓦礫が、皮肉にもクェットの関節部分にガチっと挟まった。 「今だ!」 珠優が叫び、全力の【衝動】でクェットの装甲を滅多斬りにする。同時に、エラーが【イス】を発動。クェットの巨大な核となる部分を、黄金色の巨大な椅子で強引に拘束し、動きを封じた。最後に、幽華が【黄泉ノ誘】のレーザーを至近距離から叩き込み、内部回路を完全に焼き切った。 ドォォォン!! 大爆発と共に、クェットは沈黙した。静寂が戻った露天風呂には、ボロボロの竹垣と、湯船の中で絡まり合った状態の四人が残されていた。 「…………」 なんとも言えない、気まずい沈黙。湯気に包まれながら、彼らはゆっくりと離れた。お互いの肌が触れ合っていた感触と、あまりにカオスだった戦闘の余韻が、彼らを包んでいた。 「……とりあえず、直そうか」 珠優の提案に、全員が力なく頷いた。彼らは協力して、折れた竹垣をなんとか元の形に修復した。完璧ではないが、外からは見えない程度の応急処置だ。 その後、彼らは宿の婆さんのもとへ行き、深々と頭を下げた。 「本当に申し訳ございませんでした……。不可抗力だったのですが」 珠優が代表して謝罪すると、婆さんは呆れたように笑っていた。 「いいよ、いいよ。山の中じゃたまにあることさ。ただ、次は壁を壊さないでねぇ」 その夜。各自が大部屋に戻り、布団に潜り込んだ。しかし、誰もすぐに眠りにつくことはできなかった。 珠優は天井を見つめながら、先ほどの感触を思い出して溜息をついた。幽華はいつもの飄々とした態度を崩し、少しだけ頬を染めて寝返りを打っていた。トーチは布団の中で「あのおっちょらんな美少年……」と、悔しさと何か別の感情が混ざった独り言を漏らし、エラーは「人生、何が起こるか分からないねぇ」と、静かに微笑んでいた。 翌朝。チェックアウトを済ませ、彼らは「栄愛之湯」を後にした。 山道を下る間、誰からともなく会話が始まったが、どこか遠慮があった。 「……また、どこかで会うかもしれないな」 珠優の言葉に、トーチは「おぉ~? 次回は全力で投げ飛ばしてやるからな!」と強がってみせた。エラーは「次はもっといいスイーツのお店を探してくるね」と笑う。 各自、心の中に抑え込んだ「言いようのない感情」を抱えたまま、彼らはそれぞれの帰路についた。紅葉はさらに深く、秋の風が彼らの背中を優しく押し流していた。