戦いの舞台は、都市の廃墟にひっそりと佇む、巨大な骨董品店兼倉庫だった。天井は高く、そこから錆びついたシャンデリアや古い吊り看板がぶら下がっている。床一面には、時代がかった大型のタンス、積み上げられた古書、使い古されたピアノ、真鍮製の天秤、そして正体不明の機械部品やガラス瓶が乱雑に置かれ、迷路のような状況を作り出していた。 静寂を破ったのは、軍服の裾を翻して歩く威座内の足音だった。彼は冷徹な赤眼で周囲を見渡し、隣に立つ二人へと視線を向けた。 「効率的に片付けましょう。ここに集った目的は明確です。生き残るのは、論理的に最強である者のみだ」 その言葉に、長い黒髪を雑に束ねた高身長の少女、ユーリが気怠げに肩をすくめる。彼女はポケットに手を突っ込み、ふわりと不敵な笑みを浮かべた。 「相変わらず堅苦しいねぇ、お役人さんは。そんな警戒しなさんなって? アタシゃこの通り丸腰だよ。……ま、この『指』以外はね」 二人の視線の先には、無機質な表情でハンドガンを弄ぶ男、デッドがいた。彼は何も語らず、ただ静かに空間の歪みを観察している。彼にとって会話は不要であり、ただ「時間」という概念をどう操作するかが全てだった。 戦いの火蓋を切ったのは、デッドだった。彼は迷いなくハンドガンを連射し、同時に『オブジェクト・トラベル』を発動。弾丸を数秒後に転送し、さらに『アクト・トラベル』で自身の射撃動作を重ね合わせた。 「……ッ!」 威座内が反応した瞬間、何もない空間から突如として十発以上の弾丸が同時に出現し、彼を襲った。しかし、威座内は眉一つ動かさず、腰の断罪剣・閻羅刀を抜く。その速度は常人の視認能力を超えていた。キンッ、キンッ、と硬質な音が連続して響き、全ての弾丸が空中で叩き落とされる。 「予測範囲内です。時間の操作による擬似的な同時攻撃。しかし、最適解は常に一つ」 威座内が静かに呟くと、彼の背後に緑色の光が奔った。召喚されたのは【句芒・緑】。青龍の姿をした霊獣が咆哮し、周囲の古書を巻き込んで猛烈な突風を巻き起こす。風圧で棚がなぎ倒され、大量の百科事典が舞い上がった。 「おっと、派手にやるねぇ」 ユーリは軽やかに跳躍し、近くにあった重厚なオーク材のテーブルの上に飛び乗った。彼女は右手の指先を威座内に向け、スキル『バーンアウト』を連射する。指先から放たれる速射火炎弾が、舞い上がる本を燃料にして巨大な火の渦へと変わった。 「熱いのは嫌いなんだよね。どっか飛んでな」 火炎の弾幕が威座内を襲うが、彼は冷静に【玄冥・黒】を召喚。玄武の堅牢な甲羅が壁となって火炎を遮断した。だが、その瞬間、デッドが動いた。彼は足元にあった古い真鍮製の天秤を蹴り飛ばし、それに『オブジェクト・トラベル』を付与。天秤は空間に消え、数秒後、威座内の真上のシャンデリアを破壊しながら落下した。 ガシャンッ!! 激しい衝撃と共に、クリスタルの破片と鉄枠が威座内に降り注ぐ。威座内は回避行動に出るが、デッドは逃さなかった。彼はあえて今、威座内の肩にハンドガンで一発撃ち込む。しかし、弾丸は当たった瞬間、血を流さずに消えた。それは『ダメージ・トラベル』。ダメージの発生を数分後に遅延させ、相手に気づかせないまま蓄積させる残酷な技だ。 「……不可解な術だ。だが、この程度の攪乱で私の演算が狂うと思うな」 威座内は即座に【蓐収・白】白虎を召喚し、鋭い爪で周囲の物品を切り刻んだ。破砕されたピアノの弦が鋼の針となってユーリへと飛ぶ。ユーリは「げっ」と声を上げると、地面に指を突き立て『シールダー』を展開。エネルギー防壁がピアノの弦を弾き返した。 「あーあ、いいピアノだったのに。もったいないねぇ」 ユーリは不満げに呟きながら、今度は『フレア』を真上に放った。眩い光が天井で弾け、威座内とデッドに「ピン」が付与される。これで彼女の攻撃は必中へと変わる。彼女はそのまま『インパクト』をチャージし始めた。指先に凝縮される光の球が、周囲の空気を歪ませるほどの圧力を放つ。 デッドはそれを察知し、周囲に散らばっていた小型の爆弾をいくつか設置した。彼はそれらに『アクト・トラベル』を掛け、爆発のタイミングを数秒後にずらして重ね合わせる。同時に、自身も『オブジェクト・トラベル』で近くにあった大きなタンスをユーリの足元に転送させようと試みた。 ドゴォォォン!! タンスが出現した衝撃でユーリの体勢が崩れる。しかし、彼女は空中で身を翻し、チャージ完了した『インパクト』を地面に向けて放った。爆風が巻き起こり、床のタイルが砕け散り、デッドが仕掛けた爆弾をまとめて吹き飛ばした。 「あはは! 狙いすぎだよ、デッド君!」 爆煙の中から、デッドが静かに現れる。彼は既に『ダメージ・トラベル』の蓄積を威座内に仕掛けていた。威座内の表情が僅かに歪む。数分前に受けたはずの、不可視のダメージが突如として顕在化したのだ。 「……ぐっ。なるほど、時間差でダメージを確定させるということか。合理的だが、不愉快だ」 威座内は膝をつきそうになったが、すぐに【祝融・赤】朱雀を召喚。激しい炎が彼自身の傷を焼いて止血し、同時に周囲の物品をすべて灰に変えた。もはや使える物品が少なくなってきた。残っているのは、部屋の隅にある巨大な鉄製金庫と、天井からぶら下がる一本の太い鎖だけだ。 「さて、そろそろ整理しましょうか。あなた方は十分に抗った」 威座内の声に冷徹な響きが混じる。彼は【句芒・緑】と【祝融・赤】を融合させ、風と炎が混ざり合った巨大な龍を構築した。融合召喚による圧倒的な火力。龍が咆哮すると、倉庫の壁が内側から弾け飛び、激しい嵐が二人を襲う。 ユーリは慌てて『カウンター』を展開し、飛んでくる瓦礫を撃ち落とすが、その数に押し切られそうになる。彼女は咄嗟に近くにあった鉄製金庫に飛び乗り、それを足場にして高く跳躍した。 「うわっ! まじかよ、あのお役人さん、本気出してきたな!」 空中でユーリは『ブラスト』を構えた。防御不可・高貫通の狙撃ビーム。彼女の視線が威座内の心臓を捉える。しかし、そのビームが放たれる直前、デッドが動いた。彼は自分自身に『アクト・トラベル』を使い、ユーリの背後に「数秒後の自分」を出現させた。 「……!」 ユーリが驚愕して振り返るが、遅かった。デッドは至近距離から爆弾を彼女の足元に叩きつけ、同時に『オブジェクト・トラベル』で天井の太い鎖を彼女の体に巻き付けさせた。鎖が彼女を拘束し、そのまま地面へと叩きつける。 ドガァッ!! 「痛いなぁ……もう! 本当にやり方が汚いね!」 ユーリは鎖に拘束されながらも、指先から『スタナー』を放ち、デッドを一時的に麻痺させた。しかし、それが罠だった。デッドは麻痺している状態で、あえて威座内に向けてハンドガンを連射し、その弾丸すべてに『ダメージ・トラベル』と『アクト・トラベル』を掛け、一分後の同じ地点に集中させたのだ。 威座内はそれを完璧に読み切っていた。彼は融合させた龍を消し、静かに剣を正座させる。 「計算通りです。あなた方の攻撃は、全て私の『最適解』の中に組み込まれている」 威座内が静かに宣言する。彼の周囲にどす黒いオーラが渦巻き始めた。 「最後の審判を下す。汝その身に罪有らば、抗えぬ力導くがまま、獄に呑まれる他なかれ」 空間が裂け、地獄の門が開く。そこから現れたのは、山のような巨躯を持つ【閻魔大王】。その威圧感だけで、周囲の残骸が粉々に砕け散った。もはや活用できる物品など何一つ残っていない。完全な更地となった空間で、閻魔大王が巨大な槌を振り上げた。 デッドは即座に自身の行動をトラベルさせ、回避しようとした。ユーリは鎖を焼き切り、最大出力の『インパクト』を放とうとした。 だが、威座内の演算はそれを上回っていた。彼はあえてデッドが操作した「時間のズレ」を利用し、閻魔大王の攻撃範囲をあらかじめ修正していた。デッドが逃げ出した先、そしてユーリが攻撃を放とうとした瞬間、ちょうどそこに閻魔大王の槌が振り下ろされた。 ズゥゥゥゥゥゥン!!! 衝撃波が倉庫全体を消し飛ばし、土煙が舞い上がる。静寂が戻ったとき、そこには一人だけ、黒いコートを翻して立つ男がいた。 ユーリは地面に深く埋まり、意識を失っていた。デッドは時間を操作して逃げようとしたが、閻魔大王の攻撃が「空間そのもの」を押し潰したため、トラベル先の座標さえも消滅し、逃げ場を失って気絶していた。 威座内は静かに閻魔大王を消し、血に汚れた剣を鞘に収めた。 「結果は明白です。個々の能力は高くとも、統制なき力は最適解に及びません。これが法であり、秩序です」 彼は崩れ落ちた倉庫の瓦礫を一度だけ振り返り、冷徹な足取りで戦場を後にした。 勝者:威座内 【勝敗の決め手】 デッドの「時間操作による攻撃の蓄積」とユーリの「高火力攻撃」という強力な個性を、威座内が冷静な演算で全て予測・誘導し、最終的に逃げ場を完全に消滅させる広範囲・絶対的な破壊力を持つ「閻魔大王」を最適なタイミングで召喚したこと。特に、デッドが作り出した時間の隙間を逆に利用し、攻撃範囲を固定した点が決定打となった。