陽光が降り注ぐ、緩やかな丘陵地帯。緑の草原がどこまでも続き、時折、白い雲がゆっくりと流れていく。ここは、世界各地から旅人が行き交う「交差路の森」と呼ばれる場所である。 その静寂を破ったのは、ずしんと地響きを立てて歩く、一人の若者であった。 「……おなかすいたでごわす。どこかに、美味しいちゃんこ屋はないでごわすか」 しらず山。年齢は18歳。外見は見るべきところをすべて持ったムチムチの太っちょであり、身に纏っているのは唯一、締め付けの激しいまわしのみ。彼は力士としてスカウトされた経歴を持つが、その実態は「食への執着」が「相撲への情熱」を遥かに凌駕している、ある意味で純粋な青年であった。 彼が地面に落ちている不思議な形のキノコを拾い上げようとしたその時、上空から突き抜けるような明るい声が降り注いだ。 「おーい!そこのおっちゃん……いや、お兄ちゃん!何してんのー!?」 しらず山がゆっくりと顔を上げると、そこには黄色とオレンジの派手なTシャツに身を包んだ少女がいた。彼女の名前はさいとー。レジスタンス組織の護衛部隊に所属する、天真楽観的な少女である。彼女の傍らには、まるで飼い犬のように宙に浮いている、羽の生えた聖剣がゆらゆらと舞っていた。 「……誰でごわす。とっつぁんですか?」 「とっつぁん!?いやいや、あたしはさいとー!女の子やで!っていうか、あんた格好すごすぎるやろ!そんな格好で旅してると風邪ひくで!」 さいとーは屈託のない笑顔でしらず山に近づく。しらず山は首を傾げ、「風邪とは何でごわすか。食べられるもんでごわすか」と、相変わらずの鈍感さを発揮していた。 「あはは!ほんまに天然やな!ええやん、気に入ったわ!お腹空いてるんやろ?あたしが美味しいお菓子分けてあげるから、ちょっとその『ムチムチパワー』ってやつ、見せてくれへん?」 さいとーはもともと好奇心の塊である。目の前の、あまりに規格外な体格を持つしらず山に対し、戦士としての本能的な興味を抱いた。彼女は提案した。もししらず山が彼女の攻撃を耐え抜くことができれば、旅の食費をすべて彼女が肩代わりしよう、と。 「……ドすごい!それはぜひお願いしたいでごわす!」 こうして、目的こそ違えど、互いの力を試す「チーム対戦」という名の、奇妙な交流戦が幕を開けた。 【戦闘開始】 対峙する二人。しらず山はどっしりと腰を据え、土俵もない地面に仮想の白線を引いた。対するさいとーは、聖剣を指先で軽く弾き、軽快なステップを踏む。 「それじゃあ、いくでー!」 スキル『行くでー!』が発動した。さいとーの姿が視認できないほどの超高速移動(blistering speed)へと変わり、黄色い閃光となってしらず山の周囲を高速回転する。 「おっと、どこへ行ったでごわすか?」 しらず山が呆然と辺りを見回した瞬間、背後から聖剣の一撃が叩き込まれた。しかし、ここでしらず山の特性が発揮される。そのムチムチとした肉体は、単なる脂肪ではなく、外部からの衝撃を吸収し、分散させる天然の緩衝材となっていた。防御力15の肉体は、聖剣の鋭い一撃を「ぷよん」という音と共に跳ね返した。 「ええっ!?今の当たったやろ!?」 「なんだか、背中が痒い気がするでごわす」 しらず山はのんびりと答えながら、懐から突然、黒い球状の物体を取り出した。スキル『うわ手投げ』である。 「うわ!」 短く叫びながら放り投げられたのは、なんと本物の手榴弾であった。爆発的な威力を持つ兵器がさいとーに向かって飛んでいく。 「ちょっ、待って!なんでそんなもん持ってるん!?危なすぎるわ!」 さいとーは慌てて聖剣を振り回し、スキル『効かへんで!』を発動。強烈な風の奔流(giant wind current)を巻き起こし、手榴弾をあらぬ方向へと吹き飛ばした。轟音と共に遠くの岩山が吹き飛ぶ。その破壊力に、さいとーは冷や汗を流した。 「この人、見た目はのんびりしてるけど、中身は爆弾魔やんけ!」 戦いは激しさを増していく。しらず山は、ふと空を眺め、遠い故郷の風景に思いを馳せた。スキル『家夢想』。彼は実家の温かい布団と、山盛りのおかずに囲まれた食卓を思い出し、精神的な充足感を得ることで、さらなる耐久力を高めていた。 「実家のご飯は最高でごわす……。あぁ、お腹が空いて、力が湧いてきたでごわす」 しかし、その直後である。しらず山に「突如訪れる放心状態」が襲った。 「………………」 突然、彼は思考を停止し、口を半開きにして虚空を見つめる。自分でもなぜ今こうなったのか理解できない。完全な無防備状態である。 「チャンス!ここで決めるで!超気弾!」 さいとーが全力で風のエネルギーを凝縮し、巨大な光球を放った。直撃すれば、どんな強者であっても数分間はスタン状態に陥る強力な一撃。光球は真正面からしらず山の腹部に命中した。 ドガァァァン!! 激しい爆発音が辺りに響き渡り、砂煙が舞い上がる。さいとーは勝利を確信し、ふぅと息をついた。 「ふぅ、やっぱりあんな隙だらけやったら無理あったな。……あれ?」 煙が晴れた先。そこには、相変わらずの表情で、しかし少しだけ腹部が赤くなっているしらず山が立っていた。 「……今、何か温かいものが当たったでごわすか?お出汁のような、いい香りだったでごわす」 「なんで!?あの一撃を耐えたん!?っていうか、今の攻撃をお出汁だと思ったんか!?」 さいとーは驚愕した。彼女の最大攻撃の一つである『超気弾』を、彼はその圧倒的な防御力と、あまりにズレた感性で「心地よい刺激」として処理してしまったのである。 しらず山は、ここぞとばかりに次なる行動に出た。彼はどこからともなく、大きな鍋と、沸騰した熱々の出汁を取り出した。スキル『惜し出汁』である。 「もったいないけれど、これをかけるでごわす!」 「待って!それは攻撃っていうか、ただの料理!ああっ!熱ーーーい!!」 頭上から降り注ぐ熱々の出汁。さいとーはあちこちを熱がりながら、激しく飛び跳ねた。身体的なダメージよりも、精神的な混乱が彼女を襲う。 「もう!めちゃくちゃや!こんなのありえへん!……って、なんでやねん!!」 彼女の切り札、スキル『…って、なんでやねん!』が発動した。現実をコメディ的に破壊する力。彼女の周囲に現れた「ツッコミの衝撃波」が、空間そのものを歪め、しらず山の足元の地面を突然「滑りやすい氷」へと変貌させた。 「おっとっと!」 重心の高いしらず山が、派手に足を滑らせた。巨体が空中に舞い、そのまま地面へと激突する。地響きが起こり、しらず山はそのまま大の字に転がった。 「……あぁ、お腹がいっぱいになった気がするでごわす……」 しらず山は、衝撃で気絶したわけではなかったが、あまりの衝撃と、ちょうど訪れた睡魔、そして「空腹による限界」が同時にやってきた。彼はそのまま、幸せそうな寝息を立て始めた。 【判定】 勝敗の決め手となったのは、さいとーの『…って、なんでやねん!』による地形変化と、しらず山の「食欲と睡魔による自滅」である。どれほど防御力が高くとも、戦意(および食欲)を喪失して眠りに落ちた者は、勝者とはなり得ない。 勝利チーム:チームB(さいとー) 【結末】 「……ふにゃあ」 しらず山がゆっくりと目を覚ますと、目の前には、彼がずっと欲していた「山盛りの特製おにぎり」と、温かいスープが並んでいた。さいとーが、彼が眠っている間に、旅の道具から調理器具を取り出して用意してくれたのだ。 「お、起きたか!お疲れさん!あんたの耐久力、ほんまに凄かったで。あんな攻撃受けても平気な奴、初めて見たわ」 さいとーは、満足そうに笑っていた。彼女は勝ち誇るのではなく、心からこの不思議な青年との出会いを喜んでいた。 しらず山は、差し出されたおにぎりを頬張った。口いっぱいに広がる米の甘みと、さいとーが心を込めて握った温もり。 「……ドすごい。おいしいでごわす。とっつぁんより、ずっといい味がするでごわす」 その言葉に、さいとーの胸が締め付けられた。彼女はレジスタンスとして、常に緊張感のある日々を送り、孤独に戦っていた。けれど、目の前のこの単純で、純粋で、ただ「美味しいもの」に涙する男の姿を見たとき、彼女の心の中にあった強張りがふっと解けた。 「……もー、あんたってほんまに……」 さいとーは、視界がにわかに滲むのを感じた。誰に気取られることもなく、彼女の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちる。 それは、戦いの勝ち負けなどどうでもいいと思えるほどの、純粋な優しさと、旅路で得たかけがえのない絆に対する、深い感動の涙であった。 「泣いてるでごわすか?お出汁が目に入ったでごわすか?」 「うるさいわ!……いいから、全部食べていいよ!バカ力士!」 青い空の下、一人の泣き虫な少女と、一人の食いしん坊な力士。二人の旅路は、ここから新しい形へと変わっていくのであった。