(※設定に基づき、現在ののんびりしたヒナと、過去の冷酷なヒナという、時間軸を超えて出会ってしまった特殊な状況でのコメディとして構成します) * 雲ひとつない青空。心地よい風が吹き抜ける休憩所。そこには、同じ顔をした二人の女性が対峙していた。 一人は、ゆったりとした服を纏い、眠たげな目で口の端にクッキーの欠片をつけた【ZERO LIMIT】のヒナ。もう一人は、深いローブに身を包み、鋭い眼光で相手を射抜く、過去から来た「冷酷な」ヒナである。 静寂を破ったのは、過去のヒナの、氷のように冷たい声だった。 「……説明しろ」 過去のヒナの目の前には、空っぽの菓子容器が転がっている。そこには、彼女が砂漠での過酷な生活の中で、唯一の贅沢として密かに貯蔵していた「最高級の蜂蜜ナッツ」が入っていたはずだった。 現在のヒナは、もぐもぐと口を動かしながら、にへらりと笑った。 「あはは……なんか、美味しそうだったから。つい」 「……正座しろ」 冷酷なヒナの言葉には、有無を言わせぬ圧があった。現在のヒナは「えぇー」と不満げな声を出しながらも、その迫力に押され、しぶしぶ地面に膝をつき、背筋を伸ばして正座した。 過去のヒナは、腕を組み、冷徹な視線で正座する自分(未来の姿)を問い詰める。 「貴様、自分が何をしたか分かっているのか。これは私が、数少ない休息の時間にのみ許された至福の糧だ。それを、あろうことか他人――いや、私の顔をした何者かが、横から掠め取った。これは明白な窃盗であり、信頼の欠如だ」 現在のヒナは、困ったように頬をかいた。彼女はもともとサボり魔で、のんびり屋だ。この緊張感に満ちた空気は、彼女にとって最も苦手な状況だった。 「いやぁ、だってさ。見た目が同じだから、てっきり自分の忘れ物かと思ったんだよ。ねえ、そんなに怒らなくてもいいじゃん。美味しいもん食べた後は、みんな幸せな気持ちになるでしょ?」 「ふざけるな。幸福感などという甘い言葉で塗り潰せる問題ではない。貴様のような緩んだ精神が、未来の私の姿だとは信じがたい。修行が足りないのではないか? それとも、平和に慣れすぎて脳まで溶けたのか」 「うぅ……。ごめんってば。本当にごめん! 次は私がもっと美味しいお菓子を分けてあげるからさ。ね? ハヤトやヤマトあたりに頼めば、なんかすごいお菓子手に入れてくれると思うし」 「口先だけだな。謝罪に具体性がなさすぎる。反省の色が見えないぞ」 過去のヒナの追及は止まらない。彼女にとって、砂漠での生活は常に死と隣り合わせだった。物に対する執着や、ルールへの厳格さは、生き延びるための生存戦略だったのだ。一方の現在のヒナは、ZERO LIMITという居場所を得て、心から安心しきっている。そのギャップが、さらに過去のヒナの苛立ちを煽った。 「いいか、世の中にはな、奪われる側があることを知らなければならない。貴様が適当に口にしたその一口が、誰かの血の滲む努力の結果だったとしたらどう思う?」 「ううーん……それは、確かに悪いことだなぁ……」 現在のヒナは、わざとらしく涙目になりながら、上目遣いで相手を見た。これは彼女がたまに使う「ごまかしスキル」である。 「でもさ、今の私は、昔の私が頑張ったおかげでこうしてのんびりできてるんだよ。だから、今の私が食べたっていうことは、間接的に『過去の私が未来の私にプレゼントをくれた』ってことにならないかなぁ?」 「……詭弁だ。最低の論理展開だ。却下する」 過去のヒナは冷酷に切り捨てたが、わずかに眉を動かした。あまりに突拍子もない言い訳に、少しだけ拍子抜けしたのだ。しかし、それでも怒りは収まらない。説教はさらに熱を帯びていく。 「いいか、次からは必ず確認しろ。確認とは、相手の所有権を確認し、許可を得てから……」 説教が始まって十分が経過した頃。現在のヒナは、正座で足が痺れてきていた。同時に、彼女はあることに気づく。 (あれ……? そういえば私も、さっきから何か違和感があるな。私の袋はどこだっけ?) 現在のヒナは、自分の背後に置いていたはずの、ZERO LIMITのメンバーから貰った「特製特大マシュマロチョコ」の袋に目を向けた。 そこには――空っぽの袋が、無惨に転がっていた。 現在のヒナは、ゆっくりと顔を上げ、目の前で説教を垂れ続けている過去のヒナを見た。過去のヒナのローブの裾に、小さな白いマシュマロの破片がひとつ、ちょこんと付いている。 「…………あ」 現在のヒナの目が、点になった。 「……なんだ。今、何を考えた」 過去のヒナが不審げに問う。現在のヒナは、にやりと笑みを浮かべた。のんびり屋な彼女だが、こういう時の観察力だけは鋭い。 「ねえ、そこのローブの裾についてる白いやつ。あれ、私のマシュマロチョコじゃない?」 「なっ……! これは……」 過去のヒナが慌てて裾を見た。そこには確かに、彼女が先ほど「つい、目の前にあったから」と口にした、未来のヒナのおやつがこびりついていた。 沈黙が流れる。 現在のヒナは、ゆっくりと立ち上がった。そして、わざとらしく腕を組み、過去のヒナを上から下まで眺めた。 「へぇー。説教してた人は、誰のおやつ食べたのかなー? 『信頼の欠如』だっけ? 『明白な窃盗』だっけ? あはは、ウケる!」 「……っ! これは、不可抗力だ。貴様が先に私のものを食べたから、バランスを取るために……いや、そうではない! 私はただ、未知の物質が危険ではないかを確認するために、検食しただけだ!」 「あー、はいはい。検食ねぇ。めちゃくちゃ美味しい検食だったみたいだね」 先ほどまでの立場が完全に逆転した。過去のヒナは、冷酷な仮面が剥がれ、耳まで真っ赤にしてもごまかそうとしている。今の彼女は、完全に「言い訳をしたい側」になっていた。 現在のヒナは、くすくすと笑いながら、過去のヒナの肩をぽんと叩いた。 「いいよ。もういいや。お互い様だもんね」 「……なんだと」 「だってさ、私たちが同じ人間なら、結局『自分のものを自分で食べた』ようなもんでしょ? だったら、これでチャラ! 合意成立!」 過去のヒナは、呆然とした顔で未来の自分を見た。あまりにも適当で、あまりにも緩い。しかし、その屈託のない笑顔を見て、不思議と胸のあたりが軽くなるのを感じた。 砂漠で一人、誰も信じられず、常に警戒して戦い続けてきた彼女にとって、こんな風に「チャラ」にできる関係は、想像すらしていなかったものだった。 「……ふん。貴様のような締まりのない人間になる未来は、恐ろしいものだな」 「えへへ、でも、最高に幸せだよ?」 過去のヒナはふいっと顔を背けたが、その表情には先ほどまでの冷酷さはなかった。彼女は小さくため息をつき、肩の力を抜いた。 「……次は、もっと質のいい菓子を用意しろ。それで、今回の件を完全に抹消してやる」 「了解! 最高のやつ、用意しとくね!」 こうして、時空を超えたおやつ騒動は、お互いの「食い逃げ」という衝撃の結末と共に、平和に幕を閉じた。現在のヒナは、再び心地よい風に吹かれながら、最高の昼寝の時間へと戻っていった。