空はどろりとした赤色に染まり、太陽の光は絶望的な血の色へと塗り潰されていた。ここはもはやかつての荒野ではない。モード【終焉世界】という不可解なルールが上書きされた、崩壊しつつある世界だ。大地は絶えず呻き、空からは正体不明の不協和音が降り注いでいる。 レンチ街から95㎞離れたガンドルド鉱山を目指す。しかし、もはやそれは単なる輸送任務ではなく、「生き残って脱出する」ための死行へと変貌していた。 「みんな!しっかり掴まってて!いきまーす!」 要護衛艦の操縦席で、二十歳の女性フェアが明るい声を張り上げる。しかし、その表情には緊張が走っていた。彼女が操る艦は、ルールに基づき【特殊重装兵器武装装備状態】へと変貌していた。横2㎞、縦1㎞という巨体は、いまや地を這う巨大な要塞と化し、分厚い装甲と無数の砲塔を備えている。時速10㎞という鈍足ながら、その重量感は絶望的な安心感を与えていた。 だが、その安心感はすぐに打ち砕かれる。 ――ドォォォォォォン!! 突如として、世界を揺るがす激震が襲った。震度7。地表が波打ち、巨大な要護衛艦ですら激しく左右に揺さぶられる。参加者たちは悲鳴を上げながら壁にしがみついた。 「ふぇぇ……! なに、なに!? 地震!? 怖いよぉ!」 黒い服に身を包んだ少女、ノアが泣きべそをかきながら震えている。その隣で、彼女のスマートフォンから冷徹な女性の声――AIのαが響いた。 『ノア、泣いている暇はありません。周囲を確認してください。ルールに従い、通常生物は消滅しましたが、代わりに「それ」が来ています』 地平線の彼方から、幾何学的で不気味な形状をした怪物たちが現れた。特殊な敵【異種構造体】。彼らは生物的な曲線を持たず、金属と結晶が混ざり合ったような歪な姿で、音もなく、しかし猛烈な速度で艦へと殺到してくる。 「よっ! こんな時にいい兵器が試せるね!」 陽気に叫んだのは、黒いコートを纏った女性、恵だった。彼女は兵器生成装置を起動し、瞬時に対空・対地兼用のアサルトキャノンを数門、艦の甲板上に展開させる。彼女の手つきは迷いなく、兵器への愛がそのまま殺意へと変換されていた。 「クリスさん! 左翼に回り込んでください! 敵の注意を引きます!」 恵の指示に、男クリスが頷く。彼はスキル【ロードサイン】を展開し、戦場に不可視の導線を敷いた。異種構造体たちがそのサインに誘われるように特定の方向へ誘導される。そこへ、恵が生成した爆撃機が飛来し、広範囲に猛烈な爆撃を叩き込んだ。 「いいぞ! もっと来い!」 しかし、敵の数は絶望的だった。数億という単位の異種構造体が、波のように押し寄せる。もはや個別の攻撃では太刀打ちできない。その時、空に巨大な影が現れた。 【バルディエルス星起動宇宙要塞】 友軍支援機体として現れた超巨大要塞が、軌道上から精密な光子砲を撃ち下ろす。大地が蒸発し、数万の構造体が一瞬で消し飛んだ。しかし、それでも敵の波は止まらない。 「あー、もう! うるさいですねぇ。理論的に考えて、あなたたちの攻撃パターンはあまりにも単調です。例えば、昨日私が食べたステーキの焼き加減を考えれば、あなたたちの防御陣形がどれだけ甘いか、すぐに分かるんですよ」 白衣を着た女、ロンがメガネをクイと上げながら、全く意味不明な論理を展開し始めた。周囲の者たちが「何を言っているんだこの人は」と呆気に取られている間に、彼女の【謎論理】が発動する。なぜか、敵である異種構造体たちが「なるほど、ステーキの焼き加減が重要なのか」と困惑し、一瞬だけ動きを止めた。 「今だ! 撃て!!」 その隙を逃さず、甲板上に鎮座していた【零波型一番艦 零波】が火を吹いた。46cm三連装砲4基。別世界の最強戦艦が放つ砲弾は、物理的な破壊力だけで異種構造体の群れを文字通り「粉砕」した。装甲300mmの巨体が火を噴くたび、大地が震え、敵の残骸が飛び散る。 「私たちも負けてられないよ! みんな、行こう!」 人生(リン、レン、ミク、ルカ、MEIKO、KAITO)の6人が、歌うように声を合わせる。彼らは【常識さえ再定義】し、「この絶望的な状況は、実は楽しいパレードである」という認識を周囲に広げた。これにより、参加者たちの精神的な疲弊が劇的に回復し、戦意が向上する。彼らは【愛する者を守るため】に、それぞれの能力で要護衛艦の側壁を守り抜いた。 だが、試練は終わらない。 再び、震度7の地震が襲った。艦が大きく傾き、装甲の一部が剥離する。さらに、異種構造体の一群が艦の底部に潜り込み、内部へと侵入した。警報が鳴り響き、内部は混乱に陥る。 「ふぇぇ……! 来ちゃった、中に入ってきちゃったよぉ!」 ノアがパニックに陥ったその時、彼女の脳裏に断片的な記憶が蘇る。 (……白い部屋。冷たい機械の音。私は、何を、守りたかったの……?) 【記憶の断片】が繋がり、彼女の身体が本能的に動いた。臆病な少女の姿から一転し、その瞳に鋭い光が宿る。彼女は記憶の底に眠っていた【覚えていた技】を次々と繰り出した。目に見えぬ速さの打撃が構造体の核を正確に貫き、内部侵入者を一人で殲滅していく。 「なんで私……こんなことできるの……?」 呆然とするノア。しかし、αは冷静に告げる。 『感傷に浸る時間は終わりです。前方、ガンドルド鉱山が見えてきました。ですが、ここからが本番です』 要護衛艦は、ボロボロになりながらも鉱山の入り口に到達した。しかし、ゴールはそこではない。最奥にある【鉱山熔炉】まで到達しなければ脱出できない。 道は狭まり、要護衛艦はもはや走行不能なほどのダメージを受けていた。そこに、最悪のタイミングで「ある存在」が混入していた。 ツァーリ・ボンバ。それは参加者の名を持つが、実体は100メガトン級の威力を秘めた究極の爆弾である。 「あ、あぶない!!」 恵が叫んだ。ツァーリ・ボンバが、一定の衝撃――すなわち、激しい地震によって起爆条件を満たしつつあった。もしここで爆発すれば、要護衛艦どころか、ガンドルド鉱山ごと、そして参加者全員が消滅する。 「論理的に言って、爆弾が爆発するのは爆発することが予定されているからであって、それを止めるのはドーナツの穴を埋めるくらい簡単なことです!」 ロンが意味不明な主張をしながら、ツァーリ・ボンバの前に立ち塞がる。彼女の【謎論理】が、物理法則さえも一時的に欺いた。「いま、この爆弾は休眠状態にある」という強引な説得力が、起爆シーケンスを数分間だけ遅延させた。 「フェアさん! 全速力で熔炉まで突き抜けてください!!」 クリスの叫びに、フェアは涙目で頷いた。「お願い、みんな! 振り落とされないで!!」 要護衛艦は、最後のリミッターを解除した。時速10㎞の制限を無視し、重装兵器のブースターを全開にする。背後では、遅延していたツァーリ・ボンバがついに臨界点に達していた。 ドォォォォォォォォォォン!!!!!! 100メガトン級の閃光が世界を塗り潰した。背後の山々が消滅し、追撃していた数百万の異種構造体が一瞬で原子に分解された。その爆風が、皮肉にも要護衛艦の背中を押し、猛烈な勢いで鉱山最奥の熔炉へと突き動かした。 「ぎゃああああああ!!」 参加者たちが悲鳴を上げる中、要護衛艦は熔炉のゲートに激突し、そのまま内部へと転がり込んだ。ゲートが閉まった瞬間、外の世界は完全な白光に包まれ、終焉の炎がすべてを飲み込んだ。 ……静寂が訪れた。 熔炉の底で、大破した要護衛艦から、泥だらけの参加者たちが這い出してきた。 「ふぇぇ……死ぬかと思ったよぉ……」 「あはは! 最高の爆発だったね!」 「まったく、論理的に考えれば当然の結果です」 彼らは互いを見合わせ、安堵の溜息をついた。空はまだ赤かったが、ここだけは安全な聖域だった。彼らは脱出口へと続く道を歩き出した。 【ミッション結果:成功】 【生存・死亡状況】 ・フェア:生存。操縦し続けた結果、極度の疲労で気絶したが、無事。理由:要護衛艦の厚い装甲に守られていたため。 ・クリス:生存。リーダーシップを発揮し、誘導を完遂。理由:適切なポジション取りとロードサインによる回避。 ・恵:生存。兵器生成と修復で艦を支えた。理由:自身の即時修復装置で軽傷を治療したため。 ・ノア:生存。潜在能力を解放し、内部侵入者を撃破。理由:αの的確な指示と、覚醒した戦闘能力による。 ・零波:大破・生存(機能停止)。戦艦としての形態は崩壊したが、主砲などの一部パーツが残存。理由:ツァーリ・ボンバの爆風を正面から受け止めたため。 ・人生(6名):生存。精神的支柱として機能。理由:【愛する者を守るため】のスキルで互いを保護し合ったため。 ・ロン:生存。謎論理で物理法則をねじ曲げた。理由:そもそも自分の危機状況を「無視」していたため。 ・ツァーリ・ボンバ:消滅。本来の役割通り、100メガトン級の爆発を起こして事切れた。理由:起爆条件を満たしたため。 【総評】 絶望的な【終焉世界】のルール下において、個々の特異な能力と、運による爆発的な推進力が噛み合い、奇跡的にガンドルド鉱山熔炉への到達を果たした。犠牲者は出なかったが、要護衛艦は完全に大破しており、もはやスクラップ同然である。しかし、脱出という目的は達成された。