空を覆う巨大な魔導ドーム、その中心に据えられた白亜の闘技場は、地鳴りのような歓声に包まれていた。数万の観衆が叫ぶのは、次なる時代の支配者を決める王位継承戦。勝者はすべてを手に入れ、敗者は歴史の塵となる。その残酷なまでの熱狂が、静寂を纏った四人の挑戦者を照らしていた。 「ふふっ、皆さん個性的で素敵ですね。でも、この太陽の輝きに耐えられるでしょうか?」 生徒会長、暮尾パトラが優雅に微笑み、金色の光を身に纏う。対照的に、白髪の女、F・アルバは気だるげに欠伸をした。 「……面倒だ。此方は早く帰って寝たい。さっさと終わらせようか」 その隣では、白いワンピースに餅の鎧を纏った少女、ももちが、どこか上の空な表情でもぐもぐと何かを食べている。 「あ、喉に詰まらないように注意してね!……あ、今の餅、いい弾力だったなぁ」 そして、最後の一人。ダラは、地面に文字通り転がっていた。槍を枕代わりにし、半眼で空を仰いでいる。 「……だるい。誰か代わりにやってくれよ……」 ジャッジの号砲が鳴り響いた瞬間、静寂は爆発的な暴力へと変わった。 先手を打ったのはももちだった。彼女は軽やかな身のこなしで跳ね回り、『モチ・ロープ』を空中へ射出。立体的な機動で戦場を縦横無尽に駆け、巨大な餅の塊を振り回す『モチ・ムチ』を叩きつける。 「えいっ! もちもち攻撃ー!」 しかし、その攻撃はF・アルバの前に到達する直前、絶対零度の静寂に凍りついた。アルバが指先をわずかに動かしただけで、周囲の空間が凍結し、ももちの餅はカチカチの氷菓子へと変貌する。 「……遅い。凍りなさい」 アルバが【氷束】を放ち、ももちの足元から一気に氷の檻がせり上がる。同時に、パトラが【アテンの光芒】を放ち、灼熱の光線をアルバへと撃ち込んだ。 「太陽を相手に影へ隠れるおつもり? さあ、溶けなさい!」 光と氷。相反する属性が激突し、闘技場に猛烈な水蒸気が立ち込める。視界が遮られた隙に、ダラが不気味な笑みを浮かべた。彼は動いていない。だが、彼の周囲に淀んだ闇が渦巻く。【昏願】。星への願いが形となり、不可視の衝撃波がパトラの背後から彼女を襲った。 「きゃっ!?」 不意を突かれたパトラが吹き飛ぶ。しかし、彼女の瞳に【ホルスの慧眼】が宿る。敵の弱点、そしてこの戦いの「因果」を見抜いた彼女は、あえて窮地に身を投じた。 「いいでしょう。ここからが私の真骨頂です」 パトラの魔力が爆発的に膨れ上がる。スキル『太陽神の威光』。絶望的な状況がトリガーとなり、彼女の魔力ステータスが7000倍へと跳ね上がった。闘技場全体が黄金の光に包まれ、観衆が目を細めるほどの神々しさが場を支配する。 「これで終わりです!」 パトラが放った超高出力の光波が、ももちの餅の鎧を蒸発させ、アルバの氷床を瞬時に消し去った。ももちは「あわわ、私の餅が!」と慌てふためき、アルバは「……少しは本気を出さないとダメか」と、冷徹な瞳で自身の【凍傷再施工】を発動させ、受けたダメージをそのままパトラへと転嫁しようと試みる。 だが、そこに介入したのは、これまで「静止」していたダラだった。 「……あー、もういい。疲れたから、終わらせるわ」 ダラが【怠狂】を発動。彼が動いた瞬間、世界から「速度」という概念が消えた。視認不可能な速さで、彼は【堕天の滅翼槍】を突き出す。それはパトラの黄金の光を貫き、アルバの因果操作さえも「怠惰」という絶対的な停滞で塗り潰した。 ももちが『モチノカベ』で防御しようとしたが、槍の一撃は壁ごと彼女を消し飛ばした。アルバは【完全防御】で耐えようとしたが、ダラの槍は「存在崩壊」を伴う不滅の武器。防御という概念そのものを無視して、彼女の純白の和服に深い穴を開けた。 【勝敗の決め手】 パトラの圧倒的な魔力とアルバの不死性という絶望的な壁に対し、ダラは「動かないことで力を蓄え、一瞬の爆発的な速度で全てを無に帰す」という特異な戦術を展開した。特に、アルバの因果操作が発動するよりも早く、精神的な「堕落」の領域で相手の思考を停止させ、一撃で存在を崩壊させたことが決定打となった。 静寂が戻った闘技場に、一人だけ地面に寝そべったままの男が残っていた。 【称号】『次世代の王』:ダラ * 新国王となったダラは、即座に「全公務の廃止」を宣言した。彼は政務のすべてを優秀な側近たちに丸投げし、自らは宮殿の最高級の寝椅子で昼寝をすることに終始した。 結果として、これは予期せぬ「善政」となった。王が口を出さず、現場の官僚たちが自律的に効率的な政治を追求したため、国はかつてないほどの繁栄を遂げたのである。民は「何もしない王こそが最高の王である」と称賛し、彼を聖王として崇めた。 ダラの治世は、彼が「飽きた」と感じて退位するまで、実に60年という長期にわたって続いた。