冷たいコンクリートに囲まれた広大な待機室。そこには、およそ「国家直属」という言葉に相応しい、殺気と自信に満ち溢れた男女が百人ほど集まっていた。重火器を背負う男、鋭い眼光を放つ暗殺者、異能のオーラを纏う若者。その異様な緊張感の中で、一人だけ場違いな空気を纏う老婆がいた。 マリアベールは、猫背気味に杖をつき、穏やかな笑みを浮かべて周囲を眺めていた。そんな彼女の隣に、不自然なほど静謐な輝きを放つ「物体」が浮遊している。青紫色の光を放つ、美しいクリスタル――オムニクリスタルである。 「ふふふ、賑やかなこと。若い方々は血気盛んでいいですこと」 マリアが気さくに声をかける。クリスタルは答えない。いや、喋るという概念を持っていないのかもしれない。しかし、マリアはその沈黙を拒絶とは受け取らず、むしろ心地よい静寂として楽しんでいた。 「私はマリア。ただのしがない老婆ですよ。あなたはお名前を……おや、お名前を名乗る口がないのかしら。ふふふ、面白い方ね」 クリスタルから発せられるのは言葉ではない。しかし、マリアは感じ取っていた。この物体が持つ、全次元を統べる圧倒的な「知」と、すべてを無効化する絶対的な「拒絶」の波動を。常人であれば恐怖に震え上がるほどのプレッシャーだが、酸いも甘いも噛み分けたマリアにとっては、心地よい刺激に過ぎなかった。 (ほう……これはまた、とんでもない化け物が紛れ込んでおる。この試験、退屈せずに済みそうですな) マリアの瞳の奥に、一瞬だけ鋭い光が宿る。しかしすぐにそれは消え、いつもの温和な老婆に戻った。 その時、会場に耳を劈くようなサイレンが鳴り響き、無機質な女性の声がスピーカーから流れた。 『――受験者各位。入隊試験を開始します。各自、指定のスタートラインへ移動してください。なお、試験中の妨害、協力、チーム結成はすべて自由です。生き残る方法は各自で考えなさい』 「さて、そろそろ時間ですわね」 マリアは軽く会釈し、ゆっくりと杖をついて歩き出した。「また後で、どこかでお会いしましょう」 青紫色の光は、ただ静かに彼女の背中を見送っていた。運命の歯車が、残酷に回り始める。