秋の陽光が、山々の紅葉を鮮やかな朱色に染め上げていた。東洋の深山、霧が立ち込める険しい道の先に、ひっそりと佇む老舗旅館「栄愛之湯」がある。 チームAの田中は、どこにでもいる平凡な姿で、ただの観光客のように歩いていた。一方、その隣では【トレーニー】肉肉四郎が、はち切れんばかりのバルクを誇る肉体を揺らし、呼吸と共に血管を浮き上がらせている。彼は足トレへの苦手意識からか、時折ふらつくが、その威圧感は山鳥さえも追い払うほどだった。 同時に、チームBのレオナ・モルフォは、薄手のパーカーにジーンズというズボラな格好で、あくびをしながら歩いていた。その後ろを、青い肌のスライム娘・みぃが、ぷるぷると体を揺らしながら、溶けかかった制服をなびかせてゆっくりとついてくる。 「あー、やっと着いた。ここ、電波入るのかな」 レオナが気だるげに呟き、一行は古びた木の門をくぐった。 玄関先では、腰の曲がったが眼光だけは鋭い主の婆さんが待っていた。チェックインの確認の間、彼らはロビーでとりとめもない雑談に花を咲かせる。 「肉肉さん、その筋肉で布団に入れますか?」 田中の問いに、肉肉は誇らしげに胸を張り、乳首の黒い盛り上がりを強調した。 「筋肉にサイズなど関係ない! 必要なのはプロテインと情熱だ!」 「ふふー、ぷるぷる……おいしそう」 みぃが、肉肉の腕に浮き出る血管を不思議そうに見つめている。レオナは適当にスマホをいじりながら、「適当に寝かせてくれればいいよ」とあくびを噛み殺していた。 男女に分かれた大部屋。男部屋では、田中が肉肉のトレーニング論に相槌を打ち、肉肉は「次は脚を鍛える……いや、やっぱり明日にしよう」と弱音を吐いていた。女部屋では、レオナがみぃに「あんたは本当に不思議な生き物ね」と笑いかけ、みぃは[丸]になってコロコロと転がりながら、のんびりと近況を語っていた。 そして、待ちに待った夕食後。外気は冷え込み、紅葉が夜の闇に浮かび上がる貸切露天風呂の時間となった。 男風呂で、田中はぼんやりと湯に浸かり、肉肉は「ふぅ……」と溜息をつきながら、その巨大な背中の筋肉を湯船に沈めていた。隣の女風呂では、レオナが「やっぱり温泉は最高ね」と、慣れた手つきで服を脱ぎ捨てて湯に浸かり、みぃは液体状に溶けてお湯と同化していた。 二つの風呂を隔てているのは、趣のある竹垣のみ。静寂が支配し、紅葉の葉が水面に舞い落ちる――その平和を、最悪の形で切り裂く者が現れた。 「……見つけたぞ。ここで油を売っていたのか」 突如、男風呂の壁を突き破り、敵対心剥き出しのCチームが乱入してきた。先頭に立つのは、【健気な少年】タケルくん。その隣には、彼に心酔しきった近所のお姉さんが、戦う気満々で立っていた。 「成敗だ!」 タケルくんが叫ぶと同時に、お姉さんが【何か来るっ】のスキルで超高速移動し、強烈な回し蹴りを肉肉の側頭部に叩き込んだ。その衝撃波が、男女を隔てる竹垣に直撃する。 ガシャアアアン!! 竹垣が全壊した。同時に、男風呂と女風呂が一つに繋がってしまう。湯煙の中から、全裸の肉肉、呆然とする田中、そして全裸で湯に浸かるレオナと、液体状になったみぃが視界に飛び込んできた。 「うわぁぁぁ!」 田中が悲鳴を上げる。現場は大混乱に陥った。 「ふざけるな! このリラックスタイムを邪魔する奴は許さん!」 肉肉が怒りに震え、バルクを最大まで膨らませる。しかし、足元の濡れたタイルが仇となった。【脚と腕が入れ替わってるよ。君の名は46番】を繰り出そうと跳躍した瞬間、足が滑り、肉肉は盛大に仰向けに転倒。そのままどすん!と湯船に水没し、巨大な飛沫が周囲を飲み込んだ。 「ちょっと! 何やってんのよ!」 レオナが立ち上がり、[巨大長舌]を伸ばしてタケルくんを捕らえようとする。しかし、そのタイミングで、水没から脱出した肉肉が【亀みてえな背中だ!】で空へ舞い上がった。 「モスト・マスキュラーーー!!」 肉肉の拳が振り下ろされたが、滑った足でバランスを崩しており、攻撃の矛先がズレてレオナの肩に激突。レオナはそのまま肉肉の強靭な大胸筋に押し付けられ、物理的に密着する形となった。 「きゃっ!? ちょっと、離しなさいよこの筋肉ダルマ!」 「すまん! 体が勝手に!」 混沌は加速する。みぃが[分身]して小型の自分たちでタケルくんを囲もうとするが、タケルくんは冷静にHB鉛筆を突き出し、みぃの分身を突き刺す。しかし、みぃはスライムであるため、鉛筆はただの「心地よいマッサージ」に変わっていた。 「なんだこの奴は!」 タケルくんが困惑している隙に、田中が「えーと、とりあえず止めてください!」と必死に間に入ろうとするが、彼もまた濡れた床で足を滑らせ、そのままレオナと肉肉の塊の上にダイブした。三人がもつれ合い、全裸で転げ回るという、文字通りカオスな状況が展開される。 お姉さんが【だっこして】でタケルくんを回復させ、再起を図ろうとするが、そこに肉肉の【46番の腹筋、ちぎりパン】が発動。自分の腹筋をちぎって食べた肉肉の狂気に、お姉さんが一瞬怯んだ。その隙を逃さず、レオナがカメレオンの能力で背景に溶け込み、タケルくんの背後に回り込む。 「終わりよ、ガキくん!」 レオナの強烈なテコンドー仕込みの蹴りが、タケルくんの側頭部を捉えた。さらに、みぃが[ビックリBOX]を差し出し、タケルくんがそれを開けた瞬間、中から出た恐ろしい顔に少年は絶叫し、完全に戦意を喪失した。 結局、Cチームはお姉さんの必死の抵抗も虚しく、肉肉の圧倒的な質量とレオナの奇襲、そしてみぃの精神攻撃の前に完敗し、逃げ出した。 静寂が戻った。しかし、そこにあるのは、全裸の男女がもつれ合い、竹垣が粉々になり、お湯が溢れ出した惨状であった。 「……なんか、すごいことになったな」 田中の呟きに、誰も答えなかった。肉肉は肩を落とし、レオナは顔を真っ赤にして、みぃはただぽかんとしていた。なんとも言えない、気まずい空気が湯気に混じって漂う。 彼らはその後、共同で壊れた竹垣を直すことになった。肉肉がその怪力で竹を固定し、田中が丁寧に紐で結び、レオナが適当にサポートし、みぃが隙間をスライムで埋めるという、奇妙な協調作業が行われた。 その後、一行は婆さんの前に正座し、深く頭を下げた。 「……本当に、申し訳ございませんでした」 婆さんはジト目で彼らを見たが、「まあ、いいわ。若いもんは元気で結構」と、呆れたように笑って許してくれた。 それぞれの部屋に戻った彼らは、布団の中で、天井を見つめて考え込んでいた。 肉肉は、自分の筋肉がもたらした混乱と、レオナとの物理的接触について。レオナは、自分の中のときめき(あるいは不快感)について。田中は、自分がなぜこの集団に混ざっているのかという人生について。そしてみぃは、明日のお菓子のことについて。 翌朝、チェックアウトを済ませた彼らは、澄み渡った空気の中、旅館を後にした。 「……まあ、たまにはこういう旅もいいかもな」 肉肉が照れくさそうに呟く。レオナは「二度と御免よ」と言いながらも、どこか満足げに微笑んでいた。田中は、心の中に抑え込んだ「あれは事故だった」という記憶を大切に抱えながら、それぞれの帰路についた。