富士山の山頂付近、夜明け前の薄明の中、風が止んだ瞬間に戦いは始まった。ロマ・フォウンは緑の軍服の裾を揺らし、黒の軍帽の下から黄金色の瞳を細めて、山頂に降り立った二人の参加者を見下ろしていた。背中まで届く銀髪が夜気に靡く。その立ち姿は可憐でありながら、ひどく洗練され、そして妖艶だった。 「あらあら……わざわざ富士山まで足を運んでくれるなんて、随分と熱烈なお客さまね。来日してまだ一日だというのに、もう私の首を狙う者がいるなんて、少し妬けてしまうわ」 彼女は余裕たっぷりに唇を歪め、ゆったりと両手を広げた。 最初に動いたのは流れ星の傭兵だった。バイクの排気音が闇を裂き、宇宙膨張の速度を纏った車体が一瞬で山肌を駆け上がる。その姿はまるで流星だった。『流星銃』を抜き、隕鉄の弾丸が音速を超えてロマ・フォウンへ殺到する。しかしロマは微笑を崩さず、指先をわずかに動かしただけで、弾丸は彼女の周囲の空気ごと軌道を失い、虚空へ消えた。 「速いのね。でも、速さだけでは私の時間には追いつけないわ」 その言葉と同時に、流れ星の傭兵の視界が白く弾けた。ロマの右掌がゆっくりと持ち上がり、膨大な魔力が渦を巻く。大気が悲鳴を上げ、山肌の岩が浮き上がる。 「……『魔力砲』」 囁くような声と共に、光が放たれた。山頂の空を白く焼き尽くす奔流は、山が消し飛ぶほどの威力を持ちながら、周囲の地形を守るように手加減されている。それでも、人間ひとりを消し去るには十分すぎた。流れ星の傭兵は咄嗟にタイムトラベルの息遣いを使い、光の直前から数秒前へと身を翻す。だが魔力砲は硬度も防御も魔法耐性も無視して空間を喰らい、回避の余地をわずかに削り取っていく。 「『流星刀』――!」 隕鉄の刃が閃き、魔力砲の奔流へ斬りかかる。しかし刃が触れた瞬間、刀身は霧散するように消え去り、柄だけが虚しく手に残った。 「無駄よ。私の魔力砲は、あなたの刀が信じている『硬さ』という概念ごと消し飛ばすの。そういうものなの」 そこへ、もう一人の参加者が動いた。パンチマン。彼は言葉を発さず、ただ一歩を踏み込んだ。その踏み込みだけで山の地面が陥没し、空間が軋む。 「……ほう。拳で語る者か」 ロマの黄金の瞳が初めてわずかに鋭くなった。パンチマンは拳を握る。その瞬間、異常な力が拳に集い、重力が生じた。周囲の空気がその拳へ吸い寄せられ、回避不可の圧が場を支配する。 「①拳――重力の牢獄だ」 続けて腕が引かれ、時空が屈折していく。宇宙が乖離するほどのエネルギーが腕に溜まり、星々の光が歪んで見えた。 「②腕――時空の屈折。③肩――物理法則からの離脱」 パンチマンの肩が淡く輝き、実現不可能のエネルギーが帯びられる。彼にとって物質は塵芥であり、距離や空間は些細な障害に過ぎなかった。 「④手首――累乗」 溜められたエネルギーが天文学的数値で膨れ上がり、山頂の大気が爆ぜた。 「⑤肘――過去改竄。相手の硬度を零へ」 過去が書き換えられ、ロマを含む周囲のあらゆる物質の硬度が零になる。魔力砲ですら、その存在の根拠を揺らがされたかのように揺らいだ。 ロマは初めて小さく息を呑んだ。だが、その表情はすぐに愉悦へと変わる。 「面白いわ……本当に、面白い。仲間に優しい私が、敵にこれほど情熱を向けられるなんて、久しぶりよ」 彼女の掌に、先ほどとは比較にならない魔力が収束していく。 「⑥心――気合。そして⑦右拳、多元宇宙ごと撃滅」 パンチマンの右拳が振り抜かれた。その一撃は空間を殴りつけ、無数の宇宙が重なり合う幻影が一瞬だけ見えた。 「⑧左拳――⑦を左手で再び」 続く左拳が、右拳の軌跡をなぞるように叩き込まれる。 「⑨真拳――⑦と⑧を二億倍の威力で」 最後の一撃が放たれた瞬間、富士山全体が震え、雲海が割れた。 ロマ・フォウンは迫る真拳を見据え、艶やかに笑った。 「いいわ、認めてあげる。あなたたちは私に本気を出させた。だから――ご褒美をあげましょう」 彼女の両掌が重なり、魔力砲の上位版――『超魔力砲』が形成される。山頂の空がひび割れ、光が世界を白く塗り潰した。 光と拳と魔力がぶつかり合い、爆発的な衝撃が山頂を消し去った。やがて静寂が訪れ、そこには何も残っていなかった。ロマ・フォウンだけが、焼け爛れた大地の上に立っていた。 「……仲間ならば、ここで手を差し伸べるのにね」 彼女は軍帽の位置を直し、静かに踵を返した。 【結末】流れ星の傭兵:死亡(超魔力砲により消滅)。パンチマン:死亡(超魔力砲により消滅)。