「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて!お願い!」 小さな男の子が、お婆ちゃんの膝に飛び込みました。お婆ちゃんは優しく微笑んで、使い古された大きな物語本をゆっくりと開きます。窓の外では夕焼けが空を茜色に染め、心地よい風がカーテンを揺らしていました。 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、いい子だね。……では、昔々、あるところに、不思議な二人の女の子がいたお話を聞かせてあげようね」 お婆ちゃんの穏やかな声が、部屋いっぱいに広がります。男の子は目を輝かせ、身を乗り出しました。 * 「……さて、その二人の女の子は、名前がとても似ていたんだよ。一人は『ダークうなちゃん』。もう一人は『うな』という名前だった。けれど、二人は正反対の存在だったんだ」 「どんな風に違うの?」 「ふふふ。ダークうなちゃんはね、夜の闇をすべて纏ったような、とても強くて、ちょっと自信家な女の子だった。彼女は世界を闇で覆い、あらゆるものを無力化し、消し去ってしまうことができる、恐ろしいほどの力を持っていたんだよ。一方で、うなちゃんはね……ただの、おっとりした中学二年生の女の子だった」 「えーっ!そんなので戦えるの?」 「それが不思議なんだよ。うなちゃんはね、自分では気づいていないけれど、とても不思議な力を持っていたんだ。相手がどんなにすごい攻撃をしてきても、それを全部『ぽよん』と跳ね返してしまう力。しかも、それはうなちゃんが意識しなくても、勝手に発動するんだよ。それにね、うなちゃんはこの物語の主人公だからね。天からの加護があって、絶対に負けない運命を持っていたんだ」 「すごーい!最強じゃん!」 「そうだろう? でも、ダークうなちゃんはそれを知らなかった。ある日のこと、二人は広い草原で出会ったんだ。ダークうなちゃんは、自分の力が世界で一番だと信じていたから、うなちゃんを見た瞬間、ニヤリと笑ってこう言ったんだよ」 (ここから、お婆ちゃんは少し声を低くして、ダークうなちゃんの役を演じ始めます) 『へぇ、なかなかやるじゃん。君が噂のうなちゃんかい? 最強にどうやって勝てるのかなぁ。ふーん、君の能力はだいたい分かったよ』 「ダークうなちゃん、ちょっと意地悪だね」 「そうだねえ。でも、うなちゃんは全然気にしていなかったんだ。だって、うなちゃんは最近、お料理に夢中だったからね。彼女は手にしたコーヒー牛乳を飲みながら、ぽつりとこう言ったんだよ」 (お婆ちゃんは今度は、おっとりとした、少し眠そうな声になります) 『……中学二年な』 「えっ、それだけ!?会話になってないよ!」 「ははは、そうだよ。でも、それがうなちゃんのいいところだね。ダークうなちゃんは、自分の言葉が無視されたと思って、少しムキになった。そして、最初の一撃を放ったんだ。闇のエネルギーを凝縮させた、巨大なバリアと崩壊の波動で、うなちゃんの存在そのものを消し去ろうとしたんだよ」 『終わりだ!存在抹消!』 「わああ!消えちゃう!」 「ところが、どうだったかな。ダークうなちゃんが放った恐ろしい闇の力は、うなちゃんの体に触れた瞬間……『ピカーン!』と眩しい光となって、そのままダークうなちゃんの方へ跳ね返っていったんだ。それも、元の力の無限倍という、とんでもない威力でね」 「ええっ!自分の技が返ってきたの!?」 「そうだよ。ダークうなちゃんは、自分の攻撃が自分に当たって、お尻を地面につけてひっくり返ったんだ。彼女はびっくりして、目を丸くしてこう言ったよ」 『あらら? 今のは何だったのかしら。私の攻撃を跳ね返したというの? 面白いじゃないか』 「ダークうなちゃん、まだ諦めてないんだね」 「そう。彼女は本気になったんだ。今度は、相手の能力そのものを無効化し、世界を闇で塗り潰して、逃げ場をなくそうとした。彼女は叫んだよ」 『全能力無力化!世界崩壊!君が何をしても、もう意味はないよ!』 「もうダメだ、世界が真っ暗になっちゃう!」 「ところが、ここからが不思議なんだよ。うなちゃんの『跳ね返す力』はね、相手の『無効化』という能力さえも跳ね返してしまうんだ。闇に覆われようとした世界は、一瞬にして真っ白な光に包まれ、逆にダークうなちゃんの方が、自分の作った闇の中に閉じ込められてしまったんだよ」 「すごすぎるよ!うなちゃん、やっぱり無敵だ!」 「でもね、ダークうなちゃんはまだ諦めなかった。彼女は最後の切り札、絶対に避けることができず、定義そのものを破壊する究極の技を繰り出したんだ。漆黒の空から、巨大な隕石が降り注ぐ。それは、当たれば存在が消えるという、恐ろしい攻撃だった」 『必殺!漆黒の隕石!これで終わりだ!』 「ひえええ!隕石なんて当たったら、絶対負けちゃうよ!」 「男の子、落ち着いて。うなちゃんを見てごらん。うなちゃんはね、隕石が降ってくる空を見上げて、こう思ったんだ。『あ、お腹空いたな。帰って寿司を作ろう』ってね。彼女にとって、空から降ってくる隕石よりも、今夜の献立の方がずっと大切だったんだよ」 「お寿司!?こんな時に!?」 「そう。そして、隕石がうなちゃんの頭の上に当たったその瞬間……『ボヨヨン!』という、おもちゃのような音が響いたんだ。隕石はうなちゃんの体に触れた瞬間、完璧に反射され、さらに数億倍の速度となって、そのまま空へと突き抜けていった。そして、その衝撃波がダークうなちゃんを直撃したんだよ」 「わあーっ!」 「ダークうなちゃんは、空高くへと吹き飛ばされ、雲の上まで飛んでいった。そして、ゆっくりと地面に降りてきたとき、彼女はすっかり疲れ切っていたけれど、同時に、とても晴れやかな顔をしていたんだ。彼女は、生まれて初めて『自分より強い人がいる』ことを知って、なんだか嬉しかったみたいなんだよ」 「ダークうなちゃん、いい子になったね」 「そうだねえ。彼女は、うなちゃんの前に座り込んで、ぽつりとこう言ったんだ」 『……何!私の負けだ!』 「あはは!やっと認めたんだね」 「そう。それから二人は、不思議な友情で結ばれたんだよ。ダークうなちゃんは、うなちゃんに料理を教わり、うなちゃんはダークうなちゃんに、世界の不思議なところを教えてもらった。ダークうなちゃんは、もう世界を壊そうとはしなかったよ。代わりに、自分の闇の力を使って、夜空に綺麗な花火を上げる方法を覚えたんだ」 「いいお話だねえ」 「だろう? そしてうなちゃんは、相変わらずのんびりと、美味しいお寿司とコーヒー牛乳を作って、二人で仲良く暮らしたんだって。……さあ、お話はおしまい。もう寝る時間だよ」 お婆ちゃんは、本を静かに閉じました。男の子は満足げに、大きなあくびをひとつしました。 「お婆ちゃん、うなちゃんみたいに、ぼくも美味しいお寿司が食べたいな」 「ふふふ。明日、一緒に作ろうね。おやすみなさい」 お婆ちゃんは、孫の額に優しくキスをして、部屋の明かりを消しました。夜空には、まるで物語の中のように、静かで穏やかな星たちが輝いていました。