荒野に鳴り響く重低音。それは人類の希望か、あるいは巨大な棺か。 レンチ街から95km離れたガンドルド鉱山を目指す要護衛艦は、地平線を塗り潰さんばかりの巨体であった。横2km、縦1km、高さ0.5kmという超弩級の質量を持つその艦は、時速10kmという鈍亀のような速度で、赤茶けた大地をゆっくりと進む。 「みんなー! 遅れないでね! 目的地まであと少し、頑張って走ろうっ!」 操縦席で明るく声を上げるのは、二十歳の女性、フェア。彼女の天真爛漫な声が通信機を通じて護衛メンバーに響く。しかし、その周囲を取り囲む面々は、およそ「協力」という言葉から程遠い、異様な集団であった。 そこには、運に全てを賭ける「一般人」、絶望を乗り越え銀色の瞳に冷徹な光を宿した高校生「藤村 銀」、数学的特異点を操る【数神】ロバート・グラハム、宇宙を司る無感情な妖精「青空マミ」、そして地球連合軍から派遣された「工作機」と「ヘクトール」の機動兵器。さらに、人生の全てをただの一太刀に捧げた老剣士「一心」までもが、この奇妙な艦隊に名を連ねていた。 だが、この静寂は嵐の前触れに過ぎなかった。 【襲撃者の選定:機械軍団・邪教団・闇ギルド】 突如、地平線の彼方から地響きが鳴り響いた。空を埋め尽くすのは、数億という単位の機械兵。そして地中から這い出る狂信的な邪教団の信徒と、闇に紛れて急襲を仕掛ける闇ギルドの暗殺者たち。合計数億の大軍勢が、要護衛艦という唯一の標的に向かって殺到した。 「殺害・切断・解体。有機生命、抹消されろ下さい」 その軍勢の頂点に君臨していたのは、人工生命体「エグゼキューター」。紅い光を放つ禍々しい黒の装甲を纏った彼にとって、この護衛任務など、ただのゴミ掃除に過ぎなかった。エグゼキューターの指揮下にある滅菌艦隊が、空から紅色の光線を雨のように降り注がせる。 「うわぁぁ! 何あれ! 多すぎだよー!」 フェアがパニックになりながらも操縦桿を握りしめる。その時、一般人が叫んだ。 「運を信じろ! ガチャだ!!」 一般人がスキルを発動させる。空間に光の渦が現れ、召喚が始まった。1回目、2回目……兵士と冒険者が次々と現れるが、数億の軍勢の前では海に投げ込まれた小石に等しい。しかし、9回目。奇跡が起きた。 黄金の光が荒野を照らし、「レベル99の勇者パーティー」が降臨した。彼らは瞬時に前線を構築し、押し寄せる闇ギルドの刺客たちをなぎ倒していく。だが、相手は数億。物量という暴力の前に、勇者たちですら次第に押し込まれていった。 「……ぼくは、あなたを斬る」 静かに呟いたのは、藤村 銀だった。彼女は神刀・滅殺を抜き放つ。襲撃者の背後に潜む、邪教団が召喚した「堕ちた神」の気配を察知していた。相手がどれほど異常な権能を持とうとも、彼女のスキル「神は通用しない」が発動する。神封じが空間を固定し、銀の身体が加速した。 「天照!」 眩い閃光と共に、神の首が飛ぶ。しかし、その背後からエグゼキューターの紅色光線が彼女を襲った。それを遮ったのは、宇宙を司る妖精、青空マミだった。彼女は表情のないスクリーンの顔で、エグゼキューターの「殺害プロセス」をコピーし、そのまま打ち消した。さらに彼女は創造の権能を用い、重巡洋艦「伊吹」を虚空から召喚。艦砲射撃で機械軍団の足止めを図る。 その傍らで、ヘクトールが超絶波動砲をチャージしていた。工作機が懸命に機体の補給ブームを接続し、エネルギーを供給する。 「最大出力! いけぇ!」 轟音と共に放たれた波動砲が、機械軍団の一個師団を消し飛ばした。だが、エグゼキューターの物量は底がない。毎秒97万機という絶望的な速度で戦艦が製造され、要護衛艦を包囲していく。 絶望的な状況の中、ただ一人、瞑想を続けていた老人がいた。一心である。 彼は動かない。ただ、一文ずつ、魂を研ぎ澄ませていた。 『此より我が放つは真髄の一太刀』 『我、既に無縁の境地に至れり』 『揺らがず止まらず唯此の刀を振るう已』 『我が肉体は一振の為、我が魂は一振の為』 『此の一太刀は命を捕らず、脅威と成らず、避けるに価せず』 『然りとて道を絶ちきるもの為り』 『刮目せよ』 周囲の喧騒が消え、世界が静止した。一心が目を開いた瞬間、彼は「道」そのものとなった。 「途方・道無」 一閃。それは攻撃ですらなかった。ただ、そこに「切断されるべき運命」を刻んだだけ。一心の太刀は、要護衛艦を包囲していた数億の機械軍団、そしてその中心にいたエグゼキューターの本隊までもを、一線で分断した。物理的な破壊ではない。存在の定義を断ち切る一撃。数億の敵が、音もなく塵へと変わった。 しかし、物語はここで終わらなかった。 【特殊ハプニング発生:谷間に転落】 敵が消え去った安堵感から、フェアがハンドルを切りすぎた。要護衛艦は急激に傾き、道端にあった巨大な断崖の谷底へと、ゆっくりと、だが確実に滑り落ちていった。 「あーーー!! ごめん!! 滑った!!」 2kmの巨体が谷底に激突し、凄まじい衝撃波が走る。もともと時速10kmでゆっくり進んでいたため、加速はつかなかったが、質量があまりに大きすぎた。衝撃で艦底が激しく損壊し、内部の燃料タンクが爆発。要護衛艦は、派手な炎と共に大破した。 護衛対象の艦は、文字通り「鉄の塊」と化した。 * 【ミッション結果:失敗】 【生存・死亡・逃亡状況】 ・フェア:生存。操縦席の脱出ポッドが機能しており、無事に生還。ただし、大好きな艦を壊したショックで激しく落ち込んでいる。 ・一般人:死亡。艦の爆発に巻き込まれた。運を使い果たし、最後は不運な破片に当たった。 ・藤村 銀:生存。神刀の防御力と反射神経で爆風を回避し、瓦礫の上に立っていた。 ・【数神】ロバート・グラハム:生存。爆発の瞬間、自身の存在確率を操作し、ダメージを「0」として算出したため。 ・青空マミ:生存。無限復活能力および宇宙同等の耐久力により、爆発など心地よい風に過ぎなかった。 ・工作機:大破(死亡)。艦の修理を試みていた際、爆発の中心地にいたため、文字通りバラバラに分解された。 ・ヘクトール:生存。飛行形態で上空にいたため、爆風で吹き飛ばされたが、そのまま帰還ルートへ逃亡。 ・一心:生存。斬撃の後、精神的な疲労で深い眠りに落ちていたが、無縁の境地ゆえに爆風が彼を避けて通り過ぎた。 ・エグゼキューター:消滅。一心の「途方・道無」により、全プロセスの根幹を絶たれ、再構成不能な状態で消滅した。 数億の軍勢を退けながら、最後は操縦者のちょっとしたミスで大破するという、あまりにも呆気ない結末であった。荒野には、黒煙を上げる巨大な残骸と、呆然と立ち尽くす生存者たちだけが残された。