天を突き刺すほどの巨大な円形闘技場。そこは今、世界中の視線が集まる熱狂の渦の中にあった。観客たちの地鳴りのような歓声が空気を震わせ、王位継承権を賭けた究極の死闘を待ちわびている。 「さあ、始まりだ! 運命を分かつ四人の強者よ、中央へ!」 審判の声が響き渡ると同時に、対照的な四人の戦士が姿を現した。白い餅の鎧を身に纏い、どこか上の空でもぐもぐと何かを食べている少女・ももち。夜空の外套を翻し、絶対的な自信を湛えた眼差しで立つ覇王・シン。ガタガタと震えながら、涙目で周囲を警戒する老人・半天狗。そして、静かに刀の柄に手をかけ、武人の矜持を漂わせる御神刃蔵。 「ふふん、皆さんは喉に詰まらないように注意してくださいね」 ももちがのんびりと呟いた瞬間、静寂は切り裂かれた。 「弱き者よ、消え失せよ!」 シンが指を鳴らす。その瞬間、地獄の門が開く。権能『ソロモン72柱の召喚』。現れたのは、猛烈な嵐を呼ぶ悪魔【パズズ】。猛風が闘技場を飲み込もうとしたが、それを真っ向から切り裂いたのは、御神刃蔵の一閃であった。 「ほう……。神をも超える術理、ここに見せつけようぞ」 刃蔵の太刀筋は、物理的な風のみならず、召喚された魔力の構成さえも斬り伏せていた。その鋭さに、震えていた半天狗が悲鳴を上げる。 「ひぃぃ! 恐ろしい! 儂が可哀想とは思わんのかァァ!」 半天狗は逃げ惑うが、ももちが機転を利かせた。彼女は『モチ・ロープ』を放ち、逃げる半天狗の足を絡め取る。 「えいっ! 捕まえました!」 「離せぇ! この小娘!」 ももちが餅で拘束した瞬間、刃蔵の剣が半天狗の首を捉えた。しかし、首が飛んだはずの老人の体は煙のように消え、代わりに四体の醜悪な鬼たちが姿を現す。積怒、可楽、空喜、哀絶。喜怒哀楽の分裂体である。 「不愉快だ……消えろ!」 積怒の錫杖から激しい雷撃が放たれる。ももちは慌てて『モチノカベ』を展開し、巨大な餅の壁で雷撃を防いだ。しかし、同時に空喜の音波攻撃と可楽の突風が壁を激しく揺らす。 「餅が……潰れちゃう!」 ももちは焦りながらも、『モチ・ムチ』を振り回し、近接してくる哀絶の槍を弾き返した。その戦いの中、シンは冷徹に戦況を分析していた。 「面白い。だが、遊びはここまでだ」 シンは金剛の肉体で、分裂体たちの波状攻撃を無効化して突き進む。雷撃も音波も、彼の前では「0」に還元される。シンが手をかざすと、再び召喚がなされた。今度は地獄の番犬【ケルベロス】。三つの頭が同時に咆哮し、分裂体たちを食い尽くそうとする。 しかし、そこで最凶の展開が訪れる。積怒が他の三体を強引に吸収し、憎珀天へと進化を遂げたのだ。少年の姿をした鬼が、背中の太鼓を打ち鳴らす。 「不快不愉快極まれり……!」 【血鬼術 無間業樹】。地中から巨大な木々の龍が次々と湧き上がり、闘技場全体を包囲する。逃げ場のない絶望的な状況。龍たちが放つ【狂鳴雷殺】と【狂圧鳴波】が、ももちの餅の壁を粉砕し、シンをも押し戻した。 「これぞ極致。だが、斬れぬものなどこの世にない」 御神刃蔵が静かに構えを取る。平晴眼の構え。彼は、憎珀天が放つ広範囲の攻撃の「隙」を、後から追いかけながらも先に捉えるという超常的な技術で潜り抜けた。 「【秘剣・燕返し】!」 三つの並列世界から同時に放たれた不可避の刃が、憎珀天の龍の首を同時に断つ。しかし、憎珀天の再生能力は凄まじく、即座に肉体を復元した。 「ふっ、まだだ。これを持って、終焉を」 シンがついに禁忌を解禁する。権能『七大罪の覇王』。出典:キリスト教神学に基づく七大罪の化身。彼は「傲慢」の権能を身に纏い、世界の理さえも塗り替える圧力を放った。ももちの餅は重圧で地に張り付き、憎珀天の龍たちさえも、その威圧感に身がすくみ、動きを止める。 「今だ、刃蔵殿!」 シンが作り出した一瞬の静止。それこそが、武人・御神刃蔵が待ち望んだ最高の好機であった。 「《絶技・無明廻天》!!」 燕返しによる空間の屈折と、無明三段突きによる事象飽和。矛盾した攻撃が同時に、そして完璧な精度で憎珀天の核を貫いた。同時に、その余波はシンが展開していた権能の結界をも、そしてももちの足元までをも、美しく、鋭く切り裂いた。 静寂が訪れる。憎珀天は、自らの体が塵となって消えていく中、恍惚とした表情で呟いた。 「……見事だ。これほどの剣技に斬られるとは……心地よい……」 勝負は決した。最強の矛と盾、そして超常の権能を全て上回ったのは、ただ一振りの刀に人生を捧げた男の「技」であった。 観客席からは、地を揺らすほどの拍手と歓声が巻き起こった。新たな王の誕生である。 【称号】『新たな王、万歳!』 新国王となった御神刃蔵は、権力への執着を一切持たず、ただ「道」を追求し続けるという異例の統治を行った。彼は政務の多くを信頼できる臣下に任せ、自らは全国の剣客を育成する道場を設けて文化を興した。結果として、武勇と礼節を重んじる平和な時代が訪れ、国民は心身ともに豊かになったとされる。 彼の善政は、彼が自らの剣の極致に達し、満足して静かに隠居するまでの80年という長い年月、揺るぎなく続いた。