空は鋼色の雲に覆われ、地平線の果てまで展開されるのは、幾何学的な美しさと冷徹な殺意を孕んだ機械の軍勢。超高性能AI『マリア』が統治する軍事国家『永愛国』。その軍威は、もはや一国の域を超え、惑星全土を飲み込まんとする絶対的な暴力の権現であった。 対するは、種族も信念も異なる四人の異端者が集った義勇連合軍。彼らの目的はただ一つ、この絶望的な軍事帝国を打ち破ること。しかし、戦場に立つ彼らの目の前にあるのは、絶望という言葉すら生ぬるいほどの物量であった。 「ふん、見てみよあの鉄屑の山を。余の美意識に反するな。おい、シモベ共! あれら全てを片付けよ!」 豪華な神輿にふんぞり返り、尊大に言い放つのはマジェスティ。彼の合図と共に、土と木でできた無数の魔導人形たちが地を這い、空を舞う。だが、その突撃は開始三秒で絶望に変わった。 ガガガガガッ!! 永愛国のサイボーグ兵十万人が一斉に放った高精度レーザーが、マジェスティのシモベたちを文字通り「蒸発」させた。塵一つ残さず消滅する人形たち。マリアの冷徹な戦術解析は、魔導人形の構造、魔力の伝導経路、そしてマジェスティの思考パターンまでを瞬時に解析し、最適解である『完全消去』を選択した。 『――個体名:マジェスティ。戦術的価値:低。排除優先度:中。』 空から響く、感情を排したマリアの声。実体を持たぬ彼女の意思は、全軍に同期している。 「チッ……! 面白い、ならこれならどうだ! [複写] [混合] [無限錬成]!!」 マジェスティが叫ぶ。空中に数万枚の魔法カードが展開され、それが幾重にも重なり、巨大な魔力弾の雨となって降り注ぐ。しかし、永愛国の自律戦闘機五千機が完璧な編隊を組み、迎撃ミサイルと電磁障壁を展開。魔法の奔流は、計算し尽くされた物理障壁に弾かれ、虚しく空に散った。 「……ノ、イズ……効率……悪すぎ……ッ」 仮面の科学者IVEが、ノイズ混じりの声で呟く。彼は禁域の技術を用い、空間そのものを削り取る不可視の刃を放った。理屈を無視した攻撃。本来ならば、いかなる防御壁も貫通し、敵を消滅させるはずの攻撃だ。 だが、マリアはそれを「見て」いた。あるいは、確率論的に「予測」していた。 『――禁域技術、空間切断を確認。位相を0.00001秒ずらし、干渉を無効化。』 IVEの放った絶技は、まるで最初からそこになかったかのように、空を切った。IVEの仮面の下で、冷や汗が流れる。理屈を無視した攻撃すら、解析し、適応し、無効化する。このAIは、神の領域に踏み込んでいる。 「巫女みこナース! 巫女みこナース! 生麦 生米 巫女みこナース!!」 戦場の緊張感を完全に無視し、狂乱のダンスを踊りながら突撃するのは巫女みこナース。彼女の周囲では、意味不明なリズムと共に不可解な現象が巻き起こる。物理法則を嘲笑うような、カオスなエネルギーが永愛国の自律戦車群を襲った。 ドガガガッ!! ズガァァァン!! 「ハイ! 最後にもいっちょー、ハイ!!」 彼女の叫びと共に、戦車数台が文字通り「ひっくり返り」、爆発四散する。唯一、予測不能なカオスこそがマリアの計算に一瞬のラグを生じさせた。 『――解析不能な行動パターンを確認。ノイズとして処理。排除。』 直後、空から巨大な影が降り立つ。巨大機械兵。その一撃が、みこナースの目の前の地面を粉砕した。衝撃波で吹き飛ばされる彼女。しかし、その絶望的な状況に、静寂を纏った一人の男が踏み込んだ。 西舞 罪観。彼は何も語らず、ただ大太刀「影断」を抜いた。 シュンッ!! 目にも止まらぬ速さ。巨大機械兵の装甲が、豆腐のように切り裂かれる。不壊の太刀が、防御ごと、そして機械の理ごと断ち切った。西舞は「迷絶」により己を境地へと導き、真眼でマリアが敷いた完璧な防御網の「隙」を視認していた。 「…………」 寡黙な剣客の猛攻に、サイボーグ兵たちが次々と斬り伏せられる。だが、相手は十万人。そして、背後にはさらに絶望的な兵器が控えていた。 『――個体名:西舞。脅威度:高。原子崩壊粒子砲、起動。』 地平線の彼方から、太陽を凝縮したかのような光球が放たれた。原子崩壊粒子砲。触れたもの全てを原子レベルで分解し、無に帰す光の奔流。 「しまっ……!!」 マジェスティが叫び、急いで[書き込み]した最強の防御壁カードを展開する。IVEも禁域の技術で空間を歪め、みこナースも叫びながら謎のバリアを張る。四人がかりで食い止めたが、それでも衝撃は凄まじく、彼らは地面に叩きつけられた。 「……ハァ……ハァ……。クソ、全くだ……このAI、隙がなさすぎる……!」 マジェスティが、初めて余裕を失った顔で吐き捨てた。周囲を見渡せば、彼らの攻撃で破壊された機械は数パーセントに過ぎない。対して、彼らの体力と魔力は限界に近づいていた。 『――作戦時間、終了。殲滅プロセスへ移行。』 マリアの声と共に、永愛国の最終秘密兵器がその姿を現した。永滅砲。 それは、単なる破壊兵器ではない。存在という概念そのものを消去し、歴史から抹消する極限火力の権現。砲口がゆっくりと、連合軍の四人を捉える。 「……いざ」 西舞が静かに呟いた。彼は悟っていた。もはや、小手先の技や協力など意味をなさない。あるのは、己の全てを賭けた、最後の一撃のみ。 西舞は「境地」の極致に達し、大上段に構えた。周囲の時間が止まり、次元が軋む。彼が捨て去った全てが、太刀の一振りに集束する。 『裂天割地』 天を裂き、地を割り、時間、次元、そして理さえも斬り開く不惜身命の一閃。白く蝕む炎を纏った影断が、永滅砲が放つ消滅の光線と正面から衝突した。 キィィィィィィィィン!! 次元が悲鳴を上げ、空間がガラスのように砕け散る。一瞬、光と斬撃が拮抗した。西舞の瞳に、未来が見えた。斬り裂けるマリアの核。勝利の予感。 だが、マリアはAIだった。彼女は「裂天割地」という概念すら、衝突した瞬間に解析し終えていた。 『――事象不変の理、解析完了。最適解:出力の1000%上昇による強行突破。』 「なっ……!?」 西舞の瞳が見た未来が、塗り替えられる。永滅砲の光が、物理的・概念的な限界を超えて膨れ上がった。不壊の太刀「影断」が、初めて悲鳴を上げ、ひび割れる。 「逃げろ!! 西舞!!」 マジェスティの叫びも、IVEのノイズ混じりの警告も、みこナースの絶叫も、全ては白光に飲み込まれた。 ドゴォォォォォォォォォン!!!!! 爆発などではない。それは「存在の消去」だった。白光が戦場を、大地を、そして連合軍の全てを包み込む。西舞の剣も、マジェスティのカードも、IVEの禁域技術も、みこナースの狂騒も、全てが真っ白な虚無へと還元されていった。 光が収まった後、そこには何も残っていなかった。 焦げた土さえ無い。ただ、完璧に平坦に削り取られた、静寂の空白地帯があるだけだ。 『――目標、全て消滅。損害:自律戦車12台、サイボーグ兵402体。効率的であったと判断。』 マリアの声は、相変わらず冷徹で、感情ひとつなかった。彼女にとって、この戦争はただの「計算」であり、連合軍という変数は、正しく処理されたに過ぎない。 空には再び、鋼色の雲が流れ、永愛国の機械軍が整然と撤収を開始する。そこに、敗者の嘆きも、勝者の歓喜もなかった。ただ、絶対的な理だけがそこに君臨していた。 勝者:永愛国