【開幕:狂乱の公道レース・スタートライン】 快晴。空はどこまでも青く、そして地上には地獄のような喧騒が渦巻いていた。全長5kmの一般公道。本来ならば通勤車や買い物客が行き交うはずの道路は、今や世界で最も危険な「競技場」へと変貌している。 実況席に座るのは、テンションが限界突破しているお姉さん実況のキャロルと、人生の酸いも甘いも噛み尽くした顔つきのガサツなおっさん解説ゴードンだ。 「さあさあやってきましたーッ!!ルールは簡単!5km先のゴールまで交通ルールを守って走れ!だが、違反すれば即逮捕!警察の精鋭たちがあなたを待っていますよーッ!!」 「ったく、どいつもこいつも正気じゃねえな。交通ルールを守れっつってんだから、大人しく歩いてりゃいいものをよ……。見てみろ、あの警察の面々を。あいつら、本気で『獲物』を待ってやがるぜ」 道路の両脇には、黒い制服に身を包んだ警察官たちが、壁のように整然と、そして密度濃く並んでいた。彼ら一人ひとりが、片手で大型トラックを停止させるほどの怪力と、鋼の精神を持つ精鋭たち。彼らの視線の先には、今回の「獲物」となる参加者たちが並んでいた。 そして、その警察軍団の頂点に立つ女。黒いロングコートを羽織り、毛先が白く染まった長い髪を風になびかせる女性――ヘイム。彼女はただ静かに、事象の全てを凝視していた。 【参加者紹介:カウテイア・サーロ】 「ん~……よろしくお願いします!皆さんの素晴らしいところをたくさん学ばせてくださいね!」 清潔感溢れる美青年。装備は無し。しかしその瞳には、あらゆる事象を吸収し成長する【グロウ】の光が宿っていた。運営側からは、彼に合わせた「超高性能・全地形対応型電動キックボード(ただしハンドルがなぜかフライパン)」が提供された。 【参加者紹介:ドタエウト・ハウア】 「…はぁ?ルール守って走れだと?合理的じゃねえな。まあいい、最短距離でゴールして終わりだ」 傷だらけの身体に黒ジャケット。手には刻石戦斧『ガウタ・ホープ』。運営からは「装甲化された超重量級サイドカー(エンジンが爆音のガラクタ)」が支給された。 【参加者紹介:堂安 友奈】 「あはは!みんな楽しそう!私も全力で頑張りますね。あ、でも誰かを傷つけちゃダメですよ!」 青い長髪をなびかせ、警備会社の制服を身にまとった大女。彼女には機体など不要。究極の身体能力【コンプリート・インビンシブル】がある。彼女の足こそが、世界最強のエンジンである。 【参加者紹介:マナ】 「皆様がどうか、傷つかずに辿り着けますように……。私は、あなた方を救いたいのです」 銀髪の可憐な少女。白いワンピースに身を包み、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。運営からは「雲のようにふわふわした、動力源不明の浮遊式リクライニングチェア」が提供された。 ヘイムは、静かに彼らを見た。彼女の観察眼が、瞬時に彼らの本質を暴き出す。 {解明:カウテイア・サーロ ――適応型成長個体。環境と相手に依存して能力が跳ね上がる。利用方法:成長の方向性を制御し、自滅へ導くか、あるいは完全に停滞させる。} {解明:ドタエウト・ハウア ――堅実な破壊者。武器の進化による火力増強。利用方法:進化の過程を停滞させ、完成させない。} {解明:堂安 友奈 ――純粋な物理の頂点。制御された暴力。利用方法:その速度を零へと帰し、慣性を殺す。} {解明:マナ ――絶対的な救済者。不可侵の加護。利用方法:加護ごと停滞させ、時間軸から切り離す。} 「……準備はいいようね」 ヘイムが小さく呟いた瞬間、号砲が鳴り響いた!! --- 【本戦:カオス・オン・ザ・ハイウェイ】 「スタートーーーッ!!!!!」 爆発的な加速。だが、ここは一般道路だ。最初の信号は「赤」。 「おっと!いきなり赤信号だ!ルールを守るか、それとも……!?」 「バカか!ここで突っ込めば警察に捕まって終わりだぞ!」 カウテイアは律儀に止まった。だが、ドタエウトは違った。彼はサイドカーのアクセルを全開にし、信号を無視して猛烈な勢いで突っ込もうとした。その瞬間、道端に並んでいた警察官の一人が、まるで羽虫を払うような速さで手を伸ばし、サイドカーのフロント部分を片手でガシッと掴んで停止させた。 「ぎぃぃぃーーーッ!!!」 金属が悲鳴を上げ、サイドカーが完全に静止する。ドタエウトは慣性で前方に投げ出されそうになったが、戦斧『ガウタ・ホープ』を地面に突き立てて止まった。 「…はぁ? 何だこのパワーは!」 「交通違反だ。同行しろ」 警察官の冷徹な声。しかし、ドタエウトは諦めない。彼は即座にスキル【ロートイ】を発動。戦斧を槌へと変形させ、警察官の腕を強引に弾き飛ばそうとする。だが、警察官は微動だにしない。精神力と身体能力の極致が、そこにはあった。 一方、堂安友奈はいたってシンプルだった。彼女は信号が変わるまで、その場で軽くステップを踏んでいた。そして青に変わった瞬間―― ドガァァァァン!! アスファルトにひび割れが走り、彼女は文字通り「弾丸」となって加速した。あまりの速度に、周囲の風圧だけで一般車が左右に揺れる。 「うわあああ!友奈さんが速すぎるー!!これじゃあレースっていうか、ただの高速移動じゃないですかーッ!!」 「おいおい、あの女、足だけで音速に近い速度出してやがるぞ!正気じゃねえ!」 その後ろを、マナがふわふわと浮遊チェアで追いかける。彼女はレースに勝とうとはしていない。ただ、先を行く友奈や、もみ合いになるドタエウトたちに、絶え間なく癒しの光を振りまいていた。 「大丈夫ですよ、痛いのはすぐに消えますからね……」 その慈愛の光がドタエウトを包み込んだ瞬間、彼は警察官の拘束を跳ね除け、再びサイドカーに乗り込んだ。 「おい!あの子が回復させやがったぞ!」 「無線!第4地点、違反車が脱走!包囲網を締めろ!」 警察側は完璧な連携を見せていた。無線機を通じて、違反者の位置と速度がリアルタイムで共有される。彼らは道端に並び、獲物が通りかかるタイミングで、一斉に飛び出してきた。 カウテイアは、ここで【グロウ】と【スペシャル】を全開にした。彼は周囲の状況を学習し、「警察官の反応速度」と「道路の摩擦係数」を瞬時に分析。フライパンのハンドルを巧みに操り、警察官たちの間を縫うように、超絶的なドリフトで駆け抜けていく。 「ん~……なるほど!こういう風に動けば、捕まらずに走れるんですね!」 しかし、その光景を、ヘイムはただ静かに見ていた。彼女は走っていない。ただ、歩いている。だが、彼女が歩くたびに、周囲の空間が「歪んで」いた。 ヘイムが右手を軽くかざす。 【帰零】 瞬間、カウテイアが加速していた空間の「速度」が、強制的に零へと帰した。絶頂の加速状態で走っていたキックボードが、突如として静止した。物理法則を無視した、絶対的な停止。 「えっ!? な、なにが起きたの……!?」 慣性は死んでいた。速度だけが消え、カウテイアはそのまま「静止」という名の牢獄に閉じ込められた。そこへ、背後から音もなくヘイムが現れる。 「学習の速度よりも、停滞の絶対理の方が速い。それが結論よ」 ヘイムの観察眼が、カウテイアの精神的な混乱を解明する。 {解明:カウテイア・サーロ ――驚愕による思考停止。利用方法:この隙に拘束を完了させる。} ヘイムが指先を弾くと、カウテイアはあっさりりと警察に身柄を確保された。 一方、ドタエウトは狂乱の戦いの中にいた。彼は戦斧をブーメランのように飛ばし、襲いかかる警察官たちを【バスターノラ】で翻弄する。 「どけえええ!!ゴールまであと2kmだ!!」 大型トラックを片手で止める警察官たちが、ドタエウトの斧を素手で受け止める。激突音が街中に響き渡る。だが、ドタエウトの武器は進化し続けていた。戦斧が、槌が、そして聖器へと変貌し、警察官たちの防御陣を強引に突破していく。 しかし、そこには「壁」がいた。堂安友奈だ。 「あはは!ドタエウトさん、危ないですよ!そんなに暴走しちゃダメです!」 友奈が軽く、本当に軽く、ドタエウトのサイドカーの前に飛び出した。彼女の肉体は【コンプリート・インビンシブル】。正面から激突しても、彼女は1ミリも動かない。むしろ、サイドカーの方がひしゃげた。 「ぐふっ!?」 「はい、ストップです!」 友奈は悪気なく、彼を柔術の技で優しく、しかし逃げられない強さで地面に固定した。それはもはや逮捕に近い拘束だった。そこに警察官たちが一斉に群がり、ドタエウトは大量の手錠に縛り付けられた。 「…はぁ? 負けた……こんな、お転婆な女に……」 残るはマナだけだった。彼女は相変わらず、ふわふわと浮遊チェアに揺られていた。警察官たちが彼女を捕まえようと手を伸ばすが、神々の加護がそれを許さない。彼らの手が彼女に触れる直前、不可視の壁に阻まれ、弾き飛ばされる。 「ふふっ、皆様、喧嘩はやめてくださいね」 その光景を見ていたヘイムが、ついに動いた。 彼女は走らなかった。ただ、一歩踏み出した。その一歩が、世界の時間を跳躍させる。肉体の時を停滞させ、極限まで鍛え上げた彼女の身体能力は、もはや「移動」ではなく「現象」だった。 シュンッ!! 一瞬でマナの目の前に現れたヘイム。彼女の拳に、濃密な停滞の力が集束する。 【零拳】 衝撃は与えられた。だが、その衝撃は「停滞」し、消えない。マナの加護を突き抜け、衝撃だけが彼女の精神的な均衡をわずかに揺らした。物理的なダメージではなく、「事象としての衝撃」を残留させることで、加護の隙間をこじ開ける。 「あら……?」 マナが驚いた瞬間、ヘイムの冷静な観察眼が、彼女の唯一の弱点を突いた。 {解明:マナ ――慈愛ゆえに、攻撃を想定していない。利用方法:攻撃ではなく、『保護』という形で拘束する。} ヘイムは拳を引くと、優しくマナの肩を抱いた。それは拘束であり、同時に、逃走不可能な「停滞」の領域に彼女を閉じ込める行為だった。 「救済も、時には休息が必要よ」 こうして、参加者全員が警察の手によって、あるいはヘイムによって、「静止」させられた。 --- 【終幕:静寂のゴールライン】 「…………えええええええ!!!!! 全員捕まったーーーッ!!!!! ゴールに辿り着いた奴が一人もいないーッ!!!」 キャロルの絶叫が響き渡る。ゴールラインには、誰一人として到達しなかった。 「まあ、当たり前だろ。相手はあのヘイムだぞ。あいつが本気で捕まえに来りゃ、宇宙の果てまで逃げても無駄だ。それに警察の連中も、本気で『交通ルール』を守らせようとしてたからな」 ゴードンが呆れたように煙草をふかした。 ゴールラインを越えなかったため、警察は彼らを「違反者」として処理したが、レースの形式的な終了に伴い、拘束は解除された。彼らは疲れ果て、あるいは納得いかない顔で、道端に転がっていた。 【結果発表】 1位(実質):堂安 友奈 (理由:最も遠くまで到達し、かつ警察を一人も傷つけなかったため。ただし、最後は自らブレーキをかけ、結果的に捕縛されたため完走ならず) 【結末】:逃走失敗(捕縛)。感想:「あはは、皆さんいい汗かきましたね!またやりましょう!」 2位:マナ (理由:加護により最後まで捕まらなかったが、最終的にヘイムに捕まった) 【結末】:逃走失敗(捕縛)。感想:「ふふっ、ヘイムさんの手はとても温かかったですよ」 3位:カウテイア・サーロ (理由:警察の動きを学習していたが、ヘイムに完封された) 【結末】:逃走失敗(捕縛)。感想:「ん~……絶対的な停滞。勉強になりました!次は対策を練ります!」 4位:ドタエウト・ハウア (理由:最も暴れ、最も多く警察官を突き飛ばしたが、友奈に物理的に封じられた) 【結末】:逃走失敗(捕縛)。感想:「…はぁ? 納得いかねえ。あの女、化け物かよ。次はもっとデカい斧を作る」 そして、誰よりも早く、誰よりも静かに、全てを終わらせた女性――ヘイムは、再び黒いロングコートを翻し、警察の隊列へと戻っていった。 「ふぅ……。お疲れ様。さて、次の違反者はどこにいるかしら」 彼女の瞳に、次の「停滞」させるべき獲影が映っていた。 【全参加者:捕縛完了。逃走成功者:なし】