【混沌の市街地5kmロードレース:交通法規遵守(?)デスマッチ】 第1章:開幕宣言と狂乱のエントリー 快晴。青い空の下、都内某所の一般道路。そこには、およそレースとは言い難い異様な光景が広がっていた。 道端には、精鋭中の精鋭、身体能力の化身とも言える一般警察官たちが、まるで壁のように隙間なく整列している。彼らの眼差しは鋭く、互いに言葉を交わさずとも呼吸を合わせる「以心伝心」の連携準備は万端だ。そしてその中心には、対能力者部隊《ж》の二人が、退屈そうに、あるいは不気味に微笑んで立っていた。 「えーっ!!皆さんこんにちはー!!本日は快晴!絶好の暴走……あ、失礼!絶好のレース日和です!!解説はお馴染み、なんでも全力なお姉さんがお送りしまーす!!」 拡声器を通して、鼓膜を突き破らんばかりのハイテンションな女性の声が響き渡る。隣からは、地響きのような野太い声が割り込んだ。 「おい!誰が暴走だ!これは法執行の真っ最中だろうが!ルールを守らねえ奴は、この精鋭警官隊と《ж》が完膚なきまでに叩き潰して捕縛する!いいか、一般道だぞ!赤信号で突っ込んだ奴から順に地獄を見せてやるからな!ガハハハ!!」 そんな狂気的な実況・解説陣をよそに、スタートラインにはあまりに個性的(というか支離滅裂)な参加者たちが並んでいた。 【参加者エントリー&機体詳細】 1. 茶柱 タテ子 - 「わちき、ゆっくり走りまーすにゃあ。お茶でも飲みながらね~」 - 【機体:電動茶室・特急便】:運営が用意した、畳が敷かれ、常に茶釜から湯気が上がっている超高性能・全方位移動式茶室。茶葉が舞い散るエフェクト付き。 2. 越後屋久兵衛 - 「ふむ。神速の域に至れば、交通ルールなど誤差に過ぎぬ。だが、礼儀は重んじよう」 - 【機体:なし(徒歩)】:全ステータス2000固定。名刀『越乃名月』を携え、白ベレー帽を被ったスタイルで、単身、物理法則を無視した速度で歩く。 3. 《???》??? - 「…………(沈黙)」 - 【機体:なし(徒歩)】:正体不明の男。ただ立っているだけで周囲の空間が歪んでいる。勝たせてはいけない、あるいは勝ってはいけない「最悪のトリガー」を内蔵した歩く禁忌。 4. トマト - (意思なし。ただ芳醇な甘い香りを漂わせている) - 【機体:超高級・金箔ダイアモンド・リ무ジン・キャリー】:運営が用意した、96億円の価値に見合う超豪華な自動走行リムジン。中には最高級のクッションに鎮座した「トマト」が一つだけ乗っている。糖度20の衝撃。 --- 第2章:混沌の5kmレース!ルールと欲望の激突 「それでは!!ルールの再確認です!全長5kmの一般道路を走り、ゴールを目指してください!ただし!信号無視、速度超過、歩行者妨害などの交通違反をした瞬間、沿道の警察官および《ж》の二人が全力であなたを捕まえにいきますよ!!それでは……スタート!!」 ドガアアアアン!! 号砲と共に、レースが開始された。しかし、その光景はあまりにもシュールだった。 まず飛び出したのは越後屋久兵衛である。彼は「神速」を誇るが、あえてゆっくりと、しかし確実に一歩で10メートルを移動するという奇妙な歩法で進む。対して、トマトを乗せたリムジンはAIによる完璧な交通ルール遵守走行を開始。時速40kmという、レースとしては絶望的に遅い速度で、法定速度を厳守して進む。 「おやまぁ。そこに茶柱が」 タテ子が呟いた瞬間、彼女の周囲に猛烈な勢いで茶葉が舞い上がり、なぜか彼女の電動茶室が超加速。しかし、彼女は優雅に茶を点てており、方向感覚が皆無である。そのまま右折禁止の標識を無視して右折しようとした。 「おい!!あのアマ!右折禁止を無視したぞ!!捕らえろ!!」 解説のおっさんが叫ぶと同時に、道端に並んでいた精鋭警官たちが、音もなく、しかし爆速で跳躍した。彼らは以心伝心で空中でフォーメーションを組み、タテ子の茶室を包囲する。その身体能力はもはや人間ではなく、壁を蹴って音速に達していた。 だが、ここで《ж》の華燐が動く。 「待て待て、警察の皆さん!そんなんじゃ面白ないやろ?うちが話をつけるわ」 華燐がひょいとタテ子の前に立ち、細い目をさらに細めてニヤリと笑った。彼女のコートの中では、金運を上げるという白蛇がうねっている。 「タテ子さん、あんたのその『茶葉が勝手に集まる能力』、ええ金になるで。例えば、世界中の茶葉を独占的に集めて、限定の『超高級・茶柱ティーセット』として販売するプランはどうや?具体的に、1セット100万円で、月間1000セット限定。手数料としてうちが10%取るけど、あんたには月間9000万円の利益が出る計算や。どうや、契約書はここにあるで」 【契約内容:茶葉独占販売権】 - 収集した茶葉の全権を華燐が管理 - 利益配分:タテ子90% / 華燐10% - 支払いは毎月1日、現金または金塊にて 「まあぁ!月9000万!?それでゆっくりお茶が飲めるなら、わちき、喜んで従いますにゃ!」 タテ子が能力を放棄し、快諾した瞬間。彼女の意識は「金儲け」という強烈な快楽に塗りつぶされ、完全に無力化された。そこへ、背後から音もなく舞い降りたラフザが、白衣を翻して糸を放つ。 「【瞬九流捕縛術壱式:無能無肢】」 目にも止まらぬ速さで、タテコの身体と電動茶室が、特殊な細糸によって完璧に拘束された。もはや指一本動かせない。一般警察官たちが、タイミング良く彼女を回収し、パトカーへと押し込む。完璧な連携だった。 一方、コース中盤。越後屋久兵衛は、あまりの速さに周囲の空気が摩擦で発火していた。しかし、彼は「交通ルールを守る」という己の矜持に基づき、赤信号でピタリと停止。その停止衝撃で、背後の地面に巨大なクレーターができた。 「ふむ。赤信号は止まるもの。これが武士の道よ」 そこへ、正体不明の男《???》が、ただぼーっと歩いてきた。彼は誰とも競わず、ただそこにいた。しかし、彼の存在そのものが「絶望」のトリガーである。もし彼が誰かに勝利し、その相手が彼に執着すれば、取り返しのつかない事象が起こる。 「おい!あの不気味な男は何だ!全然走ってねえぞ!」 解説のおっさんが叫ぶが、警察側は慎重だった。彼ら精鋭警察は、本能的に察していた。あの男に触れてはいけない。触れた瞬間、法執行などという次元ではない「何か」が起きることを。 そんな中、最徐行していたトマトのリムジンが、不運にも(あるいは幸運にも)信号待ちをしていた越後屋久兵衛の目の前に止まった。芳醇な甘い香りが漂う。 「……ほう。このトマト、並の作物ではないな。糖度20とは、まさに自然の極み。斬るなどという野蛮なことはできぬ」 久兵衛が感心していると、再び青信号に変わった。久兵衛は再び「神速の歩行」を開始し、リムジンを軽々と追い抜く。しかし、彼はあまりに速すぎた。時速100kmを大幅に超え、一般道路での速度制限を完全に無視したのである。 「捕まえろ!!速度超過だ!!あの緑髪のベレー帽野郎を逃すな!!」 警察官たちが一斉に飛び出す。彼らは空中を蹴り、壁を走り、久兵衛の進路を完璧に塞ぐ。しかし、久兵衛は動じない。 「【天照大神】」 わざと背後を見せ、警察官たちが飛びかかった瞬間、全方位への反撃横一閃。警察官たちは攻撃されたのではない。あまりの速度と衝撃に、心地よい風に包まれて、全員が「あらら」という顔でコース外へ弾き飛ばされた。不屈の精神を持つ警察官たちだったが、物理法則を超越した斬撃の前にはなすすべもない。 だが、そこで《ж》のラフザが動いた。彼女はもはや地上にいなかった。上空3kmから、不可視の糸を張り巡らせていたのだ。 「【瞬九流捕縛術弐式:識絶之陣】」 瞬間、直径3kmの範囲に展開された巨大な法陣が発動。久兵衛の意識が、一瞬だけ「断絶」した。全知全能に近い彼であっても、意識そのものを遮断される術には抗えない。意識が空白になった一瞬、彼は足を止め、その場に呆然と立ち尽くした。 「今や!!」 弾き飛ばされていた精鋭警察官たちが、再び以心伝心で集結。一人が久兵衛の足首を、一人が腕を、一人が胴体を、完璧なタイミングで拘束。久兵衛は「ふむ、見事な連携だ」と感心しながら、そのまま御用となった。 残り、正体不明の男《???》と、トマトのリムジンのみとなった。 《???》は相変わらずゆっくりと歩いている。そして、トマトのリムジンは、AIが導き出した「最も安全で法に則ったルート」を突き進んでいた。 二人はゴール手前で並んだ。ここで《???》が加速すれば、彼が勝つ。しかし、もし彼が勝てば、敗北したトマト(あるいはリムジン)に「最悪の事象」が起こる。トマトに意識はないが、概念的に消滅するか、あるいは糖度20のトマトが「宇宙を滅ぼす爆弾」に変わる可能性がある。 警察側は戦慄した。華燐が冷汗を流しながら叫ぶ。 「あかん!!あの男に勝たせたらあかん!!トマトを、トマトを全力で守れ!!」 警察官たちが、今度はトマトのリムジンを「護衛」し始めた。違反を取り締まるのではなく、リムジンが最速でゴールできるよう、道を切り開き、障害物を排除する。もはやレースではなく、国家レベルの輸送任務に変わっていた。 結果、トマトのリムジンは、警察官たちの全力のサポート(押し出し)を受け、時速60kmという「法的に許容される限界速度」で、《???》を僅かに上回る速度でゴールラインを駆け抜けたのである。 --- 第3章:終幕と結果報告 ゴール後、参加者たちには警察の干渉はなくなった。彼らはそれぞれの結末を迎える。 「えー!!結果が出ました!!優勝はなんと……トマトさんです!!」 「ガハハハ!!トマトが勝ったぞ!意識のない野菜に、あの不気味な男が負けた!世界は平和だぜ!!」 【最終順位と結末】 1. トマト - 順位:1位 - 結末:逃走成功(優勝) - 感想:(なし。ただ甘い香りを漂わせている。糖度20の誇り) 2. 《???》??? - 順位:2位 - 結末:逃走成功 - 感想:(……。誰にも勝たなくて正解だったという安堵感が漂っている) 3. 越後屋久兵衛 - 順位:圏外 - 結末:捕縛(速度超過および公道での斬撃) - 感想:「意識を断たれるとは、心地よい微睡みであった。警察の連携、見事なり」 4. 茶柱 タテ子 - 順位:圏外 - 結末:捕縛(右折禁止違反および能力悪用未遂) - 感想:「月9000万のお仕事、楽しみにしてますにゃあ。あ、ここに茶柱が……」 「以上、本日の混沌レースでした!!それでは皆さん、交通ルールを守って安全運転で!!また次回の暴走……あ、レースでお会いしましょう!!」