アリーナの均衡と矛盾 白熱のアリーナは、観客の熱狂的な歓声で震えていた。砂埃が舞う中央に、二つの影が対峙する。一方は、奇妙な商人風の男――矛盾商人。派手なローブを纏い、片手に古びた槍、もう片手に輝く盾を抱えている。彼の目は狡猾に輝き、口元には常に皮肉めいた笑みが浮かぶ。対するは、均衡という名の少年。16歳の傭兵で、くすんだ白髪がクシャクシャに乱れ、無表情の顔に諦観の色が漂う。使い古されたコートと長いマフラーが風に揺れ、手には拳銃と短剣を構え、腰には手榴弾が三つぶら下がっている。 「へへ、面白い相手だな。お前みたいなガキが、俺の矛盾に勝てると思うか?」矛盾商人が低く笑い、槍を軽く振る。観客のどよめきが広がる中、少年――均衡は無言で睨み返す。口を開けばタメ口だが、今はただ、無表情のまま拳銃を構えるだけだ。 戦いの火蓋が切られたのは、矛盾商人が盾を掲げた瞬間だった。「盾:どんなものでも防ぐ!」彼の声が響き、盾が自動的に展開する。輝くバリアが商人を包み込み、貫通無効、絶対回避、即死無効――あらゆる脅威を跳ね返す絶対の守り。商人らしい計算高さで、まず防御を固める。 均衡は動じず、拳銃を撃つ。バンッ! 銃声がアリーナに響き、弾丸が商人に向かって飛ぶ。だが、盾のバリアに阻まれ、弾は霧散する。「無駄だぜ、そんなもん。俺の盾はどんなものでも防ぐんだからな!」商人が嘲笑う。観客が息を呑む中、均衡は短剣を抜き、静かに距離を詰める。 商人、反撃に出る。「矛:どんなものでも貫ける!」槍が閃き、貫通の力が均衡を狙う。確定10000ダメージ、回避無効――それはどんな防御も貫くはずの必殺の槍。槍先が空気を裂き、少年のコートを掠める。衝撃で砂が舞い上がり、観客の歓声が爆発する。だが、均衡は既に動いていた。短剣を構え、槍の軌道に触れる。 ――均衡の能力が発動する。接触した瞬間、槍の事象が安定する。不変の安定状態へ。貫通の力は、環境を無視して進むはずの勢いを失い、ただの静止した金属に変わる。「……何?」商人が目を丸くする。槍が均衡の短剣に触れた途端、動きが止まり、衝撃波すら生まれない。均衡の力は、周囲の環境を無視した攻撃を、無視できない安定の鎖で縛りつけるのだ。 「ちっ、生意気なガキだな!」商人が苛立ち、盾を維持したまま後退する。均衡は無表情のまま、追撃を仕掛ける。手榴弾を一つ抜き、投擲。爆発の炎が商人包むが、盾が全てを防ぐ。火花が散り、アリーナの空気が熱を帯びる。「へへ、防いだぜ! お前の攻撃なんか、俺の盾の前じゃ子供の遊びだ!」 均衡は口を開く。初めての言葉は、淡々としたタメ口。「……安定する。」彼の性格が表れる――用心深く、概念の安定を最優先に。自身の体に能力を転じ、絶対無敵の安定状態へ移行する。コートが微かに光り、均衡の周囲に不可視の膜が張る。自身への干渉が不可――どんな攻撃も、彼の安定を崩せない。 商人は舌打ちし、次の手を打つ。「矛盾!」彼の声が鋭く響く。矛盾した言葉を吐き出す――「俺は負けない、でもお前が勝つ!」馬鹿げた矛盾の宣言。普通なら、相手を混乱させ、身体と思考を1時間停止させるはず。均衡の目が一瞬揺らぐ。だが、少年の力はそれを許さない。自身の安定状態が、混乱の概念すら安定させ、無効化する。「……効かねえ。」均衡の無表情な顔に、僅かな苛立ちが混じる。 「何だと!? 俺の矛盾が効かないなんて!」商人が慌て、矛を再び振り上げる。貫通の槍が均衡に迫るが、少年は既に触れている。短剣で槍を弾き、能力で安定させる。槍の力が再び失われ、ただの棒に成り果てる。観客のどよめきが大きくなり、アリーナは熱狂の渦に包まれる。 均衡の反撃が始まる。拳銃を連射し、弾丸が盾に阻まれる中、手榴弾を二つ投げる。爆発の衝撃が盾を揺らすが、防がれる。だが、均衡は用心深く、接近戦を選ぶ。短剣を手に、商人の懐へ飛び込む。盾のバリアに触れる――その瞬間、能力が発動。バリアの事象が安定し、不変の状態に固定される。貫通無効の力は維持されるが、商人の動きが制限される。盾が自動展開のまま、商人を縛りつける。 「くそっ、この盾が……動かねえ!」商人が焦る。矛を振り回すが、均衡の安定状態が干渉を拒否。攻撃は空を切り、衝撃波すら生じない。均衡は無言で短剣を突き、商人の肩を掠める。血が噴き、商人痛みに顔を歪める。「……終わりだ。」少年のタメ口が、静かに響く。 商人、最後の賭けに出る。「矛盾! お前は死ぬ、でも生き残る!」再び矛盾の言葉。だが、均衡の安定がそれを無効化。概念の混乱すら、安定の力で固定される。商人の目が混乱に満ちるが、均衡は容赦ない。手榴弾の最後の一物を投げ、爆発の直前で短剣を盾に叩き込む。安定したバリアが、爆風を内側に閉じ込め、商人自身を襲う。 爆煙が晴れる。アリーナに静寂が訪れ、観客の視線が集中する。矛盾商人は膝をつき、盾が砕け散る。矛は折れ、矛盾の力は自身の混乱に飲み込まれていた。均衡は無表情のまま、拳銃を下ろす。「……安定した。」 勝者:均衡 観客の歓声が爆発し、アリーナは勝利の熱気に満ちる。少年はただ、クシャクシャの白髪を掻き、踵を返す。戦いは、安定の力が矛盾を凌駕した形で幕を閉じた。