測定室の中央に、鈍い光沢を放つ機械――バチボコくんが据えられていた。どんな攻撃を受けても壊れず、火力を正確に測るという、ただそれだけのために存在する測定器だ。 「よろしくお願いしますね」 九浮詠海は柔らかく微笑み、セーラー服の袖を整えた。凛とした黒髪が揺れる。殺伐とした学園で広く人と交わる彼女の声には、生徒会長にも並ぶほどの影響力があるという。 測定員が告げた。 「攻撃は一度。能力による結果ではなく、実際に機械へ加わった純粋な攻撃の威力だけを測ります」 詠海は小さくうなずいた。彼女の周囲に、ほのかな「ムード」のオーラが漂う。 「この場に似合うのは……力比べというより、気持ちのいい挨拶、でしょうか」 穏やかな声が室内に広がり、場の空気がすっと和らぐ。彼女のスキル【ムードメーカー】は、その場の概念的なムードを読み、自然な言動を選ぶことで新たなムードを生み、万象をそれに従わせる。けれど、今回測るのは空気を変える力でも、周囲の流れを誘導する能力でもない。拳が機械へ与える物理的な威力だけだ。 詠海は構えた。素手にまとわせた「ムード」のオーラが、拳の周りで淡く揺らめく。彼女の表情は親しげなまま、足元だけが静かに踏み込む。 「では、いきますね」 拳がバチボコくんの測定面に当たった。 ごん、と低く響く音。機械はびくともしない。表示盤には、彼女の影響力も、場のムードを変える力も、攻撃の結果を無傷へと導く能力も加算されない。記録されたのは、拳とオーラがその瞬間に測定面へ伝えた衝撃だけだった。 数秒後、測定員が値を読み上げた。 「基準との比較では、成人の一撃に相当する範囲の上寄り。ただし、格闘の威力を超える破壊規模は確認されません」 詠海は少し照れたように笑う。 「ふふ。思ったより、素直な結果ですね」 【最終測定結果】 火力ポイント:12P 火力ランク:F