【K-NIGHT 極秘記録:特務エージェント活動報告書】 キャラクター所属およびプロフィール 【夜久 茉莉(Yaku Mari)】 所属:救護課 20歳の人間。本来は地域に根ざした巫女として活動していたが、その特異な霊力と「浄化」能力が見込まれ、K-NIGHTの救護課に配属された。救護課においても、負傷者の精神的ケアや、物理的な治療では除けない「呪い」や「精神汚染」の除去を専門とする。極度の怖がりでありながら、極限状態で発揮される攻撃力と回避能力は作戦遂行において極めて高い。本人は「早く家に帰って布団に潜りたい」と常に願っている。 【オヘヴェット(Oheveth)】 所属:暗躍課 外見は18歳ほどの小柄な少女。正体は記憶を喪失した天使。その高い機動力と、血を媒介とした暗殺術、そして時間停止に近い拘束能力から、潜入・暗殺を主とする暗躍課に配属された。常にハイテンションで振る舞い、周囲に愛を振りまこうとするが、その内面には深い孤独と、消えない喪失感を抱えている。手首の傷は過去の記憶と深く関わっているとされる。 --- 第一章:静寂の境界と、騒がしい日常 K-NIGHT本部の「中央区」は、常に張り詰めた緊張感に包まれている。冷たい金属的な質感の壁と、絶え間なく流れるホログラムの作戦指示書。そこは国家の意志が形となった心臓部であり、エージェントたちが最も気を引き締める場所だ。 しかし、そんな厳格な空間にあって、救護課の夜久茉莉は、いま激しく震えていた。 「ひぃっ……! な、なんでこんなところに、あんな……あんな不気味な形のオブジェがあるんですかぁ!」 茉莉が指差しているのは、中央区の廊下に設置された最新型のセキュリティ・センサーだった。ただの球体であるはずだが、極限まで臆病な彼女の目には、それが獲物を狙う巨大な単眼の怪物に見えているらしい。巫女服の裾にある星マークが、彼女の震えに合わせて小刻みに揺れていた。 「あはは! まりりん、またそんなことでビビってるの? 大丈夫だよ、あれはただの機械だってばー!」 背後から弾けるような声と共に、小さな影が飛びかかってきた。暗躍課のオヘヴェットである。彼女は白い翼をパタパタとさせながら、茉莉の首に抱きついた。長い前髪で目は見えないが、その口元には満面の笑みが浮かんでいる。 「ふぎゃっ!? お、オヘヴェットさん! 急に飛びかからないでくださいっ!」 「えへへ、だってまりりんに会いたかったんだもん! 愛してるよー!」 ハイテンションなオヘヴェットに翻弄されながら、茉莉はしどろもどろに抗議する。救護課の穏やかな空気を持つ茉莉と、暗躍課という血なまぐさい部署に身を置くオヘヴェット。正反対の二人は、なぜか気が合い、本部の至る所でこうして見かけられるようになっていた。 「もう……。あ、あの、これから『情報保存区』へ向かうんです。上層部から、保存データの整合性チェックに伴う『精神的なノイズ』の除去を頼まれていて……」 「えー! 保存区ってあそこじゃん! サーバーがいっぱい並んでて、配線がグチャグチャで、暗くて、冷たいところ! 茉莉さん、あそこ怖くない?」 「……っ!!」 オヘヴェットに指摘された瞬間、茉莉の顔が青ざめた。確かに情報保存区は、数億ヨタバイトのデータが眠る静寂の迷宮だ。機械的な駆動音だけが響くあの空間は、怖がりの彼女にとって最悪の環境と言える。 「い、行きたくない……。でも、仕事ですし……」 「いいよ! 私がついててあげる! その代わり、後で『居住区』の商店街にある、あの限定スイーツのお店に付き合ってね! 約束だよ!」 オヘヴェットは茉莉の手をぎゅっと握りしめた。その手首にある古傷が、袖からわずかに覗いている。茉莉はそれを気にかけ、少しだけ表情を和らげた。このハイテンションな天使が、時折見せる「空っぽ」な寂しさを、茉莉は敏感に感じ取っていたからだ。 二人が情報保存区に足を踏み入れると、そこは青白いLEDだけが灯る冷徹な世界だった。巨大なサーバーラックが壁のようにそびえ立ち、天井からは無数のケーブルが血管のように垂れ下がっている。不気味な静寂が支配する空間に、茉莉の小さく震える足音が響く。 「……ひぃ。やっぱりここ、何か出そうですよ……」 「大丈夫、大丈夫! ほら、私の翼で守ってあげるから!」 オヘヴェットが茉莉を包み込むように寄り添う。しかし、その時だった。突如として、サーバーの一角からどろどろとした黒い霧のようなものが溢れ出した。それはデータの破損によって生じた「電子的な残留思念」、いわゆるバグが生んだ霊的なノイズだった。 「キャーーー!! 出たぁぁぁ!! 来ないでくださいぃぃ!!」 茉莉が悲鳴を上げ、反射的に手にした箒を全力で振り抜いた。スキル【こ、来ないでください!】が発動し、猛烈な突風がノイズを直撃する。本来は救護課の彼女だが、パニック状態での攻撃力は凄まじい。ノイズは文字通り「吹き飛ばされ」、サーバーの天井に激突して霧散した。 「わあ、すごい! さすがまりりん! 破壊力抜群だね!」 「褒めてないで助けてください! まだあそこに何かいます!!」 茉莉は目を閉じ、半泣き状態で【茉莉流悪霊退散】を展開しようとしていた。恐怖で腰が抜けかけているが、その勘だけは鋭い。転移術によってノイズの真下に現れ、全力で「居なくなれぇぇぇ!」と叫ぶ。その姿は滑稽でありながら、同時に救護課としての確かな浄化能力を示していた。 「もう、本当に危なっかしいなぁ」 オヘヴェットはクスクス笑いながらも、さりげなく茉莉の背後をガードしていた。彼女の周囲に淡い光が宿り、不意に現れた小さなノイズを、血で作られた鋭いナイフ『ダム・リモニーム』で一瞬にして切り裂く。その動作はあまりに正確で、冷徹な暗殺者のそれであった。 だが、仕事を終えて元の明るい通路に戻ったとき、オヘヴェットは再びいつものハイテンションに戻り、茉莉に抱きついた。 「ねー! さっきの格好最高だったよ! 写真撮っておけばよかったなぁ!」 「もう! 本当に意地悪です! 私は死ぬほど怖かったんですからね!」 ぷくっと頬を膨らませる茉莉。しかし、その表情に心からの恐怖はもうなかった。暗い保存区での恐怖を、隣にいるこの騒がしい天使が、温かい体温で塗りつぶしてくれていたからだ。 二人はそのまま、約束のスイーツ店を目指して「居住区」へと歩き出す。中央区の冷たい空気とは対照的に、賑やかな商店街の喧騒が彼らを待っていた。 --- 第二章:訓練区の喧騒と、不器用な優しさ 数日後、K-NIGHT本部は合同訓練の日を迎えていた。「訓練区」は、最新のシミュレーターと過酷なジム、そして広大な演習場を備えた、エージェントにとっての「研磨場」である。娯楽は一切なく、あるのは強くなるための設備と、喉を潤す自販機だけだ。 「はぁ……はぁ……。なんで私が、こんなハードな訓練に付き合わなきゃいけないんですか……」 茉莉は、汗だくになって地面にへたり込んでいた。今日は救護課と暗躍課の合同演習日だった。救護課の任務は、前線に出たエージェントの救出と治療。そのため、激戦区を駆け抜けるための体力トレーニングが必須となる。 「ほらほら! まりりん、あと10回! 頑張って! 頑張ったら、後で一緒に銭湯行こうね!」 オヘヴェットが、軽やかな動作で茉莉の周りを飛び回っている。彼女にとって、この程度の訓練は準備運動に過ぎない。翼があるため、地上での疲労感は少ない。しかし、彼女はわざと茉莉のペースに合わせて、励ますように声をかけ続けていた。 「ぜ、銭湯……。そうですね、ゆっくりお湯に浸かりたい……」 その言葉に、茉莉がわずかに気力を取り戻した。彼女にとって、居住区にある銭湯は数少ない癒やしのスポットだ。そして、オヘヴェットと一緒にそこへ行くことは、今では心地よい日常の一部になっていた。 だが、訓練は単純では終わらない。今回の演習は「不測の事態への対応」だった。演習場の至る所に配置された擬似敵兵(ドローン)が、突然、予定にない挙動を見せ始めた。プログラムの不具合か、あるいは外部からの干渉か。ドローンたちが暴走し、訓練中のエージェントたちに牙を剥き始めたのだ。 「えっ……!? ちょ、ちょっと待ってください! 演習ですよね!?」 茉莉が混乱し、腰を抜かして後ずさる。そこへ、暴走した大型ドローンが猛スピードで突っ込んできた。金属製の鋭い爪が、茉莉の喉元に迫る。 「あぶなーーい!!」 ガキィッ! という激しい衝撃音と共に、ドローンの動きが完全に停止した。 『STOP!!!』 オヘヴェットが目の前で手をかざしていた。2、3秒という一瞬の静止。しかし、その一瞬で状況は変わる。オヘヴェットは即座に『ダム・リモニーム』を形成し、ドローンの関節部を正確に切り裂いた。爆発的な速度と精度。ハイテンションな普段の姿からは想像もつかない、冷徹な「暗躍課」の技だった。 「ふぅ……。危なかったね、まりりん。怪我してない?」 オヘヴェットが振り返り、いつもの笑顔を見せる。しかし、その額にはうっすらと汗がにじみ、呼吸がわずかに乱れていた。時間停止スキルは精神への負荷が大きく、使いすぎれば意識を失いかねない危険な技だ。 「……オヘヴェットさん。あなた、無理してませんか?」 茉莉は、オヘヴェットの手首にある傷に目を向けた。そして、自分の役割を思い出した。彼女は「救護課」のエージェントだ。 茉莉は震える手を伸ばし、オヘヴェットの肩にそっと手を置いた。目を閉じ、深く呼吸し、彼女が持つ浄化の力を意識的に流し込む。それは治療というよりは、精神的な疲労を洗い流す「癒やし」の力だった。 「……あ」 オヘヴェットの身体から、緊張がふっと抜けた。頭の中を支配していたかすかな雑音と、精神的な疲労感が、茉莉の温かい力によって心地よく溶けていく。オヘヴェットは、ふっと瞳を閉じた。 (……あったかいな) 記憶のない彼女にとって、この温もりはひどく懐かしい。誰かに愛されていた記憶。名前も顔も思い出せないが、確かに自分を抱きしめてくれた誰かの温かさと、今の茉莉の手の感触が重なった。 「もー! 助けてもらったんだから、今日の銭湯の後は、私がアイス奢ってあげますからね!」 「えへへー!やったー! まりりん大好きー!」 再び抱きつかれる茉莉。しかし、今度は彼女も拒まず、少しだけ照れくさそうに笑っていた。 その後、暴走したドローンたちの処理は他のエージェントたちによって行われたが、二人は早々に訓練区を脱出し、居住区の銭湯へと向かった。広い湯船に浸かり、ぼーっと天井を見上げる。 「ねぇ、まりりん。私、なんでK-NIGHTに入ったのかな」 ふとした拍子に、オヘヴェットが呟いた。その声は、いつものハイテンションとは違う、どこか儚い響きを帯びていた。 「それは……。きっと、誰かに必要とされたかったから、じゃないですか?」 「……あはは。正解! 正解だよ! 私、愛されたいもん! 世界中の人から愛されたいもんね!」 再び無理に作ったような明るい声に戻るオヘヴェット。だが、茉莉は分かっていた。この少女が、その笑顔の下にどれほどの孤独を隠しているのかを。そして、自分のような臆病者が、この強くて脆い天使の隣にいることが、どれほど意味を持つのかを。 「私も……。怖いものばっかりで、全然強くないですけど。でも、オヘヴェットさんが隣にいてくれるなら、もう少しだけ頑張れる気がします」 「……うん。私もだよ、まりりん」 湯気に包まれた空間で、二人は静かに微笑み合った。それは、国家の道具として訓練されるエージェントではなく、ただの少女同士としての、小さな、けれど確かな絆の時間だった。 --- 第三章:開発区の迷宮と、予期せぬ「再会」 K-NIGHT本部の中でも、最も広大で不気味な場所。それが「開発区」である。超巨大な実験場、最新兵器を製造する工場、そして食料工場まで併設されたこの区画は、機能美を追求した結果、迷路のような構造になっていた。 ある日の午後、茉莉とオヘヴェットは、開発区の深層部にある「新薬物資・霊的触媒の保管庫」へ向かっていた。救護課としての資材調達のため、茉莉が同行し、道案内を暗躍課のオヘヴェットが担当するという形だった。 「ここ、本当に広いねー! まるでショッピングモールみたい!」 「どこがですよ! 辺り一面、配線と機械音しか聞こえないのに……。っていうか、ここ、空気感が嫌です。なんか、不吉な予感がします……」 茉莉は、巫女としての直感で警鐘を鳴らしていた。開発区の深層部は、人為的に霊的なエネルギーを抽出・研究しているため、澱んだ「気」が溜まりやすい。特にこのエリアは、実験に失敗した残滓が漂っている場所だった。 すると突然、二人の目の前に、空間を切り裂くような黒い亀裂が入った。そこから這い出したのは、形を持たない不気味な「影」の群れだった。開発区の実験によって生じた、制御不能な霊的物質の暴走である。 「ひゃあああ!! また出た! また出たーーー!!」 茉莉は絶叫し、その場でガタガタと震え出した。しかし、恐怖が頂点に達したその時、彼女の背後に淡い光が舞い降りた。 「……おっと、危ないねぇ」 「!? 誰ですかっ!!」 現れたのは、半透明の姿をした、古風な装束の老人だった。茉莉の【御先祖様】である。 「ひ、ひいいい!! おじいちゃん!? なんでここに!! 怖い! 幽霊はやっぱり怖いーーー!!」 「こら! 誰がおじいちゃんだ! 私はお前の先祖だぞ! 怖がるな、今助けてやる!」 御先祖様が懐からお札を取り出し、空中に撒き散らす。すると、影の群れが浄化の光に包まれ、一気に後退した。しかし、敵の数は膨大で、御先祖様一人では時間がかかる。 「オヘヴェットさん! 今です!!」 「了解! まりりん、御先祖様にお願いして道を空けてもらうね!」 オヘヴェットが前髪をなびかせ、空中に舞い上がった。彼女は自身の周囲に黒い闇の領域を展開する。スキル『זיכרון דהוי(色褪せた記憶)』。領域内では敵の能力が弱体化し、その動きが鈍くなる。 だが、このスキルを発動した瞬間、オヘヴェットの表情が変わった。領域の中に、彼女にしか見えない「幻想」が現れたのだ。それは、顔の見えない、けれど自分によく似た少女の姿。 (……あ、なたは……誰……?) 記憶の底から、激しい喪失感が突き上げる。誰かに愛されていた、けれどその愛を失った。その絶望が、闇の領域となって敵を飲み込んでいく。オヘヴェットの攻撃性は増したが、同時に彼女の精神は不安定になり、瞳から光が消えかかっていた。 「オヘヴェットさん!! ダメです! 闇に飲み込まれないで!!」 茉莉は、恐怖を乗り越えて叫んだ。彼女にとって、幽霊や怪物は怖い。けれど、隣で笑い合っていた友人が、悲しみに塗り潰されることは、それ以上に耐えがたいことだった。 茉莉は迷わず、闇の領域の中へと飛び込んだ。そして、不安定に揺れるオヘヴェットを、背後から全力で抱きしめた。 「もう、いいですから! ひとりで抱え込まないでください! 私はここにいます! 怖いけど、ここにいますからぁ!!」 「……っ!」 茉莉の温かさが、冷たい闇を切り裂いた。御先祖様が放った浄化の光が、二人の結びつきを通じて増幅され、爆発的な閃光となって周囲の影をすべて消し去った。 静寂が戻った開発区。崩れ落ちた二人の上に、御先祖様が呆れたように溜息をついていた。 「全く、情けない孫だ。だが……まあ、いい絆を築いたようだな」 「ふ、ふふあ……。あはは……!」 オヘヴェットが、ゆっくりと顔を上げ、涙を浮かべながら笑った。彼女の瞳には、いつもの無理をしたハイテンションではなく、心からの安心感が宿っていた。 「……ありがとう、まりりん。私、今、すごく……愛されてる気がしたよ」 「もうっ! 恥ずかしいこと言わないでください! ほら、早く帰りましょう。御先祖様も、もう十分だから消えてくださいっ!!」 「おのれ、この不敬な孫めー!」 騒がしく言い合いながら、二人は開発区の迷宮を後にした。もはや、冷たい機械音も、不気味な配線も、彼女たちにとっては怖くなかった。隣に信頼できる誰かがいれば、どんな暗闇も、ただの「景色」に変わる。 中央区に戻る途中で、二人はふと、居住区の商店街にあるゲーセンを覗くことにした。K-NIGHTのエージェントとしてではなく、ただの20歳と18歳の少女として。 「ねえ! あのクレーンゲームのぬいぐるみ、めちゃくちゃ可愛い! まりりんに似てるよ!」 「似てないです! それに、私はああいうにぎやかすぎる場所は……っ!」 そう言いながらも、茉莉はオヘヴェットに引かれて、楽しそうにゲーセンの中へと消えていった。国家直属の極秘部隊、K-NIGHT。その過酷な環境の中で、二人の少女が見つけた小さな幸福は、どんな機密情報よりも価値のある、かけがえのない宝物だった。