全長200メートル。古びた煉瓦造りのアーチと、温かみのあるガス灯が並ぶ「アバリテ・アーケード」に、風変わりな一行が足を踏み入れた。 そこは、あらゆる次元の「至宝」が、驚くほど良心的な価格で並ぶ魔境。買い物をしない者はいない。しかし、その「良心的な価格」こそが、財布の底をさらけ出す罠であることを、彼らはまだ知らなかった。 「見て見て! この賑わい! まるで物語の舞台に迷い込んだみたいだよ!」 綾芽がマゼンダ色の髪を揺らし、瞳を輝かせて飛び跳ねる。彼女の『風聞』が、周囲から溢れ出す「あそこが安い!」「あれは掘り出し物だ!」という興奮の噂を敏感にキャッチしていた。 「わぁ……。すごい、見たこともない色の魔法道具がたくさんあるよ……」 ロロがしっぽをぴょこぴょこと動かし、感嘆の声を漏らす。彼女の視線は、すでに色とりどりの小瓶や不思議な巻物が並ぶ店に釘付けだった。 「ふふ、実に趣のある場所ですね。たまにはこういう雑多な喧騒に身を置くのも悪くない」 ルチオは赤い煙管をくゆらせ、余裕たっぷりに微笑む。彼にとってこの程度の出費は、かつての「親指」の端金に過ぎない。……はずだった。 「あちしはぁ……ヒック! この酒の匂い……たまらねぇなぁ……! どこかに最高の一杯があるはずだぜぇ……」 クルラホーンちゃんは、すでに足取りがおぼつかない。今日のお供は、脳を痺れさせる強烈な青い酒『蒼雷の蒸留酒』。彼女は鼻をひくつかせ、本能的に酒蔵の方向へとフラフラと歩き出した。 --- 【探偵の好奇心と、魔導士の収集欲】 まず一行が立ち寄ったのは、『次元図書館・古書亭』。綾芽にとってここは聖域だった。 「えっ、この『超常現象の裏付けに関する考察』、たったの500円!? 安すぎるよ! あなた、この本に書いてある推理の手法、わたしが完璧にマスターしてみせるね!」 「綾芽ちゃん、こっちにも凄いのあるよ! 『自動でページがめくれる翻訳魔導書』! 1,200円だって! ボクの鞄にぴったりだ!」 ロロが目を輝かせる。二人は互いに勧め合い、気づけば腕いっぱいに本と書物を抱えていた。 【紳士のこだわりと、妖精の暴飲暴食】 一方、ルチオは『極彩色の仕立屋』に吸い寄せられていた。そこには、彼の好みにぴったりの、シルクのように滑らかな赤色のネクタイピンと、最高級の煙草葉が並んでいた。 「ほう、この裁断、この光沢……。これほどの名品がこの価格で提供されるとは。アバリテ組合の理念には敬意を表します。……あちらのカフスボタンも、セットで頂きましょうか」 計算などしない。ルチオは次々とカードを切っていく。しかし、彼の「オーディンの目」ですら、この店の「まとめ買いセット」の誘惑という未来予測は回避できなかった。 そして、クルラホーンちゃんは『星屑の酒蔵』に転がっていた。 「おっおっ……! この『太陽の雫』って酒、一口飲んだだけで全身がポカポカするぜぇ……! 店主さん、これ全部、箱でくれぇ! ヒック!」 「はいよ! 今なら3箱セットで10%オフだ!」 「最高だぜぇ……! 全部買いだぁ!」 酔拳の達人である彼女だが、酒への出費にブレーキをかける術は持っていなかった。 --- 【出口にて】 200メートルの道のりを歩き終え、ふたたび陽光の下へ出たとき。彼らの姿は、入った時とは大きく違っていた。全員が大量の袋を抱え、肩を落としていた(あるいは満足げに酔っていた)。 「……あ、あれ? 気がついたら、お小遣い全部使っちゃった……」 綾芽が財布を確認し、愕然とする。推理に没頭しすぎた結果、財布の中身は文字通り「ゼロ」であった。 「ボクも……。底なし鞄にたくさん入ったけど、お財布の中が空っぽになっちゃった……」 ロロがしょんぼりと耳を垂らす。 「……ふふ。まさか、カードの利用上限に達するとは。計算外でしたね」 ルチオは平静を装っていたが、その額には冷や汗が流れていた。資産家であっても、このアーケードの「つい買い足し」の魔力には抗えなかったらしい。 「あちしはぁ……もう、歩けねぇ……。でも、酒はたくさん買ったから……いいじゃなーい……zzz」 クルちゃんは大量の酒箱に囲まれて、心地よい眠りに落ちていた。 こうして、彼らは「無駄遣いロード」の洗礼を一身に受け、賑やかな思い出(と大量の荷物)だけを手に入れて、アーケードを後にした。明日からの食事は、おそらくもやしになるだろう。 --- 【アバリテ・買い物リスト&精算書】 ■来路 綾芽 ・『超常現象の裏付けに関する考察』:500円 ・『名探偵の歩き方(完全版)』:800円 ・特製・虫眼鏡付きメモ帳セット:2,000円 ・推理用・古風なパイプ(飾り):1,500円 ・その他、雑多な探偵小説 10冊:5,000円 【支払総額】:9,800円(所持金すべて喪失。完遂) ■ロロ・キュイツ ・『自動でページがめくれる翻訳魔導書』:1,200円 ・光る不思議な魔石(色とりどり):3,000円 ・冒険者向け・万能保存食セット:2,500円 ・小動物用のおやつ(大量):1,000円 ・不可思議な模様の刺繍リボン:1,500円 【支払総額】:9,200円(所持金すべて喪失。完遂) ■ルチオ ・最高級シルクのネクタイピン(赤):15,000円 ・特製・オーガニック煙草葉 銘々盛り:20,000円 ・貴族仕様のカフスボタン・セット:30,000円 ・限定版・レイピア専用メンテナンスキット:50,000円 ・アンティーク調の懐中時計:120,000円 【支払総額】:235,000円(クレジットカード上限額まで到達) ■クルラホーンちゃん ・『太陽の雫』原酒 3箱セット:45,000円 ・『月夜の誘惑』スパークリング 1ケース:30,000円 ・妖精専用・特大ジョッキセット:5,000円 ・つまみ用・激辛次元ナッツ:4,000円 【支払総額】:84,000円(所持金すべて喪失。完遂)