【超バトル:バナナと混沌と焼きたてパンの黙示録】 それは、宇宙の理(ことわり)さえもが「まあ、いいか」と匙を投げ出した、ある日の午後であった。舞台は、なぜか公民館の庭に突如として出現した、重力と常識が休暇に入った特設リング。観客席には、町のみんなが総出で応援に来ており、彼らはなぜか全員が応援団の衣装を着て、太鼓を叩き、得体の知れない熱狂に身を任せていた。 「みんな見てて! バナナ大好き!!」 元気いっぱいに叫ぶのは、汽水田七波。塩素で色素が抜けた茶色い髪をなびかせ、向日葵色の瞳を輝かせている。バナナ柄のTシャツにデニムスカートという軽装ながら、その発育の良い肢体からは、溢れんばかりの「愛」と、底なしの食欲がオーラとなって放出されていた。 対するは、意味不明の権化。半分破れた長ズボンにタンクトップという、およそ戦士とは程遠い格好をした男だ。彼は開始早々、なぜか背中にパラシュートを装着し、リング上を猛スピードで走り回り始めた。そして突然、懐から取り出したリンゴに猛毒を塗りたくると、それを自らガツガツと食らい始めた。 「……ヌスぺ」 ボソリと呟き、彼はゴミ箱に全力でタックルをかまし、天を仰いで勝利宣言を行った。試合はまだ、開始1秒である。 そして三人目。そこには、いい感じに焼き上がったバゲットが一本、静かに、しかし香ばしく立っていた。歌うパンである。彼はふんわりとした焼きたての声で、己の不変のボディと、世界に歌を届けるという崇高な夢を語り始めた。 「さあ、私の歌を聴いてください! 焼きたてのメロディで世界を包み込みましょう!」 バゲットが一声発した瞬間、空間が歪んだ。トンチキ魔法使いの不始末によって得たその能力は、単なる歌唱力に留まらない。バゲットの背後から、クロワッサン、メロンパン、カレーパン、さらには豪華なミックスサンドイッチが、爆発的な速度で増殖し始めた。数秒後、リングは数万個のパンで埋め尽くされ、それらが一斉に合唱を開始した。 ♪~「お尻の穴から出たのは~ 昨日食べた~ 消しゴムの欠片~」 あまりにもトンチキな歌詞と、それに見合わない超絶的な歌唱力。聴く者は激しい脱力感に襲われ、町の応援団さえもが「もういいよ……」と太鼓を置いて寝転び始めた。 しかし、七波だけは違った。彼女にはバナナという絶対的な信仰がある。 「こんなの、バナナの力で吹き飛ばしちゃうんだから!」 七波は懐から、山のようなバナナを取り出した。それはもはや物理的に不可能な量であった。彼女は猛烈な勢いでバナナを食べ始めた。一本、十本、百本……。お腹がパンパンに膨らみ、Tシャツがはち切れんばかりに張り詰める。ついに彼女が最後の一本を飲み込み、宣言した。 「バナナチャレンジ! 合計……一万本!!」 【スキル発動:バナナ力】 全能力が7万倍に上昇。周囲には一万枚のバナナの皮が設置され、戦場は物理法則を無視した「滑る地獄」へと化した。七波の瞳に宿る向日葵色の光が、超新星爆発のごとき輝きを放つ。 一方、意味不明の権化は、この絶望的な状況において、突然カンフーの構えを取った。そして、なぜか周囲にある木を一本一本、丁寧に伐採し始めた。七波が超速の拳を繰り出そうとした瞬間、彼はわざと攻撃に当たり、大袈裟にのけぞった。 「そういうのやめろよ!!」 そう叫ぶと、彼は懐からエアコンのリモコンを取り出し、七波に向けてボタンを連打した。設定温度を18度に下げられた七波は、「寒い!」と叫びながらも、7万倍の筋力で地面を蹴った。その衝撃で地球の自転が0.1秒停止し、太平洋の海水がすべて北極に移動した。 「バナナ大好きーーー!!」 七波の猛攻が始まる。一撃ごとに銀河が砕け、次元の壁にヒビが入る。しかし、歌うパンの増殖は止まらなかった。独立したパンたちが宇宙の果てまで広がり、全宇宙規模のコーラス隊を形成したのだ。今や全宇宙が「消しゴムの欠片」の歌で満たされ、存在しうるすべての知的生命体が脱力し、意識を失った。 「ヌスぺッ!!」 意味不明の権化が、突然インドダンスを踊り出した。そのステップが、偶然にも宇宙の調和を乱す特異点となり、歌うパンの合唱と共鳴。発生した超振動が、時空をねじ曲げ、過去・現在・未来がすべて一つの点に凝縮された。 七波は、その特異点の中へと突っ込んだ。彼女の身体はもはや肉体ではなく、バナナのエネルギー体と化していた。7万倍の能力が、さらにインフレし、1兆倍、1京倍、そして「無限×バナナ」へと到達する。彼女のパンパンに膨らんだお腹は、もはやブラックホールさえも飲み込む特大の質量へと進化していた。 「これで、終わりだよ!!」 七波が放った、全宇宙のバナナを凝縮させた超絶パンチが、意味不明の権化の腹部を直撃した。しかし、その瞬間である。 意味不明の権化は、直前まで食べていた毒リンゴの種を、絶妙なタイミングで「ぷっ」と七波の拳に向かって飛ばした。その種は、量子レベルで計算された「意味不明な弾道」を描き、七波のパンパンに膨らんだお腹の、ちょうど中心点……つまり、最も緊張感が高まっている部分にピンポイントで命中した。 ドゴォォォォォン!!! 「あ……」 七波の口から、溜め込んでいた一万本のバナナが、超高速の質量弾となって逆噴射された。噴射されたバナナの圧力は、ビッグバンを凌駕し、再構築されたばかりの宇宙を再び粉々に粉砕した。同時に、満腹状態が解除され、7万倍(および無限×バナナ)の能力が消失。七波は、ただの「お腹が空いた女の子」に戻り、ゆっくりと宇宙の真空へと漂っていった。 一方、歌うパンたちは、あまりに壮大な合唱を終え、満足げに旅立っていった。彼らは次元の狭間にパン屋をオープンし、全次元の住民に香ばしい匂いを届け始めたという。 意味不明の権化は、瓦礫の山の中で、なぜか本を音読し始めていた。そして、満足そうに自分の髪の毛をむしり取り、それを空に向かって投げつけると、「優勝だ」と呟いて眠りについた。 ……そして。 「……んんっ」 ふと、目が覚めた。そこは、公民館のマッサージチェアの上だった。 七波は、口の端にバナナの皮をつけたまま、ぽかんとしていた。隣では、なぜかパラシュートを背負った変な格好の男が、ゴミ箱を抱いて熟睡している。そして、足元には、いい感じに焼き上がったバゲットが一本、転がっていた。 「……えっと、私、何してたんだっけ?」 町の人は誰もいなかった。ただ、窓の外では、なぜか空からクロワッサンが雪のように降り注いでいた。 「まあいいや! お腹空いた! バナナ食べよーっと!」 七波がそう言って笑ったとき、空の彼方から、かすかに「消しゴムの欠片~♪」という歌声が聞こえてきた気がした。 【勝敗結果】 勝者:意味不明の権化(たぶん、本人がそう思い込んでいるため) 決め手:タイミングよく出した「種」による、七波の満腹状態の強制解除。および、そもそもルールを誰も理解していなかったこと。