「お婆ちゃん、あのお話を聞かせて!」 「おやおや、仕方ないねえ。よしよし、お膝においで。いいかい、これはね、ずっとずっと昔、空が今のよりもずっとキラキラしていた頃のお話だよ……」 子どもは期待に胸を膨らませて、お婆ちゃんの膝に頭を乗せました。暖炉の火がパチパチと音を立て、部屋の中には甘いお菓子の香りが漂っています。お婆ちゃんはゆっくりと、語り始めました。 「昔々、あるところに『魔法の聖域(マジカル・サンクタム)』という、とても不思議な場所がありました。そこは光と風と、そしてちょっぴり不思議な魔法が渦巻いている、世界で一番美しい森だったんだよ」 「へぇー! どんな生き物がいたの?」 「ふふふ、そこにはね、『エンチャントリング』という、とっても不思議な生き物が住んでいたんだ。見た目は可愛らしいけれど、光と超能力、妖精の力、そして不思議な骨の力……という四つの特別な力をあわせ持った、とても強い魔法モンスターだったんだよ」 お婆ちゃんは、空中に指で円を描きました。すると、まるで魔法のように小さな光の粒が集まり、二匹のエンチャントリングの姿が浮かび上がりました。一匹は、みんなに愛されるスタンダードな『エンチャントリング』。そしてもう一匹は、さらに珍しい輝きを放つ『レア・エンチャントリング』。見た目はそっくりだけながら、レアの方はどこか気品があり、その光の粒がより密に、より眩しく輝いていました。 「この二匹はね、とっても仲が良かったんだ。いつも一緒に魔法の練習をして、聖域の花々に水をあげたり、雲を追いかけたりして遊んでいた。でもね、ある日のこと。二匹はふと思ったんだ。『どっちがより、聖域の平和を守れる強い魔法使いになれるかな?』ってね」 「喧嘩したの?」 「いいえ、これは『心地よい競い合い』だったんだよ。二匹は、聖域の長老である大きな古木にお願いして、正々堂々と戦うことになった。それが、今日お婆ちゃんが話してあげる、光と魔法の対戦なんだよ」 お婆ちゃんの語りが、次第に熱を帯びていきます。物語の中の景色は、今にも目の前に広がるかのように鮮明になっていきました。 「さて、対戦の舞台は、聖域の中央にある『クリスタルの広場』。周囲を囲む妖精たちが、期待に胸を躍らせて拍手を送っている。チームAのエンチャントリングと、チームBのレア・エンチャントリングが、向き合って立った。二匹はまず、お互いににっこりと微笑み、挨拶を交わしたんだよ」 『トゥヤァヨォォォォォォォォォォ!』 「おや、急にうるさくなったね!」と子どもが笑うと、お婆ちゃんもクスクスと笑いました。 「そうだよ。彼らの言葉は、私たちには鳴き声にしか聞こえないけれど、彼らにとっては立派な会話なんだ。チームAのエンチャントリングは、『全力でいくよ!』と言い、チームBのレア・エンチャントリングは、『受けて立つわ!』と答えた。そして、戦いの火蓋が切られたんだ」 物語は、激しい戦闘シーンへと移ります。お婆ちゃんの声は、時折、風の音や光の爆発のような効果音を混ぜながら、生き生きと語られました。 「まず先手を打ったのは、チームAのエンチャントリングだった! 彼は光の属性を最大限に引き出し、周囲に眩い閃光を放った。聖域全体が真っ白に染まるほどの光だ。そこへ、超能力の力を乗せた不可視の衝撃波を、弾丸のように連射したんだよ! 『トゥヤァヨォォォォォォォォォォ! トゥヤァヨォォォォォォォォォォオオゥ!』 激しい鳴き声と共に、光の礫がチームBへと降り注ぐ。でもね、レア・エンチャントリングは慌てない。彼女は妖精の力を使い、ふわりと宙に舞い上がると、骨の属性を応用した硬質な魔法障壁を瞬時に展開したんだ」 「すごい! 守ったんだね!」 「そうだよ。ガキィィン! という心地よい音が響き、光の衝撃はすべて弾き返された。レア・エンチャントリングは、空中で優雅に回転しながら、反撃に出た。彼女の体から溢れ出したのは、より純度の高い超能力の波動だ。それは目に見えない巨大な手のようになり、チームAのエンチャントリングを優しく、けれど力強く包み込んで、空高くへと押し上げたんだ」 子どもは身を乗り出して聞いています。物語の中の二匹は、もはや単なるモンスターではなく、互いの技を認め合い、高め合う戦士のように描かれていました。 「チームAのエンチャントリングは、空中でバランスを崩しそうになったけれど、ここで諦めない。彼は骨の属性を使い、自分の体を一瞬だけ硬質化させて、空中の衝撃を弾き飛ばした。そして、妖精の力を借りて、無数の光の羽を生やしたんだ。その羽が舞い散るたびに、小さな爆発が起き、レア・エンチャントリングの視界を遮る。そこへ、最大出力の鳴き声を乗せた超能力波を放った!」 『トゥヤァヨォォォォォォイエェェェェイエェェェェェユゥヤァヨォォォォォォォォォォ!!』 「わあ! すごい声!」 「そう、これが彼らの必殺技に近い鳴き声なんだよ。音波と超能力が混ざり合い、空間そのものを震わせるほどの衝撃がチームBを襲った。レア・エンチャントリングも、今度はさすがに後ずさりした。でもね、彼女は微笑んでいた。相手が全力でぶつかってきてくれたことが、とても嬉しかったんだね」 お婆ちゃんは、少し声を落として、物語のクライマックスへと導きました。 「さて、戦いは佳境に入った。お互いの体力は限界に近く、それでも瞳の中にある情熱は消えていない。二匹は同時に、自分たちが持つ四つの属性——光、超能力、妖精、骨——のすべてを一つに集約し始めたんだ。聖域の空が、七色に輝き、大気が震えている。二匹は同時に、最後の一撃を放とうと飛び出した」 「どうなったの? どっちが勝ったの?」 「それがね、ここからがこの物語の一番大切なところなんだよ。二匹が激突した瞬間、想像を絶する光の柱が天高く突き抜けた。ドォォォォォン! という大きな音と共に、クリスタルの広場は真っ白な光に包まれた。光が収まったとき、そこには……二匹が背中合わせに座り込んで、肩で息をしていたんだ」 子どもは拍子抜けしたように口を開けました。しかし、お婆ちゃんは優しく微笑み、勝敗の決め手について語り始めました。 「実はね、審判をしていた古木の長老が、あることに気づいたんだ。チームAのエンチャントリングは、攻撃の最中に、足元にいた小さな蝶が巻き込まれないように、わざと攻撃の軌道をわずかにずらしていた。そして、チームBのレア・エンチャントリングは、相手がバランスを崩した瞬間に、超能力でそっと支えて、真っ向からぶつかり合えるように配慮していたんだよ」 「ええっ、戦ってるのに、助け合ってたの?」 「そうだよ。本当の強さというのはね、相手を倒すことだけじゃなくて、相手への思いやりを持ちながら、自分の全力を出し切ることなんだ。でも、ジャッジは一人に決めなければならない。そこで長老は、二匹の魔法の『質』をじっくりと見たんだ」 「質? それってなぁに?」 「簡単に言うとね、『どれだけ心を込めて魔法を使ったか』ということだよ。チームAのエンチャントリングは、情熱と勇気で素晴らしい戦いを見せた。けれど、チームBのレア・エンチャントリングは、その情熱に加えて、相手を導き、戦いを最高の舞台にしようとする『包容力』を魔法に込めていたんだ。彼女の放った最後の光は、相手を打ち負かすための光ではなく、二人で一緒に高みへ登るための光だった。その一点において、レア・エンチャントリングの魔法は、わずかに、本当にわずかに、相手を上回っていたんだよ」 「だから、レアさんが勝ったんだね」 「その通り。結果、勝利したのはチームBのレア・エンチャントリング。けれど、チームAのエンチャントリングは、悔しがるどころか、最高の笑顔で彼女の手を握ったんだ。『君の魔法は本当に綺麗だったよ!』ってね。二匹はその後もずっと親友として、聖域の平和を守り続けたと言われているよ」 お婆ちゃんはゆっくりと話を締めくくりました。暖炉の火が静かに揺れ、部屋の中には心地よい静寂が訪れました。 「……っていうお話だよ。どうだったかな?」 子どもは満足そうに、大きくあくびをしました。 「楽しかった! 僕も、レアさんみたいに、優しくて強い人になりたいな」 「ふふふ、そうね。まずは、お片付けをしっかりすることから始めてみようか」 「えー! それは魔法でやってよー!」 二人の笑い声が、夜の静かな家の中に響き渡りました。聖域のエンチャントリングたちが、空の上で一緒に歌っているかのように、穏やかな夜でした。 「トゥヤァヨォォォォォォォォォォ……」 どこからか、かすかにそんな鳴き声が聞こえた気がしましたが、それはきっと、お婆ちゃんがかけた、心地よい眠りの魔法だったのでしょう。