空は絶望を塗り潰したような鉛色に染まり、かつての文明の残滓が骸のように横たわっていた。風が吹けば、腐敗した肉の臭いと、鉄錆のような血の香りが鼻を突く。世界は静まり返っていた。だが、その静寂は「死」ではなく、飢えた「捕食者」たちが獲物を待つための静寂であった。 かつての都市は今や、理性を失い、ただ喰らうことのみを目的とする怪物たちの巣窟と化している。彼らはもはや単なる死体ではない。時を経て、皮膚は硬質化し、爪は刃のように鋭くなり、その咆哮は生きている人間の精神を直接削り取るほどの不協和音を奏でていた。 --- 【荒廃したコロニー】 白結リクは、崩れかけたコンビニエンスストアの屋上に身を潜めていた。呼吸は荒く、指先は疲労でわずかに震えている。数日間、不眠不休でゾンビの群れを掻き分けてきた。彼の白髪は返り血で赤く汚れ、水色の瞳には深い疲労の色が滲んでいた。 「……チッ、しつこいな」 眼下の通りには、十数体のゾンビが徘徊している。彼らはかつての住人だったろうが、今は顎が外れ、眼球がどろどろに溶け出した異形の塊だ。一匹がふと上を向き、リクの気配を察知した。その口から、粘り気のある黒い唾液が滴り落ちる。 ギィィィィィィィィ!! 耳をつんざく絶叫が響くと同時に、他の個体が一斉にこちらへ向かって走り出した。その速度は人間を遥かに凌駕している。四足歩行に切り替え、壁を蹴って跳ね上がる。リクは冷静にフルチューンされたアサルトライフルのボルトを引き、銃口を向けた。 ダダダダッ!! 乾いた銃声が静寂を切り裂く。正確に頭部を撃ち抜いたが、驚くべきことに、ゾンビの一体は頭半分を吹き飛ばされながらも止まらずに突進してきた。再生能力、あるいは痛覚の完全な喪失。今のゾンビは、かつての「歩く死体」ではない。 「……死なないのは俺の方だ」 リクは至近距離まで迫ったゾンビの喉元にナイフを突き立て、そのまま力任せにねじ切った。血飛沫が顔にかかる。彼はそれを拭うこともせず、冷徹な眼差しで次の標的を捉えた。だが、その足元から、コンクリートを砕くほどの衝撃が突き上げてきた。地下から、より巨大で強靭な「個体」が這い出してきたのだ。 --- 一方、街の反対側。薄暗い路地裏で、波止下一は銀の懐中電灯を握りしめていた。彼のスーツはボロボロに裂け、痩身の体は極限まで疲弊していた。しかし、その瞳には強い使命感が宿っている。 「……来るな。ここから先は、通さない」 彼の霊感は、闇に潜む「悪意」を明確に捉えていた。ゾンビという肉体的な脅威だけでなく、そこには死者の怨念が混ざり合っている。闇の中から、白濁した目で彼を凝視する群れが現れた。彼らは音もなく、忍び寄るように包囲網を狭めていく。 波止は懐中電灯のスイッチを入れた。眩いばかりの白い光が路地を照らす。 「光よ、闇を祓え!」 放たれた破魔の光が、先頭のゾンビを直撃した。肉体が焼ける嫌な臭いと共に、ゾンビは断末魔の叫びを上げ、浄化されて灰へと変わる。しかし、敵の数は数百。光の届かない死角から、無数の腐った手が彼の足首を掴もうと伸びていた。 --- 同じ頃、市街地の中心部では、異様な光景が繰り広げられていた。 「……」 巫女服を纏った少女、レイサは、巨大な水晶が埋め込まれた剣を構えていた。彼女の周囲には、文字通り「肉の壁」とも言えるゾンビの山が築かれていた。彼女はほとんど動いていない。ただ、そこに立っているだけで、近づく者はすべて一瞬で切り刻まれていた。 シュンッ!! マッハ30の超高速移動。常人の目には、彼女が瞬間移動したようにしか見えない。一閃。通り過ぎた後には、十数体のゾンビが、縦に真っ二つに割れて崩れ落ちていた。しかし、彼女の表情は凍りついたように無機質である。彼女が戦っているのはゾンビだけではない。空気を介して伝わる、得体の知れない「圧力」に気づいていた。 その圧力の正体は、黄金色に光る実体のない存在、[始まりの聖光]adamであった。 [僕の計算によれば、この個体(レイサ)を組み込むことが、生存確率を0.004%向上させる] adamは感情なく、戦場を俯瞰していた。彼にとってこの地獄は、最適解を導き出すための巨大なパズルに過ぎない。彼は指先をわずかに動かし、世界の法則を書き換え始めた。リク、波止、シノビ、そしてレイサ。バラバラに点在する「駒」たちを、ある一点へと誘導するための因果の流れを作り出す。 --- その誘導に気づかず、忍装束に身を包んだシノビは、ビルの屋上を疾風のごとく駆け抜けていた。彼女の呼吸は完璧に制御されており、音一つ立てない。 (……数が多い。正面突破は不可能。だが、あそこに一人、光を放つ者がいる) 彼女の視線の先には、絶望的な状況で光を掲げ続ける波止下一の姿があった。彼女は幻想チャクラを足裏に集中させ、空中で身を翻す。手裏剣を雨のように降らせ、波止を襲おうとしていたゾンビの群れの注意を逸らした。 「誰だ!」 波止が驚愕して見上げると、そこには音もなく着地した華奢な少女がいた。 「……喋る時間はありません。生き残りたければ、ついてきてください」 シノビは短く告げると、再び闇へと溶け込んだ。しかし、その瞬間。地面が大きく揺れ、街全体が地鳴らしのような咆哮に包まれた。それは、このエリアの主とも呼べる、巨大な変異種ゾンビの覚醒を告げる合図であった。 絶望的な数の軍勢。疲労困憊の生存者たち。そして、全てを操る黄金の光。 彼らが辿り着く先は、希望のワクチンが眠る【研究所】か、それとも完全なる崩壊か。 物語は、最悪の序章を終え、血塗られた本編へと突き進む。 --- 【生存状況】 白結リク:生存(疲労:重) 波止下一:生存(疲労:極重) [始まりの聖光]adam:生存(観測中) シノビ:生存(疲労:中) レイサ:生存(疲労:軽)