第一章:草原に舞う緑の災厄 見渡す限りの緑。風に揺れる背の高い草が、波のようにうねる中世の草原。その静寂は、地響きと共に唐突に破られた。 「……何、あれ」 リネルが呆然と呟き、手にした『R.Bell』の杖を握りしめる。彼女の視線の先、地面が不自然に盛り上がり、爆発するように土が舞った。そこから現れたのは、想像を絶する巨体を誇る、芋虫に似た異形の生物――『大芽食らい』であった。 その生物は、周囲の高い草を物ともせず、むしろその緑をなぎ倒しながら、不気味な速度で地を這う。新芽を食らう災害として恐れられるその存在感は、ただそこにいるだけで圧迫感に満ちていた。 「祈りを止めよ。既に貴様は見放された」 冷徹な声が響く。VeN.Xが、ガスマスク越しにその巨躯を見据え、身の丈に近い銅鎌を静かに構えた。彼は神などという救いを信じぬ。あるのは目の前の敵を断つという確信のみ。 「主よ御手もて引かせ給え」 鈴篠は静かに呟き、黒いコートを翻して銃口を向けた。彼女の瞳には、契約という逃れられぬ運命が宿っている。一発一発に意味を持たせ、刻の理に従って引き金を引く準備を整えた。 一方、望は冷ややかな笑みを浮かべ、闇に染まった心でその化け物を眺めていた。彼女にとって、この混乱こそが平等な不幸の始まりに過ぎない。 「ふーん……大きすぎて、狙いやすそうね」 リネルが無愛想に呟いた瞬間、大芽食らいが急激に加速した。それは突進というより、巨大な質量を持った弾丸が突き進むような速度だった。回避しきれないほどの速さで、生物はリネルへと襲い掛かる。 「しまっ――!」 リネルが咄嗟に杖を振りかざし、ベルを鳴らす。魔法『鐘音麻痺(トーンパルシー)』。空気を震わせる鋭い音が広がり、突進していた大芽食らいの動きが一瞬、不自然に硬直した。しかし、その巨体は慣性によって止まりきらず、リネルをかすめて草原を深く抉る。 「チッ、しぶといな」 VeN.Xが間髪入れずに踏み込み、禍々しい緑青色の鎌を振り上げる。【神嗤う死神の大鎌】が空を切り、異様な軌道で大芽食らいの分厚い肉を切り裂いた。しかし、斬撃は浅い。この生物の皮は異常に厚く、並の攻撃では表面を撫でるに過ぎなかった。 「……いい加減に、どいて」 望が冷たく言い放ち、その能力で大芽食らいの特性を模倣しようと試みる。龍の力を帯びた模造攻撃が巨体に叩き込まれるが、相手は鈍重に耐え、そのまま巨体で周囲を押し潰そうと暴れ出した。 激しく身をよじる大芽食らい。その一振りで、周囲の草木がなぎ倒され、参加者たちは翻弄される。戦いはまだ始まったばかりであった。 第二章:泥濘と潜伏の攻防 草原はもはや戦場へと変わり、踏みにじられた草から青い汁が溢れ出していた。大芽食らいは、自分を攻撃してきた者たちへの苛立ちをぶつけるように、激しく地面を叩き、暴れ回る。 「やっぱり、普通の攻撃は効かないみたいね……」 リネルは後方に飛び退きながら、周囲に火球を召喚した。魔法『炎周展開(フレイムバーン)』。いくつもの小さな太陽が彼女の周囲を舞い、次々と大芽食らいへと射出される。爆炎が巨体を包み込み、肉を焼く不快な臭いが漂うが、それでも生物は止まらない。むしろ熱に刺激されたかのように、その動きはさらに激しさを増した。 「無駄な足掻きだ。絶望こそが唯一の真実よ」 VeN.Xは冷酷に言い放ち、再び鎌を振るう。しかし、大芽食らいは不意にその巨体を地面へと沈ませた。土煙が舞い、視界が遮られる。姿が見えなくなった生物に、一同に緊張が走る。 「どこへ……」 鈴篠が銃口を地面に向け、慎重に周囲を警戒する。刻の弾丸が放たれるのを待つ静寂。だが、その静寂は長くは続かなかった。鈴篠の足元から、凄まじい勢いで大芽食らいが突き出してきたのだ。奇襲。地中を潜り、最短距離で獲物を仕留める本能的な攻撃だった。 「っ!」 鈴篠は瞬時に跳躍し、空中で弾丸を撃ち出す。弾丸は正確に大芽食らいの頭部を捉えたが、厚い外殻に弾かれ、火花を散らすのみに終わった。その隙に、横から伸びてきた巨体にリネルが巻き込まれそうになる。 「離しなさいよ!」 リネルは至近距離で、不完全ながらも大魔法『焰(フランメ)』を解放した。どす黒い炎が広範囲に広がり、大芽食らいの肉をじりじりと焼き焦がす。延焼しないはずの炎が、その巨体を黒く塗りつぶしていく。生物は苦痛に悶え、再び激しく暴れ出した。 「ふふ……いい顔。みんな等しく苦しめばいい」 望が冷笑しながら、龍の力を纏い攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃が自身の特性である『龍纏』を刺激し、予期せぬ衝撃が彼女を襲う。龍属性の連鎖が起こり、ダメージは跳ね上がるが、同時に彼女の闘争心も加速していく。 戦いは泥沼化していた。どれほど攻撃を加えても、大芽食らいの生命力は底知れず、その肉壁は突破できない。それでも彼らは、互いの背中を預けるわけではなくとも、共通の敵を前にして、それぞれの信念に基づいた攻撃を繰り返していた。 第三章:終焉への暴走と消失 陽が傾き、草原が赤く染まる頃、大芽食らいの動きに変化が現れた。疲弊しているはずの生物が、かえって狂乱したかのように暴れ始めたのだ。それは、この戦いの最終段階――《暴食の突進》だった。 「これは……まずい」 リネルが戦慄する。大芽食らいはもはや個別の敵を狙っているのではない。ただ、目の前にある全てを蹴散らし、食らい尽くそうとする破壊の化身と化していた。凄まじい速度で突進し、その巨体で全てを押し潰しながら、草原を蹂躙していく。 「どけ! 巻き込まれるぞ!」 VeN.Xが叫び、鎌で突進の軌道を逸らそうと試みるが、質量差に抗えない。凄まじい衝撃波が走り、彼は大きく弾き飛ばされた。それでも彼は不気味な笑みを浮かべ、ガスマスクの奥で冷徹な眼差しを崩さない。 「……主よ」 鈴篠は、残された最後の弾丸を見つめていた。刻の契約。7発目の弾丸は、『刻』が望む場所へ放たれる。彼女は静かに引き金を引き、運命に身を委ねた。弾丸は不規則な軌道を描き、大芽食らいの最も柔らかい部位へと吸い込まれるように突き刺さった。 その瞬間、望の瞳が緋色に染まった。覚醒。緋眼状態となった彼女は、龍の力を最大限に解放し、大芽食らいの突進へと真っ向からぶつかった。 「壊れなさい! 全部!!」 龍の咆哮と共に放たれた一撃が、大芽食らいの巨体を激しく揺さぶる。肉が裂け、内部の組織が露わになるほどの衝撃。しかし、生物はなおも止まらず、暴走を続けていた。リネルもまた、全魔力を込めた鐘音の波動を放ち、その動きを遅らせようと必死に杖を振る。 だが、不意にその暴走が止まった。 大芽食らいは、満足したのか、あるいは十分な獲物を得たのか。最後にもう一度大きく地面を叩くと、そのまま深く、深く地面へと潜っていった。土煙がゆっくりと舞い上がり、視界が開ける。しかし、そこに生物の姿はもうなかった。 どれほど叫び、どれほど攻撃しても、地中から再び現れる気配はない。ただ、そこには無惨に切り裂かれ、焼け焦げた草原が広がっているだけだった。 「……行っちゃった」 リネルが呆然と呟き、杖を肩に担いだ。VeN.Xは静かに鎌を収め、望は緋色を消した瞳で虚空を見つめ、鈴篠は空になった薬莢を一つ、静かに拾い上げた。 決着はつかなかった。だが、彼らがこの巨大な災害と対峙し、生き延びたという事実だけが、静まり返った草原に残されていた。 合計与ダメージ:742ダメージ